中学生がヤンデレになって最終的にタイヘンなことになる話

@satousaitou

第1話

一日目


「やはり、こちらにいらっしゃったのですね。雄家さん、貴方は何故いつも一人悲しくお昼ご飯を食べようとするのですか」

8月。蝉の鳴き声と燃える暑さに身を焦がす時期。

何処からか現れた白髪の女性が僕に近づく。

「ほら、汗が出ていますよ」

彼女は、セーラー服の胸ポケットから取り出したハンカチで僕の顔を拭う。

「あ、ありがとう」

前かがみになって、少し露になった胸元から咄嗟に目線をそらし、謝辞を述べる。

彼女、美姫は僕の隣に腰を落とし弁当箱の包みを空ける。

「………教室には冷房が効いていますのに、どうしてわざわざこちらに?」

「え、あーー……っと」

言葉に詰まる。

――――嫌だから、いつも僕は誰の目にもつかない場所に隠れている。

――――そんな自分が嫌いだから。嫌いで仕方が無いから。

――――自分のこの感情はきっと、良くないもので、汚れたものだから。

――――いまだって、本来であればだれも近寄ることのない、校舎裏に流れる川の小さなトンネルの中で一人佇んでいたのだ。

「あ、あの、美姫」

「はい、なんですか」

けれどどうしてか最近、彼女がそんな風に他者から距離を取ろうとする僕を探し回るようになった。

なんで、僕に構うの?

そう問おうと思った。

けれど口をついた言葉は自分の意思とは異なっていた。

「いや、えっと。今日は、熱いね」

ひよった。

いやだってさ、彼女何考えてるか全然分かんないだよ。

無口で、無表情で、無感情。何を考えているかさっぱりわからない。

「そうですよ。そうですか。………そうですね」

ふむ、と下顎に手を当て、何かを考える仕草をする。

あれ、僕そんな考えるようなこと言ったっけ。

「……ふむ」

そして、何かを考え付いたのか僕の方に向き直った彼女は。

「…………………暖かい……」

僕の額に手を当て、一言声を零す。

無論、突然頭を触られて、混乱する僕の思考をよそに

「ふむ。………………身が細いですね」

僕のワイシャツの下に手を潜らせ、脇腹や胸などを撫でまわされる。

落ち着け、雄家。考えるな。彼女にとってこれは当たり前の事なんだ。それを僕が深く意味を取るのは汚れた思考だ。

「うん。自分で言うのもあれだけど、僕は運動しないからね。瘦せ型なんだ」

「ちゃんと運動して、ちゃんと食べてください」

「うん」

「少しは身を太くしてください」

「うん」

「そして、私を食べられるぐらい強くなってください」

「うん!?」

「冗談です」

笑わず無表情で元の位置に戻る。

なんだ、もしかして今僕はからかわれたのか。

冗談とか言うんだ、美姫。

 

「それじゃあ、私はこれで。また来ます」

それからは何の会話もなく、ただ黙々と彼女がご飯を食べるだけの時間だった。

そして、完食し終えた彼女は一言言い残し、去っていった。

 

 

「よっ、雄家。元気してっか?」

それからしばらくたって、誰かに呼ばれる声に目を覚ます。

どうやら、あれから眠ってしまったようだ。

目の前の、見るからに活発そうな少女、惷課は僕の友達だ。

いや、そう思っているのは僕だけかもしれない。

いや、そう考えるのは失礼かもしれない。

一方的に関係を絶ったのは、僕自身なのだから。

「うん。まあ、元気っちゃ元気だよ」

「そか。そこ座っていいか?」

「いいよ」

僕の隣、少し間隔を空けて彼女は胡坐をかいて座った。

ショートカットの、どこか活発な少年のような少女が口を開く。

「なあ、雄家。お前って、好きなやつとかいんの」

「藪から棒だね。好きな人ね。今のところはいないかな」

「じゃあ、気になる女子は?」

「たくさんいる」

「た、たくさんいるのか」

「うん」

正直に答える。

好きな人間はいないが、気になる異性と言われれば全員と答えざるを得ない。そうでなければ、僕はわざわざこんなところで一人でいる必要はない。

「そこに、私は入ってるか?」

「うん」

「………そうか」

一瞬空いた間の後に、一言彼女が零す。

「それは、うれしいな」

「そう」

 

そしてしばらく、他愛のない談笑を行った所で。

「実は私な。今日、お前に相談があってきたんだ」

と、いきなり真剣な表情で僕に語る。

「でも、なんか、今日は話す気分じゃなくなっちまった。けど、また明日も多分私はお前の所に来る。その時に聞いてくれるか?」

勿論、と僕は答えた。

僕の返事を聞いた彼女は、安心したのか、胸を撫でおろし。

「今日はありがとな。またくるぜ」

そう言って、僕の前から去っていった。

遠ざかる彼女の背に

「こちらこそ、ありがとう」

そう呟いたが、恐らくは届いてはいないだろう。

 

 

 

「こんばんは~。遅くまでなんでこんなところにいるん?」

また少しして、僕は目を覚ました。

上下、体操服の彼女を見て、部活帰りであるのだと理解するのに、そう苦労はしなかった。

「んー趣味かな」

今度は嘘をついた。

「はへー。変わった趣味をお持ちで」

そして、何も言わず僕の隣に座る。

「こんなあっちー所にずっといるとかマジで変わってるの。耐久力エグいな」

「お褒めに預かり光栄だよ」

「褒めてねーよ」

頭を小突かれる。

「部活はどう、順調?」

「おかげさまでな~。まったく、急に部活止めるって言いだしたときはぶん殴ってでも止めようと思たけどな。ちゃーんと引継ぎとかかけた穴を埋める奴の補充とか、そういう微調整しやがって。殴り損ねたじゃん」

「ははっ、ごめん」

 

「……ま、戻ってくる気になったらいつでも来いな」

「うす」

「ん。それじゃ私は帰るわ。あんまり遅くなって怒られるのも嫌だしな~。お前もはよ帰れよ~」

再び自転車に跨って、彼女は去っていった。

 

「言われなくても、分かってるよ」

 

二日目


「おはようございます、雄家さん。こんなに朝早くにこんな場所にいるなんて。少し驚きました」

「おはよ、美姫。真面目なのか不真面目なのかの捉え方は君に任せるよ」

 トンネルの入口、黒い鞄を背にした白髪の少女がいた。

 昨日見せたのと同じ無表情で、彼女はそこにいた。

「これを、受け取ってください」

 青い包みを僕に差し出す。

 なんだかわからないけれど、とりあえず受け取ってみることにした。

「お弁当です。お口に合うかどうかわかりませんが」

「え」

「どうやら、雄家さんはお弁当を持ってきていないらしいので。ご迷惑とは思いますが作ってまいりました」

 僕の為にわざわざ作ってきてくれたのか。

「あ、ありがとう」

 謝辞を述べる。

「昼時まで開けないでください。保冷剤が溶けてしまいます」

「分かった」

 では、とそれだけ言って、足早に彼女は去っていった。

 少し冷たい青い包みを抱きかかえて、再び僕は、眠りにつくとした。

 

「お、珍しいな。今日はちゃんと食うもん持ってきてるのか」

 昼のチャイムが鳴る。

 そして、それを聞いて青い包みを空けようとする僕の元へ、惷課が現れる。

 そして、意外そうに僕の手元の弁当箱を眺め、そのまま僕の正面へと座る。

 彼女の手にも、包みがった。

「持ってきたというか、頂いたというか」

「………?まあ、よくわからんが、食うもんがあるってのは良い事だよな」

「うん」

 弁当箱を空ける。

 梅干しが乗ったご飯。卵焼き、ゆで卵、塩が振りかけられたサラダに、ウィンナー、スクランブルエッグ。

 卵の主張激しいな。

 などと、内容物に対して心中で感想を述べている最中。

「実はな、私いじめられてるみたいなんだ」

 唐突に、彼女はそう言った。

 少しはにかみながら、冗談半分といった様子で。

「……それが、昨日言ってた相談したいことってやつ?」

「そうだ。乗ってくれるか?」

「無論ですよ」

 

「実は、なんでいじめられているかの理由はだいたい検討が付くんだ」

「ほう」

「お前のクラスにさ、京畿って男子いるだろ?あのサッカー部のエース」

 誰だ。

 全然分かんない。

「ああ、あいつね」

 でも、ここで話の腰を折るのも嫌なので、とりあえず知ったかぶりをすることにした。

「そいつに告白されてさ」

「おお」

「で、振ったんだけど。」

「あー」

「したら、どうも私が振られたことになってて。それで、なんでか知らないけど皆から距離を取られてさ。下駄箱の中とか、引き出しの中とか、鞄の中とかも荒らされるようになってて」

「つまるところ振られた報復か」

 なんとも、胸糞の悪い話だ。

「友達だと思ってたやつも、頼りになると思ってた先生もみんな優等生の京畿の味方になっちゃって。一躍嫌われもに大変身ってやつ?」

「やな変身だね」

「まったくだ」

 沈黙。

 顔を伏せたまま、惷課は問うた。

「雄家は、私の味方してくれるか?」

「まあ、うん。僕の知っている限りの君は、信頼に足る人物だからね」

 正直に、答える。

 そして、また少しの間の後に。

「ありがと」

と、照れくさそうに惷課は言う。

「んが……ッ……!」

 器用に箸を使って、唐揚げを僕の口に突っ込む。

「これはお礼だぜ」

「……ありがと」

 

 

 

「じゃあな。ちょっとは楽になったぜ」

 そう言って、彼女は校舎に戻っていった。

「そいつはよかったぜ」

 予鈴のチャイムが鳴る。

「さてと、じゃあ僕も少し頑張るかな」

 むくりと立ち上がり、少年も校舎に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 夜。

 今日は、誰も来なかった。

 


三日目


「おーーー……。いや予測はしてたけどさ、まさかこんな早い時間にいるとは予想外じゃん。朝練に来る私より早いって、それもう不良なのか優等生なのかわかんないぜ?」

「ふはははは。まだまだ鍛錬が足りぬな。そんなんじゃ次期部長は務まらないよ~」

「うっせ」

微かに微笑みながら、僕の頭を小突く。

結構痛い。

どっこいせー、と僕の隣に座る。

「朝練いかなくていいの?」

「今何時だと思ってるんだよ、君は。学校なんてまだ開いてないよ」

ふむ。

「じゃあなんで来たのさ。こんな時間に」

少しの間をおいて、体操服姿の彼女は答える。

「君に会いたくて」

「…………冗談?」

「ほんとかもよ?」

どっちなんだよ。

あまり男子中学生の心をもてあそばないでもらいたい。

この時期の男子なんて、ちょっと異性から優しくされたりするだけでこの子俺の事好きなんじゃね」ってなるぐらい馬鹿なんだよ。

そしてそんな思考をする自分に自己嫌悪するまでがワンセットだ。

「だから、この時期の男子は繊細なガラス細工だと思いなさい。思わせぶりな言動とかするだけですーぐ誰かに好かれるぜ?」

「うっそだー」

「ほんとです!好かれてからじゃ遅いんだよ!?」

「良い事じゃん」

「人に好かれてろくなことは起きないぜ!断言する!恋愛なんてクソだし愛や恋なんてゴミカスだ!所詮特異的な偶然が重なった末の誤認に過ぎないんだよ恋愛感情なんて!」

そこそこな声量での僕の剣幕を見た彼女は、少し笑いながら。

「失恋でもしたのかよ」

「うっせえうっせえうっせえ」

 

「もうこんな時間じゃんか」

時刻は既に7時を回っていた。

「ったく、いろいろ相談したいことあったのにさー。君の情緒が急に不安定になったせいでなんも話せなかったじゃん」

「ごめんなさい」

結局彼女は、僕が恋愛を貶すべく喚き散らしているのを宥めるだけで、朝の時間が終わってしまった。

というか、なんか話したいことがあるなら先に言ってほしかった。

そしたら、もうちょっと自制したのに。

したかな。

するかもしれないな。

そういう可能性も考えられないことはないだろう。

「なあにグダグダ言ってるの。それじゃ私もう行かなきゃだから」

そう不機嫌そうに言って、彼女は去っていった。

去り際の声色に怒気が混じっていた。

「…………ご機嫌取りようのお菓子でも買ってくるかなぁ」

 

 

「ちゃーっす。お、今日は珍しく起きてるじゃん」

僕の顔を覗き込むようにして、惷課がそこにいた。

失敬な、いつも寝てる暇人みたく言うでない

「ごめんごめん、おこんないでよ。あ、きょう弁当一緒していい?」

「ベントウイッショシテイイ?」

「何故片言で言い直す。一緒にお弁当食べて良い?ってこと」

ああ、なるほど。

まったく、言葉を簡略化するのは勝手だけれど、最低限相手に伝わる言葉を話してほしいね。

「いや普通ニュアンスで分かるだろ。言葉の響き的な」

「その普通は惷課の頭の中の普通でしょ?僕の中じゃ普通じゃないの~」

ぽんぽん、と僕の隣を叩く。

その仕草を見て少し表情が綻んだ惷課は、そっと僕の隣に座る。

「いやあ、友達いなくなっちったせいで飯食う相手が完璧にいなくなっちってさ~」

「それは災難な」

「人ごと見たく言うな~」

「実際人ごとだしね。同情しようか?」

「なんか腹立つのから結構」

「それは残念だ」

 

 

「っぱ友達ってさ、学校生活で生き抜く上で必要不可欠だよな」

「例えば?」

僕はそうは思わないけれど、という言葉をぐっと喉に押し込む。

流石に、それ言っちゃたら空気読めなさすぎだし。

「例えば………。例えば……?」

「なんでわかんないだよ。自分で言い出したんでしょうが」

顎に手を当て、惷課は考える。

そしてまた少しして。

「二人一組でペア組みなさい、ってやつで死にたくなる」

「先生と組めばいい」

「嫌です」

我儘だな。

例え友達全員から嫌われていても、教師ならば必ず組んでくれるのに。

 

 

「ねえ、雄家」

「おん?」

「もし私が今、君に襲い掛かったらどうする?」

「え」

襲い掛かるって………。

ふむ、自分で言うのもなんだが、僕は男にしては大分非力な方だ。

多分同年代で腕相撲大会を開いたら、まず間違いなくワーストスリーにランクインできるだけの実力はあると自負している。

そして、そんな僕とは対照的に彼女はかなり力が強い。

男勝り、というやつだ。

仮に今、そんな彼女に襲い掛かられたら、一切太刀打ちできずにあっけなく殺される気がする。

「んー命乞いするかな。力勝負じゃ勝ち目ないし、抵抗することは諦めて、どうか命だけはお助けくださいって財布とか取り出すかな」

「ダサさを極限まで極めてんなー。感心しちゃった」

はあ、とため息を零し、彼女は立ち上がる。

そしてそのまま、何も言わずに校舎へと歩いて行った。

「……あれ、怒らせちゃったかな?」

何かやっちまったかなと先ほどまでの会話を鑑みるが、とても怒らせるようなことを言った記憶はない。

「……お菓子一個追加だな」

一日で二人も人を怒らせるとか、まったく罪な男だよ僕も。

 

美姫が来た。

「なるほど。それは雄家が悪いです」

「えええ」

「私も怒るので、明日までにお菓子を買ってきてください」

「えええええ」

あらくれものだった。


四日目


「えーなになに。「美姫。愛しとーよ」」

「「気色悪いですね。死んでください。今まで生きてきたことを森羅万象に詫び、そして己が生を受けたという過ちを恥じてください。死んでください」と。私は思いました」

突然、手紙の様なものを美姫から手渡され読み上げさせられた。

なるほど、どうやら恋文というやつらしい。

「ラブレターじゃん。良かったね」

「もう一度それに対しての感想を復唱しましょうか?」

「かわいそうだからいいや」

ふうむ。

「で、なに。付き合うの?この、須弥君、って人と」

長々と手紙三枚分愛が書かれ、愛しとーよ、という言葉でしめられたこの文章。

最後に、須弥より。ウィズラブ。と書かれているので、恐らくこの須弥という男が告白を行ったのだろう。

「いくらあなたでも、それ以上ふざけるならキスしますよ」

「分かった、わかt……いやそれ逆にふざけたくなってくるけど」

「御冗談を」

流された。

やはり無表情だな。何を考えているか、相変わらず検討が付かない。

「さてじゃあ、君はこの件について一体僕にどう手伝ってほしいのか。聞かせてもらってもいいかな?」

「はい。私の要望としてはこのような意気地の無い気色の悪い殿方と付き合うなど論外」

ラブレター一つでそこまで言わんでも。

……まあ、確かにこの手紙が気色悪いのは否定しきれないけれど。

「ですので、恒久的な関係性の排除を強く求めます」

「ほうほう」

「ここで、雄家さんに頼みがあります」

「へいへい」

「かの人物の前へ私と共に出向き「こいつ、俺と付き合ってるんで。これ以上ちょっかいださないでもろて。もし手出したら俺がお前ぶっ飛ばしちゃうよ~ん」と、言ってほしいのです。それもなるべく頭の悪いチンピラのふりをして」

「ノウノウ」

おかしいだろ。

「ご理解いただけましたか。ありがとうございます。では日時なのですが……」

「いや、knowknow、じゃなくてNo、No」

手早く計画をまとめ上げようとする美姫に待ったをかける。

「はて、何か不満がおありで?」

ありありだわ。

「付き合ってるフリをして、とかでしょそこは。なんでセリフまで限定されてるんだよ。そこに深い理由でもなきゃそんな提案には乗れないね。まあ、あったらいいけど」

「理由ですか。まあ、敢えて上げるとすれば趣味と道楽です」

「僕をおもちゃだと思ってる?」

「ははは、冗談ですよ。そこまで求めません。この手紙を彼の机の中に入れておいてくれればいいんです」

と、僕に手紙を渡す。

「んだよ冗談か。びっくりしたよ」

「ええ、四割冗談でした」

「六割マジだったんかい」

真面目な顔して何考えてんだこの人。仮にも学園一の才女がこんなんで良いのか。

「はあ、まあそんぐらいならいいけどさ」

 

 

「それでは、くれぐれも中を見ないように、よろしくお願いします」

「うーい」

朝、校門の会場を告げるチャイムと同時に、彼女は去っていった。

そして、彼女の姿が消えることを確認して、僕は手紙を読んだ。

 

 

二週間、内容の残酷さがトラウマになって眠れなくなった。

 


「やあやあ雄家。この私が一人寂しい時間を過ごしている君に憩いを届けるためにわざわざ来てやったぞ~」

「すげえ恩着せがましいのな」

「人間なんて大体そんなもんでしょ。口に出さんだけで」

「…………」

痛い所を突く。彼女のしてやったり、といったにやけ顔を見る限り、どうもわざとみたいだ。

「は、まあいじめるのはやめてあげるよ~。私ったら優しいからね~」

「そりゃ、どうもありがとうございます」

性格が悪いなぁ。

 

「……?そういえば珍しいね、今日は昼練いかないのかい?」

「んぐ。………ん」

口に含んだものを飲み込んで、彼女は答えた。

「……今日からテスト期間だぜ?」

とびっきりのあきれ顔で。

あー。

「……勉強はちゃんとしているかな。って、その表情見れば大体察するけどね」

「でへへ」

「………今回は、ゴ〇ィバのチョコで勉強教えてあげなくもないけど」

ゴソゴソ。

「はい」

「なんで持ってるんだよ」

「昨日の埋め合わせ?」

「なんで疑問形なんだよ」

 

「それで、昨日何か言いかけてたけど、あれって結局何なの?」

「私さ、お前が好きなんだ」

「……………………………………………」

「って急に言ったらどうする」

これまたニヤニヤと、僕の顔を覗き込む。

「…………いじめないでー…」

「はっはっは。愉快愉快。うん、冗談だよ。冗談冗談」

もう言わないさ

 

「んー。まあ今日はそのことよりもさ、もっと聞きたいことができちゃったから、そっちにしていい?」

「?いいけど」

いや、なんかさー、と食べ終わった弁当箱に目線を向けて何事も無いように彼女は言った。

「今日さ、須弥ってやつが私のクラスメートにいるんだけど、そいつが泣きながら発狂して、そのまま保健室行ったまま帰ってこないんよ。なんか知ってる?」

…………あー。

「どうか、安らかに眠ってくれ、須弥君。きっと、君の心に深く突き刺さったナイフが取れる日はやってくるさ」

両腕を組み合わせ、祈る。

「どうか安らかに。そして、願わくば、彼に幸せが訪れんことを」

「なんだなんだ急にどうした願いだして」

「聞くな。いや、聞かない方がいい」

「おん????」

「そして、もし彼が戻ってくるようなことがあったら、暖かいココアでも出してあげるんだ」

「?????????」

 

「ほいじゃまあ、私は行くけど……。いつまでそれしてる気?」

腕を組み、祈る体制の僕に疑念の声を投げかける。

「彼の魂が救済されるまでさ」

「一体お前須弥の何なんだ……」

 

 

 

 

「ごめん、雄家」

「いやいや、え???」

眠りから起きてた僕を待っていたのは、健康的な彼女であった。

そして、何故か動かせない僕の肢体であった。

「なんか体、動かないんだけど?」

「うん。動けなくした」

「え?」

「だから、ごめん。私のものになって」

「ふぁっ!?」

急展開が過ぎる。

 


 

 

 

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