第42話 引越し依頼

 翌日、私はボランティアで指名依頼を受けるために冒険者ギルドへ足を運んでいた。

 今回の付き添いはレイナと暗部隊2名、まぁ暗部隊の2人は基本人の目があるから姿は見せないけど、近くにいてくれているらしい。

 ちなみに2人の名前は分からないけど、昨日レイナの護衛に行っていた2人だってチラッと聞いた。


 私がギルドの扉を開いて中に入ると、昨日の事もあってか少し視線を感じたけど、レイナが付き添ってくれたお陰でそれだけで済んだ。

 だってさ、レイナの黙ってろオーラ凄いんだもん、そりゃみんなビビるよね。


 受付を見渡していると、いつもの窓口にセイラの姿が見えたんだけど……やはりプロなだけあって普通にしている風を装っている、でも……私からしたら元気がなく若干俯き気味に見えた、無理もないよね。

 私は昨日のこともあるので、ちゃんと謝ろうとセイラの窓口に向かうと、セイラはすぐにこちらに気付いてバッと立ち上がる。


「カオリ様!昨日の依頼書の件、本当に申し訳ございません!」


 角度が90°の深々としたお辞儀で謝られた、しかもさん呼びだったのが様呼びへと変わっている。


「だ、大丈夫ですから、顔を上げてください!」

「し、しかし……」

「私ならもう大丈夫です、ほら!元気元気!」


 両腕をムキッとさせて元気になったよアピール、これ以上責任を感じて欲しくないからね。


「うぅ……子供に気を遣わせた……」


 身体は13歳だけど、中身は20歳で大人だから子供じゃないもんね!

 まぁ……泣き虫になっちゃってるけど、20歳だよ、うん。

 ……少しだけ自信なくなってきた。


「私が依頼書を出さなければ、こんな事には……」

「セイラ、やってしまった事を謝罪するのはいいが、昨日の事を引きずるのはまた違うぞ?」

「……はい、それは理解しているのですが……なかなか頭から離れてくれないのです、手紙を破られる光景が……」


 椅子に座り、片手をおでこに当てて項垂れるセイラ。

 周りで見ていた人達ならともかく、自分が手紙や依頼書を出してしまったが故に破られてしまったから、原因となってしまった以上忘れるのは難しいと思う。

 気持ちは分かる、私だって嫌でも覚えてるから……

 完全記憶でいつでも引き出せてしまう、一応取捨選択も出来るから消す事は可能だけど……していない。


「私も、忘れる事はないと思います。なので、2人で乗り越えましょう、セイラさん!」


 私はセイラの手を握って励ました。


「カオリ様……ありがとうございます」


 セイラは手を離して1度深呼吸すると、いつも通りの顔になった。


「さて、カオリ様には今日から暫くこちらが指定した指名依頼をこなして頂きます。今日はこれをお願いしますね、今日か明日に指定されている依頼なんですが」


 手渡された指名依頼書を見てみると、引越しの依頼だった。


「これは、引越し依頼ですか?」

「はい、女性の方からの依頼ですが、物が多くなってしまったので運ぶのが大変なんだそうです。一部の荷物は別の場所に配達として送って欲しいそうですので、両方お願いします。カオリ様は持っていないと思いますので、都内地図渡しておきますね」

「ありがとうございます!配達手段はどうすれば?」

「普段なら荷車を使うのですが、カオリ様の腰に付けているそれでも構いませんよ、OKも出ています」

「分かりました!」


 私とレイナは指定されたお家に向かう、一般の人々が住まう住宅街だ。

 この王都は、中心に商業エリア、端に行けば行く程住宅が増えていく、そして西端には農場エリア、北には王城があり、北に近い部分には貴族エリアもある。


 住所をしっかり確認し、ドアに据え付けられている魔道具で出来たベルを鳴らした。


 ピンポーン


「この世界でも、呼び出しベルはピンポンなんですね」

「ふふ、初めて聞いた時笑いそうになったよ」


 そんな事を話していると。


「はーい!」


 中から女性の綺麗な声で返事が聞こえると共にトタトタと足音が近付いて来て、ガチャっとドアが開かれた。


「どちら様ですか?」

「冒険者ギルドから来ました、カオリです!依頼を受けて来ました!」

「まぁ!貴方がカオリさんね!今日はよろしくお願いするわぁ!」

「よろしくお願いします!」

「隣の方は?」

「私はカオリの付き添いです、護衛だと思ってください」

「そうなのね、分かったわ!ささ、入って頂戴!」

「お邪魔します」


 建物の中に入ると、引越しの為に纏められた荷物が2つの山に分けられていた。


「この大きい山を新居に、小さい山は仕事場に持って行きたいの、頼めるかしら?」

「お任せください!それぞれの場所を教えて貰えますか?」


 私は都内地図を広げる、本当ならマッピング使いたいけど……万が一の為に伏せてる状態なんだよね。


「新居が貴族エリアのここで、仕事場が商業エリアのここよ」


 貴族エリアに引越し、って事は……貴族になったって事なのかな?


「もしかして、貴族になられたのですか?」

「そうなのよ!私、明後日に結婚するの、お相手が男爵家だから、そちらの方に嫁ぐ為の引越しなのよ!」


 なるほど、結婚かぁ……

 私は男性を好きになった事がないんだけどね、ちょっと羨ましかったりする。

 まぁまだ13歳だし、気にしなくていいよね!


「そうなんですか!少し早いですが、お幸せに!」

「お2人の人生が、末永く幸多からんことを祈っています」

「ありがとう!」


 幸せそうな顔を浮かべている女性を見つつも、私は仕事を進める、このままじゃ進まないからね。


「えっと、仕事場にこの荷物が来る事をお伝えしていますか?」

「ええ、昨日伝えてあるので大丈夫よ」

「分かりました!では先に仕事場の方へ届けてきますので、新居の方へ向かっておいてもらえますか?」

「分かったわ」


 私は荷物を全てアイテム袋へと収納していく。


「依頼した時に聞いていたのだけど、凄いわねそのアイテム袋!」

「はい、頂き物なのですが、とても大事な物なんです」

「うふふ、そのアイテム袋を貴方に託した人は、きっと貴方が大事なのね」

「そうですね、だと嬉しいです」


 荷物を収納し、忘れ物がないか確認してから退室する。


「私は先に新居に行ってるから、待ってるわね!」

「はい!仕事場に届けたらすぐに向かいますので!」


 お互いに手を振り、私は指定された仕事場へと向かった。



「それにしても、この仕事場まで少し遠いですね……建物を乗り越えてまっすぐ行けるのであれば時間短縮になるんですけど」

「なら、建物乗り越えて行くか?」

「え、本気ですか?」

「禁止ではないからな、ソルも稀に乗り越えたりするぞ?」

「えぇ……梅香ちゃんや桜ちゃんと同じ考えだね……」


 梅香ちゃんに桜ちゃんも、昨日建物乗り越えてーとか言ってたもんね。


「カオリのスパークアクセルがあれば問題なくいけるが、空中での体勢バランスや着地練習しないと怪我するかもしれないからな、今度練習に付き合おう」

「良いんですか!?ありがとうございます!でも……私でも出来ますかね?」

「あはは!カオリならきっとすぐに出来るようになるさ」

「だといいですね」


 そう言いながらも、今日は普通のルートで仕事場まで向かい、しっかりと納品を済ませてきたのだった。

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迅雷少女の配達屋さん~愛され少女の異世界ライフ~ ひょーう.CNP @hyou910

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