第4話 くノ一・姫子のお手柄




 そうこうするうちにも初夏から夏へと季節は進み、おかげさまで屋外活動が盛んな世代を中心に、わが「リバーサイド自転車店」はますます千客万来になって来たよ。



      😄



 そんなある夜、おとなしく眠っていた姫子がむくっと起きるとソワソワし始めた。

 店に侵入者?! と緊張したけど、姫子は吠えもせず耳だけピクピクさせている。


 しばらくすると、さも安心したように、お気に入りの毛布に身体をあずけるのさ。

 数日おきにそんな不思議がつづいていたある晩、つとかあさんが店に出て行った。


 で、だれかと小声で話しているから、なんだろうと思って行ってみたら、なんと!

 常連さんがよく連れて来ていた男の子で、小さな手にしっかりなにか握っている。


 それはかあさん丹精の桔梗の花だったので、またまたビックリ!(@ ̄□ ̄@;)!!

 亡くなったとうさんも好きだった花で、毎年、花壇でたいせつに育てていたんだ。


 

       🌼



 青い花を握ってうなだれている男の子は、泣きながら、かあさんに話したらしい。

 心を病んだ父親が家で静養しているが、馴染みの自転車店の桔梗が大好きなこと。


 レキジョのかあさんと一緒で、水色桔梗を家紋とする明智光秀ファンであること。

 父親に早く元気になって欲しくて、夜になると花壇の桔梗を摘みに来ていたこと。


 黙って摘むのはわるいことと知りながら、どうしても頼む勇気が出なかったこと。

 父親の具合がよくない今夜は気が急くあまり、暗がりでつまずいてしまったこと。



      👦



 ふと、気づいたら、うっかりぼくも、もらい泣きをしていたよ。(´;ω;`)ウッ…

 男の子の一途な思いと、うすうす知っていながら咎めなかったかあさんの気持ち。


 それに、元気だったころの父親に連れられてよく来店していた少年にかわいがってもらった姫子が、おもてに気配を感じながらも「ワン」とも言わなかったこと……。


 そんなくノ一姫子が姉ちゃんと一緒にぼくのそばに立っていた、いつもの笑顔で。

 月の明るい晩でね、星は無数だけど月はひとつしかないんだなと、ふと思ったり。



      🌌



 飼い主さん? 地域新聞でも紹介してもらったけど、結局、あらわれなかったよ。

 老いたり病気になってお金がかかるからと捨てる人って、本当にいるんだね。💦


 でも、おかげでぼくたちは、だれにも返さなくていいんだとうれしかったけどね。

 もし引き取りに来たとしても、かあさんがキッパリ交渉して返さなかったろうね。


 せっかく縁あって家族になった二代目姫子には、少なくとも100歳までは長生きしてもらい、空のとうさんと初代姫子に下界のことをたくさん伝えてもらうんだ~。



      🚩👩👧🐶


 

 そうそう、もうすぐマラソン大会なんだけどね、イイ線いきそうな予感がするよ。

 いろんなことを乗り越えて来たわが家の応援団、最強だからね。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ


 

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姫子はくノ一 🧕 上月くるを @kurutan

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