【短編】俺の恋路を応援してくれた女友達に、片想い相手と仲良くなったと報告したら、何故か応援してくれなくなった
俺の恋路を応援してくれた女友達に、片想い相手と仲良くなったと報告したら、何故か応援してくれなくなった
【短編】俺の恋路を応援してくれた女友達に、片想い相手と仲良くなったと報告したら、何故か応援してくれなくなった
篠宮夕
俺の恋路を応援してくれた女友達に、片想い相手と仲良くなったと報告したら、何故か応援してくれなくなった
俺には幸運にも恋愛相談に乗ってくれるクラメイトの女子がいる。
女友達、と言い換えてもいい。
高校二年生の俺にとって、恋愛相談を受けてくれる女友達の存在は重要だ。
なにせ、女の子のことなんてマジで何もわからない。
特に恋愛感情になると、さっぱり。
俺に優しくしてくれるのは好意があるかのか、あるいはまったくないのか。
LINEをすぐに返してくれるのは好意を持ってる証拠か、あるいはたまたま手が空いていたからか。
二人きりで一緒に遊びに行くのは俺のことを好きだからか、あるいは単純に友達だと思っているからか。
考えれば考えるほど、ぐるぐると迷宮みたいな思考に囚われていく。
頼むから、脈があるのかないのか、はっきり教えてほしい。
しかし──高校生活で告白に失敗するとは、つまりデッドエンドだ。
まず好きな相手から距離を置かれる。これが超辛い。告白しなければ女友達とずっと仲良くできる可能性もあるけど、振られたらゼロになる。
もちろん、振られたときに「これからも仲良い友達でいてね」と言われることもあるが、俺の経験上、これからも仲の良い友達でいる可能性は万に一つもない。なんでだよ。
そして、きついのは俺が振られたことが一週間が経つ頃にはみんな知ってること。
俺は誰も言っていないってことは……マジ? そういうこと? それとも、他の誰かがちょうど見てたとか? 直接確認する度胸はないから、謎は迷宮入りだ。
だから、女の子がどんなことを考えているのか、俺はどうするべきなのか、アドバイスをくれる女友達の存在は正直ありがたく。
女友達──横寺紗凪との放課後の時間は、俺にとっては貴重だった。
「あははは! 直也、メンタル弱すぎだってば! 一回断られただけでしょ?」
「う、うるせー!」
放課後。
俺は紗凪に教室に残ってもらって、恋愛相談に乗ってもらっていた。
紗凪でもかなり目立つ女子だ。
なぜなら、クラス内でもトップクラスで可愛い。人形のように小さな顔。綺麗に染められた明るい金髪。素材の良さを生かしつつも、はっきりとした派手な化粧。鮮やかに彩られたネイルチップ。耳にはピアスをつけている。
完全武装、とでも言うのだろうか。
それが、紗凪への印象だ。
正直、俺みたいなクラス内でも平均的なところに位置するやつにとっては、紗凪のようなクラスのトップを陣取る女子は近寄り難い存在だ。
だが、
「でも、直也と話すようになってもう半年かー。ほんと早くない?」
屈託のない笑顔を浮かべる紗凪。
見た目から考えると、紗凪は近寄り難い。
だけど、紗凪はいいやつだ。
話さなかったから知らなかっただけで、話してみると面白いし、優しいし、一緒にいる時間は意外と心地よい。住む世界が違う、と昔は勝手に線引きしていたが、それは間違いだったと心の底から言える。
紗凪と話すようになったのは、ほんの半年前。
俺が林間学校の写真を買ったときに、紗凪にそれを見られてしまってからだった。
他の学校ではどうだかわからないが、うちの学校では林間学校に行ったときに、プロのカメラマンが写真を撮ってくれる。そして後日、学校でそれを販売するのだ。
まあ、最近はスマホやら何やらあるから、だんだんと少なくなってきていると聞くこともあるが、うちの学校ではまだ残っている。昔からの慣習らしい。
そんななか、俺が買おうとしたのは、自分と片想いの相手が写っている写真。
……我ながら、なかなかキモいと思う。
でも、あのときは記念にその片想いとの相手の写真が欲しかったんだ。
時間はもちろん慎重に選んだ。
友達がいる時間は当然ダメ。放課後で、それもみんなが部活をしていて誰も見ていない時間に限る。
そうして検討に検討を重ねた結果、絶妙なタイミングで計画を実行に移したのだが──。
あろうことか、クラスメイトの横寺紗凪に見られてしまったのだ。
それからは、語ることはほとんどない。
片想い相手が写っている写真を買う理由を、あれよあれよという間に聞き出されてしまい、「じゃあ、私が恋愛相談に乗ってあげよっか!」と言われ、今に至るわけだ。
「まあ、元気だしなって!」
どれだけ話し込んでいたのか──
紗凪との恋愛相談から、いつの間にか最近流行っているスイーツなどの雑談を長時間喋った後に、再び恋愛相談に戻ってきていた。
「一回断られたぐらいで落ち込むなんて、直也らしくないじゃん! 今までもちょこちょこ断られても、あんなに頑張ってたのに!」
「それ、褒めてないだろ」
「あ、バレた?」
俺が恨みがましい視線を向けると、紗凪は誤魔化すようにあははと笑った。
俺にとって紗凪との恋愛相談の時間は貴重だ。
されど、一つだけ問題を挙げるとするならば、それは俺が失敗した話を聞くと、紗凪は楽しくて堪らなさそうにすることだ。煽ってるわけじゃないのはわかっている。俺としても不快とまではいかない。でも、せめて笑わないでほしい。
しかし、紗凪との恋愛相談をやめない理由は。
「大丈夫大丈夫。直也はたくさんいいとこあるんだから、いつか気づいてもらえるって」
一頻り笑ったあと、紗凪は優しい包み込むような笑顔を浮かべてみせた。
そう。結局のところ、紗凪は優しいのだ。
だからこそ、クラス内でも人気があるんだろう。
実際、告白された回数も多いらしい。だが、ことごとく断ってきているとか。以前に紗凪に理由を聞くと、「好きなひとがいるんだよねー」と小っ恥ずかしそうに言っていた。意外と乙女だ。
「んー、じゃあそろそろ帰ろっか。もう遅いし」
うーんと、紗凪が腕を伸ばして背伸びをする。
これで今日の恋愛相談は終わり。
そのはずだったが……実は、俺にはまだ報告していないことがあった。
「あ、紗凪。最後に一つだけ」
「ん、なに?」
「実は、さっきの話には続きがあってさ。断られたあと、別の日で誘ってもらったんだよ」
「……………………………………マジ?」
「ああ、マジマジ。だから今度の土曜日、一緒に二人きりで遊ぶことになったんだ」
そう。これこそが最後まで取っていた俺の爆弾報告だった。
なんと、ついに二人きりで一緒に遊ぶところまで約束を漕ぎ着けたんだ。
それもこれも、紗凪のおかげ。ずっと相談に乗ってくれていたからだ。
きっと、紗凪も喜んでくれるはず。
そう思っていたのだが──
紗凪の反応は、俺の予想とはまったく異なっていた。
「……ふ、ふーん。そ、そっか…………よ、よかったじゃん」
紗凪は何故か固まっていた。
ギギギと壊れた機械のように首を動かして、こちらを向く。
紗凪は引き攣ったようにぎこちなく笑いながら、肩をばんばんと叩く。
「お、おめでと、直也! あともう少しじゃん! みゃ、脈あるんじゃない?」
「やっぱり紗凪でもそう思うか? いや、ほんとありがとな」
「う、ううん、気にしないで。た、たいしたことしてないしさ……」
「そんな謙遜するなよ。全部、紗凪のおかげに決まってるだろ」
「わ、私のおかげ……そうだよね、私のおかげだよね……」
不思議と、紗凪の表情は今にも泣きそうに見えた。
だが、それも一瞬。
紗凪は全精神力を振り絞ったような笑顔をつくると、鞄を持ってばっと立ち上がる。
「あっ、そういえば私、用事あるんだった! ま、またね、直也!」
そして、紗凪は教室の外へと駆け出して行ったのだった。
「はぁ……はぁ……」
私──横寺紗凪は廊下へと全力で駆け出して昇降口に辿り着いた。
そうして、直也が追いかけてきていないことを確認してから、全力で内心で叫ぶ。
なんでこうなったの!? ほんとなんで本当に仲良くなるの!?
直也の片想い相手は、私もよく知っているあの子だ。
あの子の性格からして、好意も何もない相手と二人きりで一緒に出かけたりはしない。
ということは、直也のことを本当に好きになっている可能性もあるわけで……。
「ううっ……」
呻きにも似た声を出してその場で崩れ落ちてしまう。誰かに見られてしまうかもしれなかったが、知ったことではない。
だって、もう何もかもやる気がなくなったし。
用事があるなんて嘘。あんなのは直也の前から逃げ出すための方便だ。
私が直也のことを好きになったのは、いつからだろう。
きっかけは些細なことだったと思う。
でも、いつの間にか目で追うようになっていた。何が好きなんだろう。いつもどんな風に過ごしているんだろう。ああ、彼ピになってくれないかなー。気がつけば、授業中でもそんなことを考えてばかりだった。
だけど、私たちは元々話したこともほとんどなかった。
時々、無理やり話題をつくって話しかけたこともあったけど、結構びっくりした感じになってたし。まあ、それは私だってそうだと思う。
そんなとき、私は、直也があの子のことが好きなんだって知った。
衝撃だった。
恋が始まる前に終わった、と思った。
でも、同時に、私のなかの悪い部分が囁いた。多分、直也はまだ片想い中だ。だって、まだあの子と直也が付き合ってるという噂は聞いたこともない。あの子は学年でも有名な子。誰かと付き合えば絶対に噂にはなる。
なら、まだ可能性はある。
これから奪えばいい。
これをチャンスにすればいい、って。
だから、私は提案した。
──恋愛相談してあげよっか、と。
…………なのに。
なのに、なのに、なのに!
馬鹿じゃないの!? なんで本当に仲良くなっちゃうの!?
確かにちゃんと恋愛相談とかしたけどさ!
これから、直也とどう接すればいいの!? もう応援なんかできるわけないじゃん!
うあああああああああああ、私の馬鹿あああああああああああああ!
後悔してもう遅い。
私の恋は今度こそ終わってしまったのだから。
多分、直也のやつ、何もかも上手くいって喜んでいるんだろうなぁ。
ううぅ……直也の馬鹿ああああああああああああ!
うわあああああああああ、俺の馬鹿ああああああああああああああ!
完全にミスったあああああああああああ!
なんで仲良くなったなんて報告したんだよ! 馬鹿だろ、俺! 馬鹿だろ!
本当は、何かも嘘だった。
仲良くなったということはもちろん、好きなひと自体も。
本当は──ずっと横寺紗凪のことが好きだった。
だけど、紗凪とは住む世界が違って。俺はずっと見ているだけでしかなかった。
そんなとき、紗凪に写真を見られるという愚行をしてしまった後に、想い人を勘違いした彼女に提案されたのだ。
──恋愛相談してあげよっか、と。
冗談かと思った。
まさか、好きなひと自身にそう言われるなんて。
しかし、同時に察した。
恋愛相談をしてくれるということは、脈はまったくないということだ。
だって脈があるのに、想い人の恋路を応援するなんて意味がわからない。
俺の恋が始まる前に終わった、と思った。
でも、同時に、俺のなかの悪い部分が囁いた。
これは、紗凪と仲良くなるチャンスだ。俺が紗凪の男友達になれば、紗凪の好みなどを知ることができる。恋愛相談という体で、色々と聞き出すことができる。
幸い、紗凪に彼氏がいるという話は聞いたことがない。
あれだけ有名人なら、彼氏がいればすぐ噂として出回るからだ。
ならば、まだ可能性はある。
だから、俺は彼女の提案に頷いたのだ。
…………なのに。
なのに、なのに、なのに!
馬鹿だろ!? ほんと馬鹿だろ、俺!
いくら恋愛相談で進捗が必要だからって、仲良くなったって嘘ついたんだよ!
しかも、その翌日には、紗凪から「私の恋愛相談はもういらないよね」とか言われるし!
あれから、何故かずっと距離置かれてるし!
俺、いったいどこで間違えたんだよ!
俺はいつも持ち歩いている生徒手帳に入った写真を取り出す。
その写真は、紗凪に恋愛相談を持ちかけられるきっかけとなったもので。
そこには、嘘ついて想い人として名前をあげてしまったあの子と。
──輝くような笑顔の紗凪が小さく一緒に写っていた。
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