第22話 霊界の狩り
「本当には入れるとは…」
「当たりまえだろ」
竜司たちが黒いゲートを通れば、今はもう見慣れた草原が広がっている。近くに敵の気配もない。
「今日は何するのかしら」
「ん-。とりあえず、軍曹さんがどんなことできるのか確認と俺はこれかな」
「…なんだそれは」
竜司が取り出したのは、銃だ。仕組みなど大してわからなかったが、魔法とうろおぽえの知識で試行錯誤し、つい最近完成させたものだ。見た目は拳銃の形で重心が30センチほどの長さをしている、回転式のものだ。竜司としては、自動式のものを創りたかったが、薬莢の排出や装填の仕組みがうまくいかず泣く泣く回転式に方向転換した。
「銃だな。やっと完成した」
「それも、私が知ってるやつより強いのか?」
「強いっちゃ強いんじゃね?試作品じゃ魔物にはあんまきかなかったけど」
「それじゃああんまり意味ないじゃない。何のためにつかうの?」
レーヴェの疑問もっともである。水無瀬もその通りだとうなずいている。だが、竜司もこの銃を始めからダメージ目的で創ったわけではない。
「何って、パリイ。うまくいくかは知らんけど」
「「ぱりい?」」
さも当然とばかりに告げる竜司だが、意味が分からなかった二人はそろって首をかしげている。だが、竜司はいたって真面目である。想像するのは血に酔った優秀な狩人たち。銃を撃って相手の攻撃をはじく、ガンパリイからの致命的な攻撃。ただそれをしたいがために彼は銃を作ったのだ。
「これで、攻撃をはじいて体制を崩す。かっこいいだろ?」
「でも、攻撃がとおらないならはじけないんじゃないかしら…」
「玉にも細工してある。今日はそれがうまくいくかの確認。うまくいけばあとは命中率を上げる練習だな。というわけで、雪花」
『了解。索敵』
竜司が呼びかけると、雪花が5つに分裂し、そううち4つがそれぞれ別の方向へ飛んでいく。雪花の探知範囲に魔物が入れば、残りの一つから知らせが入るようになっているのだ。
「さて、待っているうちにいろいろ確認しましょうか。軍曹さん」
「水無瀬と呼べ。呼び捨てで構わん。ほとんど使ってなかったが、敬語もいらん。一応同じ隊員だからな。それに今はお前が隊長だ。敬語を使うなら私の方だろう」
「いいのか?」
「ああ。それに、模擬戦の事は気にするな。私にも責任はあるし、全力で向かった結果だ」
「…わかった」
『そういう割には随分怯えとるようじゃがのう』
狐月の言う通り水無瀬は竜司とは一切目を合わせようとはしなかった。話しているときも若干震えている。とはいえ彼女にもプライドはある。必死に平静を装っているのだろう。
「じゃあ、水無瀬は何ができるんだ?」
「……剣で斬る」
「それだけ?固有能力は?」
「そんなもの使ったことない。せいぜい電気を体にまとうくらいだ」
「へえ。それ、見せてよ」
「別にいいが、あまり期待するなよ」
そう言って水無瀬は双大剣を抜くと、魔力を高めた。すると、パチ、パチという音とともに、うっすらと体から電気がはじけていた。
『ふむ、なかなか当たりじゃの。使っていないのがもったいないくらいじゃ』
「それ、もっと強くならないのかしら?」
「無理だな。鍛えればわからんが、今の私はこれが限界だ」
「じゃあ、一部分に集めるのは?掌に圧縮!みたいな感じで」
「それは試したことないな。うむ…やってみよう」
竜司に指摘されたことを素直に実践する姿に、少し驚く。魔法など役に立たないといっていため、その姿が意外に映ったのだ。そんな様子に気づいたのか、水無瀬は薄く笑っていった。
「私も貴様にやられる前なら、こんなことやろうなんてしなかっただろう。だが、実際その身に受けるとな…。これも、やっておいた方がいいと思うのさ。…なかなか難しいなこれ」
「なるほどね。っと」
『敵。発見。方角。南』
そうこうしているうちに敵が見つかったようだ。そのことを二人に伝え、早速その場所に向かっていった。
雪花が示した場所には、緑色をした醜い小人のような生き物が3匹いた。よくあるゲームに出てくる、ゴブリンのような生き物だ。前に竜司がで調べると餓鬼と書いてあった。霊界で出てくる最弱の魔物の一つで、倒したところで使える素材もない。魔石も質が悪すぎて使えないらしい。
「ちょうど私たちの人数と同じね。自己紹介?もかねて一人一体でどうかしら?」
「そうだな」
「私も異論はない」
そうと決まれば、早速ということで準備を始める。餓鬼ととの距離が100メートルほど離れているので、まずレーヴェからやることになった。
「それじゃ、やるわね」
レーヴェはそういうと、すっと翠の弓を構えた。矢をつがえると、目を細め深呼吸をしながらゆっくりと引き絞る。竜司のエルフ像と、彼女自身の美しさも相まって実に様になっている。ふわりと彼女の髪が揺れ、魔力がうごめき矢に集まっていく。うごめく魔力の全てが矢に集まると、
「フッ!」
と、鋭い呼吸とともに矢が放たれた。
放たれた矢は、ヒュッという鋭い音をさせながら、高速で餓鬼へと向かっていきその頭に吸い込まれるように命中し、その頭を貫き爆散させ、地面に着弾した。
「おー相変わらず、すごい威力だな」
「まだ、連射はできないけれどね」
レーヴェの砲弾のごとき矢の威力は、竜司にとっては見慣れたもの。威力に関しては狐月もそこらの魔物では抵抗すらできないだろうというほど。事実、矢が当たった場所は深くえぐれ、小さめのクレーターのようになっている。餓鬼たちも驚きのあまり固まってしまっている。
だが、竜司にとっては見慣れたものでも、水無瀬にとってはそうではない。彼女は唖然とした表情で矢の着弾した場所を見つめていた。
「遠距離攻撃として弓は使われるが…、あくまでけん制程度の威力。間違ってもあんな破壊力はないのだがな」
「まあ、その辺の話は倒してからだな。いくら弱いつっても戦闘中だし」
「それもそうだな。では次は私が行こう」
そう言って水無瀬がスッとその背から双大剣を抜き、構えた。と、竜司が認識した瞬間。ドゴンッというおよそ人間が出せるものではない音を出しながら、ようやくこちらに向かって走り始めた餓鬼の前に一瞬で肉薄。流れるような動作でその首を一閃し、行きと同じ速度で戻ってきた。
「はっや…」
『ううむ、模擬戦の時、あやつに油断がなければ負けたおったやもしれんな』
「運がよかったんだな、俺」
それくらい水無瀬の速度は常軌を逸していた。常に身体強化をしている竜司は踏切を通る電車の乗客の表情であっても一人一人見分けられるくらいには、視力が上がっている。だというのにもかかわらず、今の水無瀬の軌跡を見るのが限界であった。
「速すぎない?」
「このくらいなら大したことはない。それに、お前だって魔力が増えればあれくらいはできるだろう。それよりも貴様の番だぞ」
「簡単に言ってくれるねぇ」
確かに魔力は増える。限界まで使い切ったり、魔物を倒したり、魔装の成長だったりと、方法はいくらでもある。だからと言って、一朝一夕でたくさん増やせるというわけではないのだ。とはいえ、
(それでも、できるだけ早く増やさないとなんかあったときに魔法とか言う前に押し切られて終わるな)
戦闘になったとき、模擬戦のように相手が油断してくれるわけではないのだ。むしろ、全国に竜司の力が伝わってしまっている以上、もしそうなったら全力で竜司を殺し来るだろう。
(ま、焦っても仕方ない。できることをやってくしかないな。もう死にたくないし)
武器を振り上げながら走ってくる餓鬼を見ながらそう考える。銃の確認もしたいとは感じるが今回の戦闘は自己紹介のようなものなので実験は後回し。半身で刀を構え周囲に雪花を呼ぶ。
幼児が走るようなペースとはいえ、餓鬼との距離は20メートルを切った。それでも刀の間合いには程遠い。
「ふっ」
にもかかわらず、餓鬼に向かって竜司は刀を振り下ろした。その変化は劇的だった。竜司に向かってきた餓鬼が、頭から股にかけてずっぱりと切り裂かれ、左右に分かれたのだから。
「すごいな…。これも魔法か」
「まあ、そうだな。振り下ろしに合わせて風の刃を飛ばしたんだ」
驚いた様子の水無瀬に、竜司は何でもないように答える。
「これはどこまで届く?」
そんな竜司に水無瀬はさらに質問を重ねた。
「ん-。今の魔力量と操作の練度だと…40メートル程度だな」
「この威力が、か。末恐ろしいな」
世の中の常識であれば30メートルも飛べばどんな魔法もそよ風程度になってしまうのだ。それが、そのままの威力で40メートル。これがどれほどすごいことなのか、いまいち竜司は理解していない。
「そんなにか?」
「当たり前だ。今はお前だけしか知られていないから、特殊な才能で言い訳がつくかもしれんが…。その気になれば誰でもできるのだろう?知られたら世界がひっくり返るぞ」
「マジ?」
「マジだ」
それほどまでに、この世界での魔法は弱かったのだ。そのため、世界は魔法に対してほとんど対策をしていない。それが、その気になれば誰でも使えるとなれば、どうなるかなど考えるまでもないだろう。
「まあ、それも考えてのこの部隊だ。そのあたりは閣下が何とかしてくださるといっていたからな。私たちは、何があっても跳ね返せるくらいに強くなればいい」
「そういうものか」
「ああ」
「なら、もっと訓練しなくちゃいけないわね」
「うむ」
結局はそう。何があっても問題ないようにするしかないのだ。模擬戦のような理不尽にも対抗できるように。竜司の前世とは違い、この世界は想像以上に命が軽いのだから。
「なら、魔法は教えるから、水無瀬は俺に近接戦を教えてくれ」
「むろんそのつもりだ。それに魔法隊にいるのに私だけ使えませんじゃ、いい笑いものになってしまうしな」
「私もお願いするわ。近づかれたら死にます。なんて嫌だもの」
「うむ」
その後、3人で今後の方針を話し合いつつ、魔物を狩りながらお互いの力の把握をしたのだった。
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