第45話

「知ってるか勇」

「知らないかな」

「ぷっ、だっせー。こんなことも知らないのかよ」

「それで?その雑な前振りがあるということは」

「そうだ」


 私は堂々と立ち上がり


「今年の修学旅行で女の子と仲良くなるぞ!!」


 ◇◆◇◆


 私の通う学校は修学旅行が存在する。


 だが普通の修学旅行と思うなかれ。


 私達の場合、行くのは他国。


 つまり海外旅行というわけだ。


 ちなみに言語に関する問題についてだが、一応私達の国の言語は公用語になっているので、まぁ迷子になってもなんとかなることが多い。


 と言っても必ず通じるわけではないし、向こうの言語もまたこちらは上手く聞き取れない。


 前世で言うのなら私達は英語を喋れるけど、今回行く場所は日本の為、現地の人と上手く話せるかは分からないって感じだ。


「そんなわけで早速だが、勇。私に修学旅行先の愛してると結婚しての言葉を教えてくれ」

「なんで?シアなら知らなくても意味、伝えられるでしょ?」


 そう、実のところ私は凄い。


 なんと違う言語の人にすら私の言葉を理解してもらえることが出来る。


 英語を知らなくても「こんにちは」と言えば「ハロー」と元気よく返ってくる素晴らしいものだ。


 ちなみに伝えることは出来ても聞き取ることは出来ない。


「ハロー」と言われたら「え?ファ、ファッキュー?」としか返せないのだ。


 まぁ私の話は置いといて


「はぁ、勇。お前は何も分かってないな。向こうで出会った運命の相手に『大好き』って言われた場合、直ぐにオッケーって返すことが出来ないだろ?もう少し常識を勉強しろ」

「凄いブーメランだね」


 なんだかんだあって勇から教えてもらう。


 どうやら修学旅行先の国では愛してるはヤー。


 結婚してはパワーというらしい。


「どうしてだろ、すんなりと覚えられた」

「ところで班行動はどうなるのかな?僕はシアと組みたいけど……」

「当たり前だろ!!私を一人で未開の土地に行かせる気か!!」

「未開の土地は失礼だよ……」


 だがまずいな。


 班行動は4人。


 私と勇、それ以外の2人を確保しなければだが


「不可能だ。私にあと二人もなんて……」

「ま、まぁいざとなれば僕が何人か説得してみるよ」

「持つべきものは親友だな!!」


 とは言ったものの、教室を見るとなんだかちょっぴり寂しい気持ちになる。


 みんなが楽しそうに誰と一緒になるかを話し、ワイワイと騒いでいる姿はなんだか私には遠い存在のような気がした。


 だからこそ、私はとあるものに気付く。


「ん?」

「どうしたの?」

「いや……んん?」


 私は気付いた。


 教室の端で、本を読む一人の女の子の存在を。


 銀色の綺麗な髪、後ろ姿からでも異様な程の美しさを放つその佇まい。


 そのスペックとは不釣り合いなほど存在感のない彼女に、私は今日、初めて気付いたのだ。


「あの子……誰?」

「え?あの子って……」


 一瞬、勇の動きが止まる。


「ああ、ニアさんだね。彼女がどうしたの」

「え?いたかあんな子?というか私が見逃すか、あんな子を」

「僕もあんまり話したことがないから、なんとも言えないけど……」


 私は思う。


 突然現れる新キャラってのは


「絶対ヤバい!!話しかけ行こう!!」

「どうしてヤバいのに行くの……」


 私はウッキウキでニアと呼ばれる女の子に話しかける。


「おはようございます、ニアさん」

「……」


 ゆっくりと私の方を向いた彼女の顔は


「……」

「……」

「「可愛い!!」」


 とんでもなく可愛かった。


 というか


「え!!凄い!!可愛い!!」

「ってシア様じゃないか。目の前に美の女神でも現れたかと思ったよ」

「見ろ勇!!めっちゃ可愛い!!私レベルじゃない!!」

「でもおかしな表現かな?女神という言葉はシア様の為にあると言っても過言じゃないわけで」

「人間の領域じゃないぜ。こりゃ多分神様とかだ」

「そもそも美しいという言葉には限界があると思わないかい?全てを上回る存在がいるのならば、美なんてものよりも上のランクを作るべきだと思うんだ」

「こんな可愛い子この世にいるんだな。私ビックリだ」

「それに」

「というか」

「シア様とは」

「あの子って」

「……お願い会話して」


 勇の困った様子に私とニアは目を合わせる。


 吸い込まれるような蒼い目。


 まるで海の上に浮かんでいるかのように、心が段々落ち着いていく。


「ニアさん。よければご一緒に修学旅行に行きませんか?」


 普段なら、いつもこんなことは言わない。


 王族である私の誘いを蹴ることが出来る人なんて早々いない。


 無理強いしているようで、私はなんだか一歩距離を置いてしまっていた。


 でも、彼女は違う。


 私を、私として見てくれている。


 勇やみんなと同じような雰囲気を私は感じたのだ。


「シア様に誘ってもらえるとは光栄だね。こんな私でよければ是非ともお願いしたい」


 そう言って笑顔で手を伸ばすニア。


 私もまたその手を握る。


 白くて、柔らかくて、それでいて


「……」

「どうしたんだい?」

「私達、どこかで会ったことがありませんか?」


 そう質問すると


「さぁ、どうだろう」


 不敵な笑みでそう答えた。


 ◇◆◇◆


「……」

「どうしたんだ勇?」

「いや、なんでもない。シアを前にしても物怖じしない人が珍しいなって」

「だよな!!可愛い上に私を怖がらない。その上勇に靡く様子もない」

「いや靡くって……」

「へっへっへ、今回の修学旅行、色々と楽しくなりそうだぜ」

「シア、よだれくらい吹こうね」

「おっと」


 私はティッシュで口元を拭き、ゴミ箱に捨てた。


 するとどこからか現れた王国騎士がそのゴミ箱を回収していく。


 見慣れた光景である。


 それはさて置き


「あと一人はどうしよう。ミアさんなら私に気を遣わないと思うけど」


 その場合目の前で勇とミアのイチャイチャを見せつけられることになる。


 その場合私の心臓がもたない。


 発狂不可避である。


 かと言って他に一緒の班になる人なんて……


「あ、そだ」

「どうしよう、凄く嫌な予感がする」

「悪いな勇。死なば諸共だ」


 私は携帯にメッセージを送る。


 すると直ぐに返事が返ってくる。


『私でよろしければ』


 答えはオッケーだそうだ。


「よし!!これで神秘の国の生活も余裕だな!!」

「僕の心労が……」


 そんなわけで無事、仲間を集めることに成功した。


 ふー、一時はダメかと思ったがなんとかなったな。


 あとは遊ぶ道具を準備して、それからみんなに暫く行ってくるって


「……あ、そっか」

「どうしたの?」

「いや……なんか、家族と別れるの久しぶりだなって」

「そっか」


 ……おい嘘だろ私。


 まだ修学旅行すら来てないのにホームシックだと!?


 まずい、この事実が勇にバレてしまえば


(シアの心の勇)

『ぐっへっへ、シアはみんながいなきゃ何も出来ないお子ちゃまなんでちゅね〜。そんなんでシャル様のお姉様名乗れんの〜。あとこの世の全ての女は僕の物だから、そこんとこシクヨロ』


 な、なんて奴だ!!


 とんだゲス外道じゃないか!!


「?」


 澄ました顔をして、どれだけ自分がイケメンか見せつけているのか!!


 こうなったら……


「いいだろう勇。見せてやるよ」

「え?何が?」


 修学旅行までに私が


「一人でも生きていけるってことをよ!!」

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