第38話 ファミレスで人生について語る
ファミレスでキラリと待ち合わせをしていた。
彼女は制服姿のまま椅子に座っていた。
店員に女子高生の連れが居ますと言った時は怪訝な顔をされたが、どういう関係性に見えたんだろうか。
「遅いですよ」
そういう割にはまだ注文は何もしていないようだった。
待ってくれたのかな?
「一応、5分前には着いたんだけどね」
「私は8分前には着いてました」
「それは早いね」
3分の誤差か。
スマホを弄っていた一瞬だな。
「ごめん、少し他の人と色々と話をしててね」
「やっぱり長引きましたか? 前澤社長の話は」
「まあ、ね」
本当はツルギ王子とか、ミラちゃんとかとも話をしていてから遅くなったのだが、それは別に言わなくてもいいだろう。
話さなくても良かったのにと言われそうだし。
「今回の件はありがとうございました」
頭をテーブルにつきそうなぐらい深く下げられる。
いきなりの行動に俺は虚を突かれてしまった。
「そんなに畏まらなくていいよ。俺だってキラリにはVtuber続けて欲しいからさ」
「いいえ、今回私の父親のせいで土下座させてしまって……」
「それは俺がしたことだからいいんだけど……。ねえ、それ誰かに話した?」
「……話したかも知れませんね」
「うん、まずそれを謝ろうか」
あとどういうバラし方をしたのかも気になる。
土下座を強調されてミラちゃんに言われたからな。
絶対、家に乗り込んだことを強調したんじゃなくて、俺が土下座したことを言ったんだろうなって喋り方だったからな。
「あの時は格好良かったですね」
ニヤニヤしながら言ってくる。
なんだろう。
ミラちゃんと同じセリフを言われているはずなのに、こっちは馬鹿にしてきているように聴こえる。
人によって言葉の意味合いって変わるんだな……。
「……そういえばさ、コラボってする気はない?」
「何注文します? やっぱりパフェがいいですか? パフェ一つにスプーン二つ頼みましょうか?」
「話の逸らし方が下手すぎるね」
そのまま流されてやれるほど、簡単な質問じゃない。
コラボをやるかやらないかで、今後の活動方針はガラリと変わる。
それはキラリも分かっているようで、真剣な表情になった。
「もしかして他の四期生と仲が悪いのか?」
「仲は悪くないですよ。――良くもないですけど」
「おい」
「そこまで話していないんですよね、みんなとは。そもそも私は活動休止してましたし、会う機会もないから、どんな人達かもよく分かってないです。ただ、四期生はかなり変わった方が多いですけどね」
「キラリは言ったら駄目な台詞だね、それは」
「どうしてですか!?」
変わり者っていうところじゃ、キラリも変わり者だ。
キラリが言うぐらいだから、相当変わり者かもしれない。
というか、Vtuber事務所にいる人みんな変わっているかもな。
変わっていなきゃ、人気も出ないし、仕事も続かなそうだ。
「これを機にみんなと仲良くなる気はない?」
「……それは、仲良くなった方がいいですけど……」
この言い方。
やっぱり、乗り気じゃないみたいだな。
他のメンバーのことはよく知らないけど、知っている人物だったら意見は言えるかな。
「ミラちゃんなら承諾してくれそうじゃないか?」
「まあ、あの子だったら大丈夫そうですね。確かに」
おっ。
ミラちゃんに関しては好感触のようだ。
「それじゃあ、一応マネージャーにコラボの件を確認してみるけど、いいかな?」
「いいですよ。マネージャーさんも変わっているので、コラボをしてくれるかどうかは分からないですけど」
「むしろ、コラボにならないで欲しいって聴こえるな」
「……そんなことないですよ」
ミラちゃんのマネージャーか。
そういえば、まだ会ったことないな。
男なのか、女なのかも知らない。
マネージャーとVtuberってもっと一緒にいるイメージだったけど、ミラちゃんの隣にはいないんだよな。
恵さんとツルギは一緒にいる時を何度か見たけど、あの二人が姉弟で仲良すぎるから一緒の姿を観るのが多いだけなのかな。
「でも、動画はどうするんですか? まさかピアノ配信する訳ないですよね?」
「……そうだね。それは少し考えておくよ」
キラリがピアノ配信をして、コラボ相手がカラオケで曲を歌う。
そういう形が理想的ではあるけど、相手が相手だ。
人見知りしそうなミラが歌ってくれるか問題もあるし、それに、即興ピアノがキラリの持ち味だ。
コラボ配信であっても、即興演奏は期待されるだろう。
その時に、ミラちゃんが即興で歌を歌えるかどうかってかなり厳しいと思う。
そう考えると、コラボ配信でピアノ配信をするのはリスクが高いんだよな。
「……今回の件、本当にありがとうございました」
「さっきもそれ言ったよね。もう言わなくても大丈夫だよ」
「いいえ。そういうことじゃないんです」
「え?」
さっきのように邪悪な笑みを浮かべる。
「私の人生貰ってくれるんですよね?」
俺が土下座しながら言った言葉が、フラッシュバックされた。
――娘さんの人生を俺に下さい!!
あの時、俺は確かにそう言ってしまった。
「やっと私の彼氏としての自覚が出てきましたね!!」
「なんで嬉しそうなんだ!? そういう意味じゃないから!!」
Vtuberとしてやっていくことは簡単じゃない。
活動休止していたキラリがそれは一番分かっているはずだ。
だからこそ、俺は彼女の人生をくれと言ったのだ。
そこに恋愛感情なんてない。
「でも、私の父親よく言ってますよ。あいつは一体どんな奴だとか、早くあいつを家にもう一度連れてこいとか」
「……お父さん、かなり大きな誤解をされているようですね」
あのお父さん、口が悪いだけなんじゃないだろうか。
実はかなり娘を溺愛している気がする。
「誤解解いておいてくれ!!」
「面白いからそのままにしておきます」
全然面白くない。
女子高生と関係があると分かったら、下手したら逮捕されるような時代だからな。
冗談にしても笑えない。
「私のこと幸せにしてくれるんですよね?」
キラリが冗談めかして笑う。
こいつ、俺のことを試しているな。
よし。
俺はネクタイを締め直す。
「ああ、約束するよ」
そう言うと、キラリがあっけにとられた顔をした。
マネージャーに転職したら担当Vtuberが炎上しそう 魔桜 @maou
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