第24話 ニュース
銃の実験を終えた翌朝。竜司はいつも通りに朝の支度をしていた。
「お兄ちゃん朝ごはんで来たよー」
「あいよ。お、今日は鮭か。いいね」
「うん。昨日スーパーで安売りしてたから」
朝食はいつも交代で作っている。今日は鈴音が、鮭の塩焼きを作ってくれていた。二人で席について食事を始める。鈴音の料理はいつも通りうまかった。
『次のニュースです。〇〇県〇〇市で複数の魔物の出現が確認されました。その後、すぐに防衛軍によって討伐され、人的被害は確認されなかったそうです。また―――』
ふと、テレビのニュースが耳に入る。内容は魔物の出現。前までなら気にもしなかったが、今の竜司にとっては他人ごとではない。もしもの場合は自分も戦わなければならない可能性があるのだから。
「魔物か…」
「そうだねー。最近多いよね。お兄ちゃんも気を付けてよね。また、家族がいなくなるのはいや、だから」
「ああ」
「軍に入っても危なくなったら逃げるんだよ?」
「わかってるよ。鈴音を残して死ぬことはないから安心しろ」
「…絶対だよ」
分かってるよ。そう返してもう一度テレビのほうを見る。ニュースでは、今までの魔物の出現の増加傾向と出現地域について報道されていた。
その、増加している地域には竜司の住んでいるところも含まれているようだった。
(霊界にはそんないなかったんだけどな…)
『むしろ少ないくらいじゃの』
(そうなのか?)
竜司が霊界の様子について考えていると狐月が答えてきた。
『そうじゃの。本来ならもう少し種類も数も多いのじゃが。地域による差かと思って何も言わんかったんじゃが…ううむ』
『不穏。警戒』
『うむ、何かあるやもしれんし、警戒しておくに越したことはない。一応あの二人にも伝えておくべきじゃろう』
(わかった。そうしておこう)
竜司は餓鬼以外の魔物は見たことがない。図鑑などの資料で知識はあるが、戦ったことはないのだ。その状態で複数の魔物に囲まれる可能性を考えて、少し不安になる。
(焦っても仕方ない。今できることをしよう)
竜司はそう考えながら朝食を終えた。
その日の学校の昼休み。竜司はレーヴェと水無瀬とともに昼食をとりながら、今日のニュースと狐月に聞いたことを話していた。水無瀬が学校にいるのは隊がつくられると決まってから、連絡がすぐ取れるように常駐警備兵として学校に派遣されてているからだ。
「なるほど、確かに魔物の出現が多いのは知っていたが…。霊界に少ないというのは気が付かなかったな」
「少ないと何か悪いのかしら?」
「そんなことはないが、現状ではどんな異変も知らせておいた方がいいだろうな」
どんな情報が役に立つかわからんからな。と言いながら水無瀬は茶を飲んだ。
「でも、誰に伝えるんだ?霊界に個人的には入れるやつはいないんだろ?今んとこ」
「…元帥閣下に直接伝えるしかないだろうな。気は進まないが」
「おう。じゃあよろしく」
「何を言っている。お前が伝えるんだぞ。隊長」
「うええ。マジかよ」
「気持ちは分かるけど。隊の事を伝えるのは隊長の仕事だから仕方ないわよ。竜司君」
はっきり言ってめんどくさい。竜司はそう思ってしまう。高校卒業までは普通の学生でいいといわれたというのに、なぜ軍の一番上と連絡しなければならないのか。とはいえ、やらなければならないと分かって放置するわけにもいかない。
「はあ、しゃあない。さっさと終わらせるか」
竜司はため息をつきながら携帯を取り出し、元帥へ電話を掛けた。コール音が鳴り始めると、元帥はすぐに電話に出た。
『やあ、竜司君。君からかけてきたってことは、お願いでも決まったかい?』
「いえ、そういうわけではないですね」
『うん?じゃあどうしたんだい』
不思議そうに聞く元帥に、竜司は淡々と答える。
「最近よくニュースになっている魔物発生の増加傾向についてですが、水無瀬達と相談した結果、連絡すべきだということで電話をしました」
『へえ、それで。確かに君たちの地域は魔物の発生が増えていたけど何か分かったのかい?』
「自分たちは霊界で訓練を行っているのですが。霊界に魔物が通常より少ないというのが分かったので。まあ、自分の生活しているエリアだけしか見てないですけど」
『なるほど。つまり魔物がよく発生しているのにも関わらず、霊界には少ないと…てちょっと待て!』
「どうかしましたか」
突然大声を出した元帥にうるさそうにしながら、さも何も知りませんという感じで聞き返す。
『どうしたもこうしたもない!。まさか君は自由に霊界に入れるのかい?』
「魔法型ならだれでもできますよ」
『ということは、イルシュタイン君もかい?何ということだ。それならもっとできることに幅が広がるじゃないか。なんでもっと早く言ってくれないんだ…。いや、腐ったやつらに聞かれて悪用されるよりはましか…』
竜司は水無瀬の事もあって驚かれることが予想できていたので、平常運転だ。むしろ知られるたびにこんな反応をされるなら面倒だなと思っている。
「それで、どうします?」
『さらっと流すなよ…結構衝撃的なんだよ?それうまく使えば間引きのコスト一気に下げられるし。はあ…まあいいよ。それでどうするかだったね』
「はい」
竜司の態度にあきれたような雰囲気を出しながらも、どうすべきか元帥は考える。10秒ほど沈黙ののち元帥は再び口を開いた。
『そうだねえ。ほかのエリアも調べてほしいかな。各エリアにおける魔物の平均総偶数のデータは水無瀬に送っておく。可能なら今日から調べてくれ。学校も休んで構わない。公欠扱いになるようにこちらから連絡する』
「わかりました。では、二人にも伝えておきます」
『ああ、何か分かったらすぐに連絡してくれ』
そこで、竜司と元帥の電話は終わった。携帯をポケットにしまうと竜司は二人に向きなおり、今聞いた内容を話し合う。
「それでどうだったかしら」
「調査してくれってさ。学校も公欠でいいらしい」
「む、今こっちに霊界の魔物についてのデータがきたぞ。本当に少しでも情報が欲しいらしいな」
「動くのはいつからにすべきかしら?」
「今日の放課後からでいいんじゃないか」
「なら、明日からのことについて、教師には私から伝えておこう」
そうして調査の方針や、予定を決めているうちに昼休みは過ぎていった。
(何もなければいいんだけどなあ)
教室に戻りながら竜司はそう願った。
魔女とロマンと 柚子大福 @yuzudaifuku
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