海賊と人魚

黒潮梶木

クリア海の海賊

帆を広げろ ヨーソロー♩

潮に負けるな ヨーソロー♩

金銀財宝 奪えや 奪え ♩

俺たちゃ海賊 強き者♩

透き通るような海の上、ナイトシーレーン号の船員たちは歌いながらそれぞれの仕事をこなしていった。

ここは無法の海と呼ばれるクリア海。海の男たちはそこを通る船を襲い、食料や財宝、船なんかを奪って生活していた。船乗りたちは彼らを海賊と呼び恐れていた。

多々いる海賊の中でも、より名を挙げ「心無き悪魔」と呼ばれた海賊がいた。その名はバンホォード・フィリップ。ナイトシーレーン号の船長である。フィリップは残忍冷酷、人と話すことを嫌い、さらに常に無表情という、本当に心のないような人間であった。そんなフィリップのことを船乗りや他の海賊はおろか、船員たちまで恐れていた。

フィリップが海賊を始めたのは10歳の頃、家族を戦争で失ったフィリップは生き抜く為に地元の港に来ていた海賊、エドワード・フレイムに頭を下げ、雑用として乗ったのが始まりだった。床掃除に飯作りなど雑用をする傍ら、船員たちから帆の立て方、梶の取り方、海図の書きた方などを学んでいった。また、貿易船を襲う時は誰よりも多くの財宝や食料を奪い、敵船と戦う時は誰よりも多くの返り血を浴びながら敵を倒した。また、フィリップは泳ぎが上手く、船から落ちて溺れそうになった仲間を救い出したりした。そんなフィリップをフレイムは我が子のように可愛がりまた、海賊として高く評価していて、フィリップを20歳という若さで船を与え独立させた。これは海賊の中でもものすごいほどの出世であった。その時に与えた船は全体が闇のように黒く、外板に鱗のような模様が並んでいた。フィリップはナイトシーレーン号と名ずけ、とても大切にした。それもなかなかの気に入りようで、少しでも船に傷をつけた船員は落とし前として有無なく斬り捨て殺すようにする程だった。そしてフィリップは自分を海賊として育ててくれたフレイムをとても尊敬し、自分の師匠として船長となっても慕い続けた。

独立してもフィリップは何も変わらなかった。船を見つけると見境なく襲いかかり、大量の財宝を奪い取った。沈めた船は2年間で100隻、殺した船乗りの数は軽く500を超えているだろう。そのためフィリップの船を見つけるとどの船も一目散に逃げていき、逆にフィリップの下に着く海賊たちが増えていった。いつの間にか無法のクリア海にフィリップの前に立つ海賊はいなくなっていった。

しかしフィリップは悩んでいた。いくら財宝を奪っても、どんなに高い地位を手に入れても満足することができなかったからだ。ナイトシーレーン号より2倍もでかい船を奪い取っても、値段の付けられないほど価値のある美しい財宝を手に入れても、心無き悪魔と呼ばれたフィリップにとっては、ただの作業に過ぎなかった。何を持ってしても満たされない…。フィリップはどんなに奪っても見つからない何かに飢えていた。

そんなある日のことであった。フィリップは妙な噂を耳にした。近頃、海賊船に人魚が出て美貌で船長を誘惑し、海へ誘い溺れさせ人の肉を食ってしまう。船長を失った海賊船は統制が取れず、近隣の国々に捕まってしまうというのだ。フィリップはバカバカしいと鼻で笑った。しかし人魚の噂は予想もつかない事態となってしまう。フレイムの船が人魚によって沈没させられてしまったというのだ。

ことのあらすじはこうだ。夜、船長の船では敵船を葬ったとして宴会が行われていた。船員達は音楽を奏でるやら酒を浴びるほど飲むやらでとても盛り上がっていた。そんな時、海から人魚が現れて、船長達は人魚を甲板にあげた。人魚が参加すると宴会はさらに盛り上がった。夜が明け、宴会が終わると船長は人魚に対して「オレの嫁になれ」と提案を持ちかけた。人魚はなにも答えなかった。その時、甲板の方から「船長!人魚は僕の嫁ですよ!」と叫び声が聞こえた。するとそれにつられて船員たちが「いや、僕の!」「いや、俺の!」と声を上げ始めた。そしてそのまま乱闘になってしまったそうだ。仲間のはずの船員たちはお互いを切りつけあい、その最中船長を殺してしまったそうだ。しかしそのまま乱闘は続き、結局誰も船の操縦をしなくなったため岩に座礁しあえなく沈没してしまったそうだ。船員に生き残りはおらず、フィリップには近くで見ていた仲間の海賊が伝えに来た。

その話を聞いたフィリップは始めそんなことありえないと困惑した。あの尊敬している船長がそんなことで殺られるはずがない。フィリップはそう考えた。しかしどんなに情報を集めても聞いた通りのことしか耳に入らなかった。フィリップは激怒した。無法の海賊にも2つ、絶対に守らなくてはいけない掟がある。1つは仲間殺し、そしてもうひとつは船長殺しだ。特に重いのは船長殺しで、破った場合はそいつを地の果てまで追いかけ、凄まじい拷問をし、見るも無惨に殺すのがならわしだった。しかし今回はそれが出来ない。船の沈没によってもう死んでしまっているからだ。

フィリップは頭を抱えた。自分が尊敬する師匠を殺された怒りを誰にぶつければいいのか。しかしこの怒りを放っておけば自分の船の船員たちを皆殺しにしてしまう、それほどの怒りだった。そこでフィリップは傘下の海賊達に司令を出した。

「人魚を見つけろ。そして俺の船に連れてこい。捕らえたやつには褒美としてどんなものでも好きなものをやる」

普段しゃべらないフィリップ船長が声を上げたと、各船の船長たちは血眼になって人魚を探し始めた。

あるやつはひたすら望遠鏡を覗いて海をくまなく探し、あるやつは罠をしかけて捕まえようとした。しかしどんな手を使っても人魚の鱗一枚手に入れることはできなかった。そして始めはやる気のあった船長たちもあまりに何も収穫がないことから次第に諦めていった。しかしフィリップは諦めなかった。師匠を殺したあの人魚を許さない。捕まえて切り刻んでやる。その一心で探していた。

人魚を探し始めて1ヶ月が経とうとしていた。しかし今だ何の収穫もなく、ナイトシーレーン号の船員たちも諦めかけていた。いくら望遠鏡を覗いて海面を見たところで映るのは青く美しいクリア海、聞こえるのは眠くなるようなさざ波だけだった。しかし諦めたいと言うと船長に反逆罪として殺されてしまう。そのため探すしか他に方法はなかった。もちろんフィリップは諦めていない。船員達が寝静まった夜中まで一人起きて探していた。そんな船長を船員たちは呆れながら見ていた。

そんな日が続いたある日の夜中の事だった。フィリップはいつものように甲板で一人酒を飲みながら望遠鏡を覗いていた。闇に包まれる海に星が写っており、まるでダイヤを散りばめたようだった。そして空には見事な満月が上っていた。ナイトシーレーン号は月のあかりを浴びて黒い船体が薄く、白く輝いている。他に船はいない。そして風も波もほぼない。まさに凪と言われる状態であった。フィリップの気持ちは自然と緩んでいた。

バシャ

近くで何かが跳ねる音が聞こえる。いきなりのフィリップは目を光らせた。イルカか?始めはそう思った。しかし望遠鏡を覗いてもイルカのヒレのようなものは見えない。代わりに何かキラキラと美しく光るものが海中に漂っていた。もしかして…。フィリップは腰にある拳銃を取り出し、海に向かって撃ち込んだ。そしてランプで海を照らすと黒い海に赤い血のようなものが混じっている。

バシャ…どさっ

いきなり甲板に何かが打ち上げられる音がした。フィリップは音がした方に拳銃を向けた。そしてゆっくりとランプをゆっくりと動かし、当たりを照らした。魚のようなヒレ、虹色に輝く鱗、腰から上を見ると美しい色白の肌に、か細い腕、そしてこれまで見たことがないほどの美貌。そこに居たのはフィリップが血眼になって探していた人魚だった。

フィリップは銃口を向けた。人魚はバタバタとヒレを動かしながらもがいている。今すぐに殺してやりたい。しかし師匠を殺したこいつは自分から死にたくなるほどの拷問をしてから殺すと決めていたため、引き金を引くのを耐えていた。

「貴様は人魚か」

地を這うような低い声でフィリップは問いかけた。人魚は暴れるのをやめ、怯えたような顔でフィリップを見た。よく見ると口の中には猛獣のような鋭い牙が光っている。しかしフィリップにとってはそんなこともどうでもいいことだった。心無き悪魔と呼ばれた男の前にそんなものは脅しの道具にすらならなかった。銃口を向けたままフィリップは言った。

「今からいくつか質問をする。それに正直に答えろ。嘘をついた瞬間、貴様の命日だ。まず1つ目、エドワード・フレイムという名前に心当たりはあるか?」

「……あります…。」

人魚は真っ直ぐとフィリップを見ながら、重い口を開いた。フィリップは人魚に近づき銃口を額に当てた。

「それじゃあ2つ目、その人が乗っていた船を沈めたか?」

人魚は怯えきった顔をしている。

「ごめんなさい…。許してください…。」

そういうとフィリップは人魚の手の近くに1発銃弾を撃ち込んだ。

「はいかいいえで答えろ。沈めたのか?」

「はい…。沈めてしまいました…。」

人魚の目からは涙がこぼれ落ちている。しかしフィリップの顔は何も変わらなかった。同情など微塵もない。今あるのは人魚に対する殺意のみだった。

「3つ目の質問だ。なぜあの船に乗った?そしてなぜ沈めたのだ?正直に話せ!」

フィリップはこれまでにないほどの大声でどなりを上げた。これまでどんなことがあろうとも声を上げず、表情も変えなかったフィリップが今はまるでサタンのような顔つきで1匹の人魚を責め立てている。しかし本人はそれについて考えなかった。いや、考えようとも思わないほど目の前のことに夢中であった。

「り…理由はほとんどなありません…。ただ海を泳いでいたら楽しそうな音楽が聞こえて…何となくそばまで泳いで行ったら、あの船の船員さん達が甲板に上げてくれました…。それで船長や船員さん達と楽しく話していたら急に私のことで殺し合いを始めたんです…。私は必死になって止めました。だけど聞く耳を持たなくて、船長が殺されてしまった瞬間、怖くなって逃げ出したんです…。その後、沈没したっていう話は海を泳いでまわっているうちに知りました。私があの船に行かなければ…。本当にごめんなさい…。」

人魚は顔を覆いながら泣き始めた。そんな人魚の姿にフィリップは嘘は感じなかった。フィリップは銃口を人魚から外した。

「それじゃあ次だ。なぜこの船の近くに来た。フレイム船長に聞いたのか?フレイム船長に聞いたのだとしたら、恩師を殺された俺に殺されるとは考えなかったのか。」

フィリップはこれまでとは違いやけにやさしい声で問いかけた。

「あなたの言う通り、フレイム船長からあなたのことを聞きました。フレイム船長はお酒を飲みながら私にあなたのことを自慢げに話していました。俺の自慢の子供だって何度も。その後、逃げ出してあの船のん沈没を知った時、あなたに謝らなきゃって思ってずっと探していたんです。それでやっとの思いで見つけたのです。」

「俺を探していたにしてはなかなか見つけるのが遅くはねぇか?」

「私たち人魚は満月の夜しか海面に来れないんです…。普段は人目につかない深いところに住んでるから探そうにも探せなくて…。」

通りで見つからないわけだ。どんなに多くの海賊に探させても深いところにいちゃみつけようが無い。しかも満月の夜にしか現れないのなら尚更だろう。

「そうか…。話はわかった。本当なら話が終わったら磔にて太陽の光で干物にでもしてやろうと思ったのだが、話を聞く限り全てお前が悪いわけではないとわかった。しかしこれじゃあ師匠の無念が晴らされねぇ。そこでだ。お前の何か大切なものを俺に差し出せ。それでこの話は終わらせてやる。」

フィリップは戦闘時は残忍冷酷だったが、無益な殺生はしないやつだった。そのため今回の件は人魚に恨みは残るが殺すまででは無いと考え、この取引を持ち出したのだった。

「大切なものって例えばどんなものですか?」

「どんなものだっていい。金なら金でもいいし何か自分にとって大切だと思えるものがあるのならそれをよこせ。」

人魚は頭を抱えた。しばらくするとゆっくり顔を上げて、フィリップを真っ直ぐ見た。

「分かりました。では…私をあげます。」

フィリップは人魚の言っていることが理解できなかった。冗談を言っているのかと思った。しかし人魚は冗談を言っているようには見えない。決意の目でフィリップを見ていた。

「私をあげるってのは、私を珍しい人魚として売り払えということか?」

「いえ、私があなたの妻になるということです。」

ますます意味がわからなかった。悪魔と恐れられるフィリップの嫁に自分から志願するなんて…。

「しかしお前は満月の夜しか来れないのだろう」

「はい、なので毎月、満月の夜には必ず会いにこの船を訪れます。これではダメでしょうか?」

フィリップは困惑して声が出なかった。

これまで様々な女たちを見てきた。どの女たちも自分の命を助けてもらうために軽々しい口で自分の妻になるから助けてくれと言ってきた。そんな女たちを見ているとフィリップは異様に腹が立ち、すぐ人売りに売り渡していた。

しかし今回は違った。人魚は真っ直ぐとフィリップを見て、真剣な顔で言ってきたのだ。これまでには無いことにフィリップは驚きが隠せなかった。そしてフィリップの胸には、これまでないと言われてきたものが熱く燃え始めていた。フィリップは何故か怖くなり話をそらそうとした。

「人魚は人を食うと聞いたことがあるのだが…。」

「そんなものは迷信です。私たちは海藻や魚を食べて生活しています。人の肉なんて食べたくもありません。そもそもそんなこと、あなたにとってはそんなこと怖いことでもないでしょう?いざとなれば殺せばいいだけですし。」

人魚は冗談交じりで言った。しかしフィリップの頭の中ではどうしてもこいつだけは殺せるきがしなかった。こんなこと初めての経験であった。

「では、あの船を沈没させるという噂は?」

「それも迷信です。実は人魚の界隈ではあなたの恩師のような話は珍しくないのです。恐らくそのせいでそのような噂が出たのでしょう。ちなみにあなたのように人魚を探して仇討ちをするのも珍しくありません。私の家族も全員海賊に殺されてしまいました…。売られたり、切り刻まれて魚の餌にしたり…。」

人魚は悲しそうに言った。フィリップの胸には何か冷たいものが通った気がした。今までにないことが続き、ますます困惑していた。

「…お前は…俺が怖くないのか?」

フィリップは震えた声で聞いた。人魚はニコッと笑って話した。

「あなたは大切な人を殺した私を殺しませんでした。そんな人を怖いだなんて思うはずがありません。あなたはとても優しい人ですよ。」

フィリップの目には涙が滲んでいた。フィリップは人から恐れられ、悪魔と呼ばれてきた。それが当たり前になっていた。しかし人魚は違った。フィリップを人と呼んでくれたのだ。それも脅されてでは無い。自分の意思で、自分の言葉で言ったのだ。フィリップの胸は喜びという感情で満たされていた。

これだ。フィリップはわかったのだ。いくら人から財宝を奪っても満たされなかったもの。それは…愛であった。

これまでフィリップにとって、人とは自分を見て逃げていくものであった。しかし今は自分をのことを真っ直ぐ見て笑ってくれる人がいる。こんなことは一生ないと思っていた。世の中にはこんなにも嬉しいことがあったのか…。フィリップは感動した。心無き悪魔と呼ばれた男の胸に今、心というまさに人間の宝と呼べるものが生まれてきたのだった。フィリップは涙を流しながら言った。

「これから…よろしく頼む…。」

心から出た本音の声であった。その声を聞いて人魚はにっこりと笑った。

「はい!これからよろしくお願いします!」

人魚は勢いよくフィリップに抱きついた。海水で濡れたとは思えない人の温もりにフィリップはますます涙を流した。

「そうだ。フィリップさん。私に名前をつけてください。」

フィリップはキョトンとした。

「なんだ。名前が無いのか。」

「いえ、人魚が婚約をする時には相手の方に新たに名前を決めて貰うんです。」

フィリップは頭を抱えた。これまで人に名前をつけることなんてもちろんやったことは無かった。しばらく目を瞑って悩みこんでしまった。そしてハッと目を開けた。

「マーガレットってのはどうだ?」

それはフレイム船長から昔聞いたことのある花の名前であった。そしてフレイム船長が人魚はまた、にっこりと笑った。

「マーガレット…素敵な名前です!ありがとうございます!」

フィリップは顔が熱くなりそっぽを向いた。なそんなフィリップを見てマーガレットはバカにするように笑った。いつもなら怒るフィリップもマーガレットの笑顔には怒ることが出来なかった。それどころかフィリップまで幸せそうに笑っていた。

その後、2人は夜明けまで話し込んだ。人魚は女しかおらず、人間の男と婚約して子供をつくるということ。人魚の数は年々減っており、クリア海に住む人魚はもうマーガレットのみだということ。そしてずっとひとりで寂しかったこと。どんな話をしているときでも2人は本当に幸せだった。

そして気づけば朝日が上りかけていた。マーガレットは少し悲しそうな顔をした。

「今日はもうお別れですね…そうだ。これを渡しておきます。」

マーガレットは小さな貝殻をフィリップに渡した。

「これは?」

「その貝殻を持っていれば私はあなたがどこにいても会いに行くことが出来ます。ただし海の近くしか無理ですけどね。なので大切に持っておいてくださいね。それではまた満月の夜に」

そう言って海に飛び込んだ。フィリップは彼女の泳ぐ姿をずっと見守った。

その後もフィリップは海賊を続けた。そして満月の夜には必ずナイトシーレーン号の甲板で彼女とあった。そして月の光で輝く海を見ながら彼女と話すのが彼の人生の唯一の楽しみだった。

ナイトシーレーン号、この船の名はまさにフィリップとマーガレットにふさわしい名前だった。2人はいつまでも夜のクリア海で心を寄せあっていた。

そしてフィリップが78歳になった日、彼は海賊から降りた。彼は海辺に小さな家を建て、静かに隠居生活をしていた。そしてやはり満月の夜には波打ち際へ行き彼女とあった。マーガレットの美貌はいつになっても衰えることはなかった。人魚の寿命は人間の何倍もある。それは彼女から聞いていた。そしていくら歳をとっても顔が崩れることは無いことも。

隠居して5年後、フィリップは死が近いことを悟った。その日の夜、空には見事な満月が出ていた。波打ち際に顔を出したマーガレットに萎れた腕で抱きついた。そして一言、

「今まで…ありがとう」

そよ風のような声で言った。フィリップの体に初めて会った時のような温もりが体に伝わってきた。そしてそのままフィリップは彼女の腕の中で息を引き取った。海賊をやっていた頃とは違う。静かにそしてとても幸せそうに彼は眠った。マーガレットは涙を流した。そして月を見上げると強くフィリップを抱いて、彼の死体を海底へと運んで行った。

ナイトシーレーン号の船長室の棚にはいつも、1本のマーガレットの花が飾られている。マーガレットの花言葉、それは

「真実の愛」である。







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海賊と人魚 黒潮梶木 @kurosiokajiki

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