告白と罪状とエピローグ




ザルツボルトが見ている限りでシュメールを苦しめているもの、それはラスタ王子と――



リッタ・バッカス男爵令嬢の存在だ。



見ていてわかったが、シュメールはラスタ王子が好きというわけではない。ただ、決められた婚約、貴族としての義務、国民のため家族のためにいい王妃になろうとしているのだと。


だから彼女が苦しんでいるのはリッタに嫉妬したからというような話ではなかった。


王子として、立太子すらしていないのに婚約者以外の女性と公の場で、誤解されるような距離間で一緒にいることが問題だと。それははたから見ていてもわかることだったし、シュメールも何度も王子に進言していた。

しかし関係は改善されることなく、卒業間近になると人目もはばからず触れ合うようになっていた。



ある放課後、偶然通りかかった空き教室にいたラスタ王子とリッタが、卒業式にシュメールを断罪すると話しているのを聞いたザルツボルト。そのまま潜んで聞いていると、リッタがシュメールにいじめを受けていると言うのだ。


『教科書を破かれた。足を掛けられた。噴水に落とされた。』


その場で言うリッタの言葉をすべて記憶し、独自に調査をしてみると、『自分で破った。自分で転んだ。自分で落ちた。』という証拠がなんの苦労もなく手に入ったのだ。計画がずさんすぎると思わずつっ込みたくなった。



シュメールかリッタかといったら100人中99人がシュメールと答えるくらい、リッタのいいところが見つけられないザルツボルトだったが、いろいろと調べているうちに、見たくないものまで見てしまいなるほど、と思った。



色仕掛けで落ちたのか、と。



そんなくだらない王子に、シュメールが嫁ぐことにならなくてザルツボルトは心底安心した。


断罪すると言っていたがそれはすべてお返しする準備も出来た。

そして晴れて婚約破棄となったあかつきには、シュメールに気持ちを伝えよう、そう決心した。



「だから、私と一緒にリューヘンへ帰ろう。」


「っ……!」


「前に話してくれたよね。絵本のこと。その景色を一緒に探しに行こう?」


「ザルツボルトさまっ……!」



そんなにも想ってくれていたことに、出会ったときに話した小さな話題を覚えてくれていたことに感動したシュメールは、このままリューヘンへ行くのもいいな、と思った。



「ちょっと……黙って聞いてればなんなのよ!」


「……お前に発言権は与えていない。」



突如声を上げたリッタに、王は低い声で凄む。それによって兵士に槍を突きつけられるが、リッタはそれに臆することなく続けた。



「おかしいでしょ?! この世界のヒロインは私、リッタ・バッカスでしょ?! なんで悪役令嬢が幸せになろうとしてんのよ!!」


「ひろいん? なんだ、何を言っているのだこの娘は。」


「だから! 私が幸せになるための世界なの! いいわよ、ラスタ王子は思ったよりポンコツだったから、あなた、ザルツボルト。続編のキャラなんでしょ? 代わりにあなたと結婚するわ。」


「貴様っ! 隣国からの賓客になんて口の利き方だ! ええい、もう連れていけ!」


「なっ、ちょっ! なにすんのよっ! 触らないでっ」



そのままリッタは連れていかれた。地下の牢に入れられ沙汰を待つことになるのだろう。


国の王子を誑かした罪、当然死罪だ。



誑かされたその王子は、この場の状況を見て後悔していた。

リッタに溺れたこと、今までの王子としての振る舞い、そして散々諫めてくれていたシュメールに対してとった態度、すべてに後悔した。


その涙を見て王は、改善の余地ありとし、公にした王子の罪は『公衆の面前で令嬢の尊厳を傷つけたこと』のみとした。


一年間の謹慎と山のような課題、そして婚前交渉をしたことから内々で王位継承権は剥奪されたが、親としての温情か、廃嫡は免れた。次期王には現在の王弟である公爵家の嫡男が就くことになるだろう。






1年後ーー。


渦中の令嬢だったシュメールはというと。



「そう、これです……これですわザルツボルト様っ!」


「ははっやっぱりここか。」


「はい……! すごい……絵本から飛び出したみたいですっ」



隣国リューヘンへ嫁ぐことになり、リューヘンでの王妃教育も終えたことから婚前旅行に来ていた2人。

そう、あのとき憧れた、絵本の中にあった景色が今目の前に広がっているのだ。



「これから大変なこともあると思うけど、私が必ずあなたの支えになるから。」


「あら、私があなたの支えになりますのよ? 王妃ですもの。」


「ははっ、そうだね。頼んだよ、未来の優秀な王妃さま。」



リューヘンへ来たシュメールは、その人柄と優秀さから皆に好かれ、次期王妃として期待された。

それは大変な重圧にもなり得るが、シュメールとして過ごした記憶と、自由にしたいことをして生きていた明日葉としての記憶が合わさり、いい方向へ向いていた。


きっと、いつの間にかなくてはならない人になっていたザルツボルトの隣で、国の為になる王妃としてやっていけるだろう。



「きれい……。」


「そうだね。」



2人は時間が許す限りその景色を眺めていた。











~完~




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生悪役令嬢が婚約破棄されて隣国の王子に溺愛される話。 井上佳 @Inoueyouk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ