第2話 黄土色の外套

「ここは、一体どんな場所なのです?」

ひしゃげた声で私は問いかけた。

フィラメントは、磨いていたコーヒーカップをカウンターに置き、白手袋を付けた手で、位置的には顎辺りを摩るような仕草をした。

「ここは……そうですね、思念の道端、時間の流れない砂時計、人道を是とする者にとっての外道の最たる場……我々はそう依んでいます」

フィラメントが答える言葉に私は理解を示すことはできなかった。

意味を噛み砕き、飲み込もうとして、頭を抱えている時に、常に黄昏入りの空が染めるドアが音を立てずに開く。

風を感じた。

私はその存在には気付かなかった。


「いらっしゃいませ」


フィラメントの声は、黄土色の外套を深く被ったヒトの形をとった者に向けられ、私の隣に腰をかけた。

私はやっと、ソレに気づいた。


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎」


彼の意味不明の声にフィラメントは、

承りました。と言い

戸棚の中から黄金に輝く液体を取り出し、ショットグラスに注ぎ、ソレの前に置いた。


「蜂蜜酒でございます」


フィラメントは、手慣れた様に見えた行動を終わらせた。



「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎^ ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の、」

聞き取れない。

「えぇ、そうですね」

フィラメントが返答を返している。

「か⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。し⬛︎⬛︎か⬛︎⬛︎?」

「いえ、迷い子みたいで」

「あー、ど■■で、怪訝そうな、かぉをしてると思った」


聞こえた。

どういう訳か、ソレの聲は明白に聞こえた。


「コンにchiは?」

ソレはうつろに開いた外套の間を私に向け、私に挨拶をされた。


「こんにちは」

「おぉ、返された。この子は人間かい?珍しくねぇ。返せるとはね」

嬉しそうに、噛み締めるように、ゆっくりと言った。


ひとときの静寂が流れた。


何物であるか分からないものと面を向かわせ、空虚を見つめた。目を離してはならない。脳が警鐘を鳴らす。



「そんなに見つめないでおくれよ。照れるだろう?」


私は、最大限注意を払った。発言を、目線を、息をも自分の意思を殺して、ソレにヘタな刺激をしないように徹した。

それからは記憶が曖昧だ。

精神がすり減り続け、何をしたか、話したかも覚えていない。

ただ、

「じゃ、また来るよ」

アレが去った時には、私が存在していること自体が何もなかった。という証明になった。

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