第6話

「父上。母上に対してプロポーズはどのような言葉だったのですか?」


 ディオールとモニカの間に生まれたセドリック、十一歳。

 昼食を終えてそんな突然の言葉を投げかけられた二人は、飲んでいた紅茶を吹き出す。

 使用人たちも同様に、その言葉を聞いて顔をそらし口元に手を当てて肩を震わせる。


「そ、そうだな……俺たちは両家の婚約者ということもあったが、あの頃からモニカは俺にベタぼれだった」


 そういう父の姿に、セドリックは目から光が失われる。


「何を言っているのですか? 私の周りを何時も付きまとっていたのはディオの方ですわよ」


 セドリックはハァーとため息を付いて、庭の方へ走っていく。

 ちょうどいいタイミングで、一台の馬車がやってきた。


「どうぞお手を、フローラ。今日も一段とお美しいですね」


「セ、セドリック様!? そのようなことは、軽々しく仰らないでください」


 その恥じらう姿を気にすることもなく、セドリックはフローラの前で膝を付き左手の甲にキスをする。


「近い将来、僕の妻になってくれますか?」


「え、えぇぇぇ!?」


 オロオロするフローラにセドリックは優しく微笑みかけた。

 あの面倒くさい両親のおかげか、セドリックは想っていることはズバッと言う性格になっていた。

 昔を知る使用人たちからも、あの姿がディオールだったらと思わずにはいられなかった。


(どうせすぐに仲直りをするのに……父上と母上の考えは、よくわからない)

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婚約破棄!? ありがとうございます! 松原 透 @erensiawind

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