切り株神社の疑惑

#365日ショートショート 157

　神社に税務署が来た。

　切り株神社と呼ばれるそこは、地元でも有名な神社だった。事の始まりは数年前。長い年月を経て直径数メートルの幹に育った大樹が、雷の直撃を受けたという。一瞬のうちに折れたらしいそれを切り落とすと、立派な切り株だけが残った。成人男性がゆうに寝転べる巨大な切り株は、SNSで瞬く間に話題になり、バズった。きっかけは、そこを地元とする動画配信者の些細な投稿だった。

　雷の直撃という分かりやすいストーリーも相まって、「当たる」噂が広まり、特にギャンブルを好む参拝客が県内外からこぞって訪れた。神社は商機を逃すまいと、敷地の一部を有料駐車場に改装。境内に複数の露店まで並べたのであった。

　宗教法人は原則として非課税だが、収益事業には税が課される。匿名のタレコミを受け、税務署の職員は切り株神社を訪れた。週末は常に観光客でごった返すこの神社からは、適切な申告がなされていないのではないか。冷や汗をかく神主をよそに、職員らは黙々と境内を調査していった。

　なにも見つからないと思われたその時、本棚の裏に隠し扉が発見された。問いただす職員。言葉に詰まる神主。これは決定的な証拠が眠る部屋か。裏帳簿か。金塊か。職員は鼻息荒く踏み込んだ。

　もうだめだ、一巻の終わりだと、へたれ込み顔を両手で覆う神主。部屋の奥には、ブルーシートに包まれた不審な膨らみが……。勢いよくそれを取り払う。そこには、刃こぼれしたチェーンソーが数えきれないほど置いてあった。