中田もな 様
第3球 次いで
(https://kakuyomu.jp/works/16817139556144557017/episodes/16817139556144711049)
月の綺麗な夏の夜。駅前の予備校からの帰り道。うだるような昼間の熱がまだ真っ暗な闇の中に残っているみたいで、やっぱり外はむわっと蒸し暑い。
私はぐっとハンドルを握って、力いっぱいペダルを踏んだ。自転車がギュンっと進んで、生ぬるい風が汗ばんだ肌を撫でていく。
街灯や窓の明かりが闇に流れて、流れ星みたい。風切り音に包まれて、私は世界にとり残された気分になる。
「あーぁーっ!どーしよっかなーっ!」
闇夜に向かって思わず叫ぶと、側の塀に載っていた野良猫が驚いたのか、転がり落ちた。
「……ごめん」
独り言を聴かれた恥ずかしさに包まれて、さっきより強くペダルを回す。
私は焦っていた。
もう高三の夏なのに、私は志望大学が決まっていない。というか、そもそもやりたいことが分からない。
数学は得意じゃないので、文系を考えてはいる。だけど、どれが好きとか苦手とかもなくて……。
もちろん、受験科目も決めていない。
とりあえず、国語と英語はやるとして、あとひとつ。社会から何か選ぶべきだろうと思うのだけど、どれがいいか分からない。
多くの大学で受験科目になっている日本史や世界史がいいかな?と思うものの、みんながやらない倫理とかの方が点数を稼げそうな気もしている。政治経済は働き始めてから、役に立ちそうな気もするし……。
と、まぁ、無駄に悩んで決められない。
なんてったって、社会だけで10科目もあるのだ。大きく分けても3種類。3つがひとつにまとまっている国語のことをちょっとくらいは見習って欲しい。
「……うぅ、ぐおーーっ!もう、どうせいっちゅうんじゃーっ!」
喚いてるうちに、家に着く。
「みどりー」
振り返ると、お母さんもスーパーのパートから帰ってきた。
「お疲れ様。
今日は廃棄品の焼き鳥もらえちゃったよ!晩御飯で食べようね」
ニッコリ笑う彼女の顔には、じんわり疲れが滲んでいた。
私のためにいつも一生懸命な彼女を想うと、あんまりぐずぐず言ってられない。
「……あと、夜中に騒ぐのは近所迷惑だから、気をつけなよ」
カーッと顔が真っ赤に染まった。夜の風はほんのちょっぴり涼しかった。
(https://kakuyomu.jp/works/16817139556144557017/episodes/16817139556347124636)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます