第5球 それで

前話『第4球 ᚡ』

https://kakuyomu.jp/works/16817139556144557017/episodes/16817139556347124636


……っていうんや?」

 何故か関西弁で名乗った神様につられて、私も関西弁になってしまった。


「違う!だ!

『フレイ』ではない!関西弁ではない!」

 両手で机を叩いて立ち上がる女神。……なんや、関西弁じゃなかったんや。

「それに『フレイ』だと双子の兄弟の名になってしまうではないか!」


「そっかぁ、フレイヤ様は『』って呼ばれるのなのかぁ』と、心の中でだけつぶやいた。ホントは口に出したかったけど、また怒られそうな気がしたので。

 それにしても、勉強疲れに非日常が重なったからか、今日の私は妙に冴えている。もしかしたら、北欧の神様だけでなく、ダジャレの神も降りているのかもしれない。


「……また、つまらんことを考えておるのだろう。愚か者めが……」


 ふふふ。苦笑いを浮かべて首をすくめる。

 ……ほんのちょっぴり頭が冷えた。相変わらず、テレビは止まって動かないし、お母さんがどこに行ったのかは分からないけど。


「フレイヤ……」

 口の中で目の前の女神様の名前を転がす。

 北欧神話に登場する豊穣の女神。私はあまり詳しくないのだけど、予備校で隣の席の木本さんが好きらしく、いろいろ話してくれるので、名前くらいは知っている。

 ……そう。たしかフレイっていう双子がいて、仮面ライダーみたいな名前の夫もいて……。なのに、いろんな男神と関係をもっていた……。


「どすけべ女神……」

 ハッと口を抑えるも、うっかり口から溢れてしまった。彼女の綺麗な顔が再び怒りに歪む。


「ふんっ、そのような下賎な言葉は避けてもらおうか。

 貴様らの偏った道徳基準では、我らの価値観は理解しがたいだろうがな」

「すみません」

 私は慌てて頭を下げる。彼女を怒らせるのは得策ではない。今の特異な状況に彼女が関係しているのは間違いないのだから。つまり、最善は……。


「……あのっ!

 ご飯おつぎしましょうか?!」

 焼き鳥に手を伸ばすか迷っていた女神は訝しげに眉を潜める。

「その……味が濃いならご飯が進むかなって。それに白米をこうして食べるのは、世界的には珍しいですよね?私なりに『歓待』させていただきます」

 そう言って炊飯器を開けると、美味しそうの真っ白な湯気がふわっと立ち昇った。


次話6球 ᚢ』

https://kakuyomu.jp/works/16817139556144557017/episodes/16817139557477154988

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