第14話 その瞳にゾッコンLOVE!

「うおおお! いきなり、大人気の『だるまさんが、自立した』かよ!」

「競技人口100万人の超ゲームだ!」

 いつも通りの盛り上げ役の二人が叫ぶ。

 キャワキャワは、

「さあ、あのダルマ妖精を見て!」

 すると、グラウンドの一番端っこに、ダルマの形の妖精が寝転んでいる。

「んもおー、宿題できないし、どんどんポッチャリしてくるし、全部お前らのせいだぞお!? こんなに僕がぽっちゃりして、責任取れよお!?」

 ダルマは寝転んでポテチを食べながら、そう言ってくる。

「みんな、ルールは簡単! あのダルマが『自立』するまでの間、ダッシュ! けど、自立した瞬間に動いた人は失格~! ダルマにタッチしたら、そのグループはクリアよ! 四人一組でのグループで、誰か一人でもタッチすればクリア! これが『ダルマさんが自立した』よ」

 キャワキャワは説明する。

「自立した、っていうのはどういう事・・・?」

 ボンは首を傾げる。

「やってみれば、すぐに分かります!」

 ククレアはダッシュの態勢になった。

 ダルマの巨大妖精は、

「んもおお! 宿題なんて、僕にできるワケないでしょお!? 君たちがさっさとやっておいてよね! ぷんぷん!」

と少し怒っているようだ。

「さあ、行きますよー、みんな!」

 キャワキャワはメガホンで怒鳴る。

(自立したって言っても、どういう状態なのか・・・)

 ボンはともかくスタートラインに立った。

「さあさあ、グループを作ってください」

 キャワキャワは言う。

「えっと、僕とククレア、そして城ケ崎さんと・・・」

 もう一人必要だ。

「ダルマに注目だ・・・全ての所作に命が懸かっていると思え」

 それは、銀髪の少女だった。

 片目だけが見えるような憂いのある髪型。

「あ、僕らのパーティに加わりませんか?」

 ボンはそう言った。

「・・・いいだろう。誰かの背を守ることも、強くなることと同義か」

 憂いの美少女は言った。

「ボンさん・・・その人が・・・? さっき、ボンさんが言っていた・・・?」

 ククレアは聞くが、

「そうだよ、物凄く強いんだ! きっと頼りになるよ!」

 城ケ崎も、

「“七柱”の中でも最弱と称される・・・あなたが仲間にね。それは心強い」

 え・・・?

 ボンは耳を疑った。

「城ケ崎さん、今なんて? 違うよ、この人は逆世界でもとんでもなく強いんだよ!? ねえ?」

 ボンの言葉に、憂いの美少女は沈黙している。

「ほ、ほら! 沈黙したままで、いかにも強そうじゃないか! ここのお間抜けキャラとは違うんだよ!」

 銀髪の美少女は、

「違いとは所詮、他人が決める相対的なもの・・・しかし、それに左右されるのもまた、人らしさ、と言えるか・・・」

「ほら! いかにもライトノベルの強者っぽい台詞! ねえ?」

「・・・フっ」

 ククレアは少し訝りながら、

「ところで、銀髪のお方・・・失礼ですがお名前は・・・? 私たちは転入生ですので。私はククレアといい、こちらは“最弱”のボンさんです」

「名など無用・・・私はこの弓矢に人生を捧げた、ただそれだけの者・・・」

「ほら! やっぱり強いんだ! ・・・けど、やっぱり名前が分からないと・・・」

「・・・フっ」

「いやいや、『フっ』じゃなく、お名前を・・・?」

 しかし、憂いの銀髪の美少女は、何故かまごまごとしている。

「どうしたんです・・・?」

「名前は・・・言いたくない・・・ゴメン」

 あれ? 何故か照れている・・・?

「そりゃ、言いたくないでしょうね・・・別名を“半月の巫女”・・・最年少で“七柱”になったのも、そのあまりの名前の弱さそうな加減からですものねえ」

 城ケ崎はニイと笑う。

「・・・うるさいわね」

「ねえ? 『その瞳にゾッコンLOVE』さん?」

 え・・・?

 今、なんと言った・・・?

 馬鹿な・・・

 そんなはずがない!

 そんなことがあるはずがない!

 そんな馬鹿な名前の人間がいるはずがない!

「・・・・名など、所詮は血が半分繋がった他人がつけたに過ぎぬ!」

 そ、そうだ・・・この銀髪の人は物凄く頼りになるはずの・・・

「けれど、この世界では大いに実力に関係あるわ。その瞳にゾッコンLOVEさん。ほーんと、弱そうないい名前で羨ましいわあ」

「クウっ!」

 すると、その瞳にゾッコンLOVEは、ばっとマントを翻した。

「その通りだ! みんな、私のことはどうか・・・『瞳』とか『LOVEさん』とか呼んでくれ・・・! いくらこの逆世界でも、限度がある! 頼む!」

「なあ!? その瞳にゾッコンLOVE・・・? それがあなたの名前!?」

 ククレアはk驚愕し、口を両手で覆う。

「ぐっ・・・・!」

 ふるふると、恥ずかし気に肩を震わせる、その瞳にゾッコンLOVE。

「僕は、あなたはきっと強くて賢いラノベのキャラだと思っていたのに・・・?」

 しかし、ククレアは

「なんという駄目な名前! これなら、ボンさんとも競える程の駄目さ加減・・・? しかも、普段の凛々しい振る舞いとも相まって、絶妙な恰好悪さです! その瞳にゾッコンLOVEさん!」

「ええい、やめろお! そんなに私の名を呼ぶなア!」

 その瞳にゾッコンLOVEは、叫んでいた。

「くっ! 私は、この名前にした両親を一生恨むぞ・・・! ・・・本当は私は弓矢の達人なんだ! それが、この名前のせいで“虚弱七柱”みたいな所に入れられて・・・!」

「いいお名前じゃないですか! 絶妙に古くて恰好悪く、最弱の名前です!」

 ククレアはそう言う。

「お前らの世界だとそうだろうが、私は腕に自信があるんだ! 私は名家に拾われたのはいいが・・・『この世界では弱者になるべき』と、ワケの分からんことを言われて、こんな恥ずかしい名前に・・・! 折角、現世でアーチェリーを鍛えていて、こっちでもアーチャーになれて、かつ割と美形で銀髪になれたと思っていた・・・だから、“それっぽい感じの振る舞い”をしていたのに、親の馬鹿ネームのせいで台無しだ!」

 ボンは、

「え? すると、その瞳にゾッコンLOVEさんは、この世界じゃない所から・・・?」

「・・・まあ、そうだ。待てよ、最弱のボン・・・すると、まさかキミもなのか?」

 その瞳にゾッコンLOVEの目が輝いた。

「・・・お二人とも、随分と仲良しなんですね。ボンさんも、ずっとその瞳にゾッコンLOVEさんのことばかり・・・!」

 何故かむっとしたようなククレアがそこにはいた。

「え・・・? ククレアさん、怒っている?」

「そんなにその瞳にゾッコンLOVEさんにゾッコンなら、ずっとその瞳にゾッコンLOVEさんといればいいじゃないですか! かなりのゾッコンのようですね!」

「ま、まさかのツンデレ・・・? いや、可愛いけど、僕は別にその瞳にゾッコンLOVEさんを、そこまでゾッコンじゃないよ! ただ・・・」

「『そこまで』ということは、やはり少しはゾッコンのようですね!」

 すると、その瞳にゾッコンLOVEは、

「ええい、私の名をそんなに呼ぶなあ! ゾッコンゾッコンというな! せめて、『瞳』と呼んでくれ! なんなら『LOVE』でもギリギリ認める! しかし、『その瞳にゾッコンLOVE』というフルネームだけは止めろオ!!」

 と叫んだ。

 ボンはがっくりとして、

(まあ、この逆世界だものな・・・)

と考えていた。

 折角、いかにも中世ファンタジー世界の強者みたいな人に会えたと思ったら、誰もが驚愕するような名前だったようだ。

「じゃあ、なんて呼べばいいのかな?」

 ボンが聞くと、

「子供の頃の友達は『瞳ちゃん』とか『LOVEちゃん』とか呼んでくれてた」

「そっか・・・じゃあ『LOVEさん』かな」

 ボンはそう言った。

 ククレアも続き、

「ええ、いかにも『ゾッコンLOVEさん』という感じがしますわ!」

と言った。

 その瞳にゾッコンLOVEは、

「ううむ、そうか? できれば瞳の方がいいんだが、まあLOVEでもいいだろう」

「じゃあ、ゾッコンLOVEさん! 僕らとパーティを組んでください」

 ボンは言う。

「だからその『ゾッコンを入れるなと言うんだ! というかできれば『瞳』の方が・・・』

 ククレアさんは微笑して、

「何を言うんです!? いかにも『ゾッコンLOVEさん』という感じじゃないですか! ねえ、ボンさん」

「うん、言われてみると・・・今更『ゾッコン』を取っても・・・なんだか『ゾッコLOVEさん』らしくないし・・・」

 ヨワイコも、

「そうだよ。折角親がつけてくれた名前に失礼だよ、ゾッコンLOVEさん」

という。

 その瞳にゾッコンLOVEはフルフルと肩を震わせながら、

「ええい、じゃあもう好きにしろ! なんとでも呼べ・・・! 私は“億者”になり、この世界を変えて見せるぞ・・・!」

 決意を新たにし、普段通りの自信に満ち溢れた、その瞳にゾッコンLOVEらしい瞳の輝きを取り戻したようだ。

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