第23話 実験
死神隊ができてから早一週間。隊の中での連絡の取り方や三人での訓練、妹である鈴音の説得、高校への進学が確定したので、その手続きなど、竜司は割と忙しく過ごしていた。ちなみに、進学する高校は指定されている。国内で魔装士を育成することにおいて最も優れている、第一魔装士育成高校だそうだ。裏口入学も甚だしいが、水無瀬によれば、優秀ならたまにあるらしい。
と、そんなこんなで忙しくしていた竜司だがようやく落ち着いてきたので、結局試せてないなかった銃の実験を今日行うことにしたのだ。
「やっと見れるのね」
「まあ、なんだかんだ言ってできなかったからな」
今、竜司たちはレーヴェと水無瀬の3人で霊界に来て、ひと通りの訓練が終わったとので、実験用の魔物を探しているところだ。
「いたぞ。餓鬼だ。実験にはちょうどいいだろう」
「おう」
水無瀬の視線の先には、餓鬼が一体。向こうもこちらに気づいているようで、武器であるこん棒を掲げて向かってきている。
「うし、じゃあいっちょやりますか」
『ほほ、うまくいくとよいのお』
左手に銃を構える。餓鬼との距離は約30メートル。竜司は息を吐き、深く集中しながらその餓鬼の武器に狙いを定め、その引き金を引いた。
ダアンと爆音が響き、銃弾が発射された。だが、狙った位置には命中せず、餓鬼のすぐ横の地面に着弾した。その音に驚いた餓鬼は一瞬固まるも、自分に影響がないと分かるとまたすぐに走り出す。
「くそっ」
悪態をつきながらもすぐに次弾を放つ。ダアン、ダアンと何度か銃声が響き5発目でようやく命中したものの、武器ではなく餓鬼の腹に命中し、その腹に大きな穴をあけると地面に落ちた。
「ギイイイイ⁉」
断末魔をあげ、崩れ落ちる餓鬼を竜司は渋い顔で見つめる。
「いい威力じゃないか。それに魔物にも効いている」
「威力はあってもな…。いや、あるのはいいんだけど、狙いが甘すぎる。俺はこいつの武器を狙ったんだけどな」
「そこは、要練習ってやつでしょう。そこまで落ち込むことではないと思うわ」
レーヴェの言う通りやはり練習あるのみなのだろう。命中率を上げるためにも、実戦で積極的に使うべきなのだろう。
「はぁ、雪花の能力で反動を相殺したんだけどなあ。これで当たらないなら、先は長いな」
地面に落ちた弾を拾い上げながらそう呟く。雪花の力の操作で発射の際に来る反動をすべてなくしてこれなのだから、落ち込むのも無理はないのだろう。
「しかし、考えたものだな。ただの弾なら効かんが。そこに魔法を仕込めばダメージが入る。これなら距離も速度も関係ない。この威力なら対人でも使えるな」
「そうね。なんで今まで魔法なんて使えないって思ってたのかしら」
「ああ、常識というものは恐ろしいな」
二人が言う通り、工夫しだいで使えるものなのだ。ただ、世間の常識が身体強化一強で、魔法を使おうという発想がないだけで。
(効かないとは聞いてたけど、ただの金属を固めただけじゃ当たってもその場で勢いがなくなるなんてな…。どうなってんだか)
二人が魔法について話しているのを効きながら竜司は思う。そんな竜司の心の声に狐月が答えた。
『簡単じゃよ。魔物というのはすべからく魔力で構成された存在じゃからの。魔力を伴った攻撃しか通用せん』
(マジかよ。だから銃弾も落ちたのか)
『うむ、どうしても威力を持たせたいなら、魔石なんかの素材をその弾とやらに混ぜ込んで作るべきじゃの。まあ、それをするくらいならさっきみたいに魔法を仕込んで命中とともに発動するようにすべきじゃろう』
魔石をなどを混ぜ込む弾は狐月の言う通り、消耗品として使う以上コストが見合わない。それに、使えるようにしたところで攻撃面積が小さすぎて当たっても効果にない魔物も多いのだ。
(仕方ない。弾の方向性はこれで行くしかないか。まあ、聞かないのは魔物だけだし)
人間相手ならその限りではない。前世の世界の兵器を思い浮かべながら思う。これから先、軍に入る以上魔物意外とも戦うこともあるだろうし、元帥の言っていたテロ組織だって相手は人間だ。それらの相手をする時ならばこの銃はこれ以上ないほどの威力を発揮するだろう。そこまで考えたところで竜司ははっとする。前世ではこんなことどころか、他者を傷つけるための方法など考えもしなかったというのに。
(この世界に来てからしばらく。だいぶ染まってきたのかね。それとも元からこんな性格だったのか…。ま、今更か。模擬戦の事もあるしな)
別に人間相手であっても戦えるのは、この世界ではいいことなのだ。委縮して殺されましたでは、笑い話にもならないのだから。
「ま、なんにせよ備えあれば憂いなしってやつだ。そん時になっても問題ないようにするしかないな」
「あら?どうしたの?」
「いや、もっと練習しとかないとなって言っただけだよ」
そう言って竜司は立ち上がると、三人で新たな魔物を探して異界を探索し始めた。
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