第9話「起動中の質問会」

 いよいよ軌道きどう管理局の戦闘機が攻撃を始めるのかな?指揮しきしつを見回すと実習生が少しざわつき出している。

 私はグリップを使って屈伸くっしん運動うんどうをしながら、先生が何をしているのかポヤーっと見ていた。



「セブン、状況じょうきょうの報告を出して」

宙域ちゅういき戦術せんじゅつ状況 分析ぶんせきを表示しました。艦長」


 先生と私のあいだの台上に大きめの立体映像があらわれて数字や記号それから点線とかが次々と増えていく。

 これが問題の岩塊で、こっちが管理局の戦闘機だろうか。ごちゃごちゃ情報が多くて見づらい画面だな。うーむ。


 むずかしい顔をして後ろ頭をきながら私が情報を見ていると。

「実習生の皆さんには、分かり易いように整理した物を表示しなさい」

「了解です。処理済み情報を提供しました」


 おおこれは、すっきりして見やすいな色分けもされてるし。戦闘機の有効ゆうこう射程しゃていには、まだまだ距離があるのがひと目で分かる。

 落ち着かなかった実習生たちいち同もひと安心したみたいだ。



 でも先生には仕事があるようで一息ひといきついたりしていない。

ぼし 制御せいぎょけい起動きどう

「起動しました。すべて成功」


「よろしい。転換炉てんかんろ運転はじめ」

連続物質れんぞくぶしつ転換炉の始動しどう準備を開始しました。

 ・・・成功、HBT7は第二段階に移行。

 テクタイト開放します。輸送機、補給艦の連携れんけい良好・・・」



 宇宙戦艦の端末が呪文じゅもんのような読み上げを続けているが、ほぼ全て私の耳を右から左に通り過ぎていく。

 ただし、この戦艦をミツボシと呼んだのダケは耳に残った。認証にんしょう暗号あんごうを登録した時に艦名も変えちゃったのだろうか?


 聞きたいけど先生がいやがって変えた物だと知ってるから気が引けるなー、などとチラ見しながらモジモジしていたら。


「本艦が動ける様になるまでの合間あいまに質問も受け付けます。勿論もちろんですが実習についてですからね」

 何だか無理強むりじいしたみたいな、いやいや自惚うぬぼれ過ぎだ。今は皆の体験実習なんだから、これも皆の為に用意してくれた質問時間に違いないんだ。



 まっ先に質問するのは、この私だ。

「はい!先生。この宇宙戦艦の名前はコメツトサン・ハーイと聞いたのですが改名かいめいしたのですか?」

「えっと・・・」

 先生が言いよどんだ。やっぱり不味まずい質問だったかな。


「その件については、わたくしセブンから返答します。

 彗星すいせい型1番艦がひとぼし、同型2番艦はふたぼし、3番艦である当艦にぼしの名称が正式登録されています。

 原因はセブンの連絡不足であった事を謝罪しゃざいします」


「あれはジモン司令がつけた愛称あいしょうの様なものらしいの」

 あだ名だったのかまぎらわしい落書きをするもんだ。

「ちなみに他の二隻にもあるのですか?」

 ちょっとだけ気になります私。


「セブン、公開しても」

「問題ありません。当艦と同様に意味不明なもので

 一つ星は、クタバレカイザア

 二つ星は、イチブンノイチ・スケエル

 と発音するそうです」

「本当に何のことやらサッパリですね。でも納得なっとくしました」

 やっぱり諸悪しょあく根源こんげんは司令だったのだ有罪ギルティ


 後の質問は他の実習生にゆずっておくかな。



「もしも宇宙戦艦の動きにえられなくて振り飛ばされたら、どうすればいいのでしょうか?」

 ああ!それ聞きたかったんだけどまったくすっかり忘れてたー、私バカよねー。


われが説明しておくべき事項じこうでしたね、質問に感謝します。

 浮遊ふゆうしてしまった場合は、まず全身を使ってはりきなさい。壁や天井どこでも手近な所でろしい。

 そして、そのまま作戦終了まで張り付いてなさい。指示があるまで移動してはいけません」


 なるほど全身で吸着した方がハンドルにつかまっているより強力かもしれないな。だったら最初から床に張り付いていた方がいいんじゃ・・・さすがにそれはカッコわるすぎだな。



「宇宙戦艦の外回りを見学した時に不思議に思いました。先生の思い通りに観光船が飛び回っていたからです。

 何も持たずに、どうやって操作していたのでしょうか?」


「あれは我の感覚拡張かんかくかくちょうを」

「艦長!それは機密きみつ事項じこう該当がいとうする恐れがあります」


 〈秘匿ひとく通話〉

 まさか、まだ公開されてないのですか

 未だに情報統制じょうほうとうせいされています

 あそこは大戦後に閉鎖的な体制が強化されました

 了解、後日あらためて関連する事柄ことがら精査せいさしましょう。以上

 〈秘匿通話終了〉


「あれは我が特殊とくしゅな端末を使用して操艦していました。まだ一般的いっぱんてきではない技術なので見た目では分からなかったのです。

 守秘義務しゅひぎむの範囲で答えられるのはこのくらいです」


すごい端末ですね。ありがとうございました」

 機密だ、守秘義務だのと聞いて質問を切り上げたみたいだ。無理もないよね私も深掘ふかぼりしようとは思わないし。



 情報画面に赤いものがピコピコ点滅しだしたぞ。何だろう?


「艦長、軌道管理局の戦闘機が搭載機とうさいきを放出。武装不明ですが自爆型の可能性大、目標との接触予定が繰上くりあがりました」

 親機から子機が出てきたってとこか、子機のスピードが超速ちょうはやいんですけど。


「セブン、転換炉の調子はどうイケそう?」

「HBT7が何とかすると進言しんげん


 うなずいた先生の目がキラーンと輝いている。あ、やっぱり左右でひとみの色が違うぞ。見る角度によって微妙に変わるんだな。

 この近さじゃなきゃわからなかっただろう。先生の目の前に陣取じんどった私をたたえてやらねば。


「よろしい出力上げ、戦闘機動にそなえよ」

「了解、全艦ぜんかん待機 態勢たいせい

 待機たいきって?こんな時に休んじゃっていいのかな。


「皆さん聞いての通り管理局の作戦が想定そうていより進みました。

 事態収拾じたいしゅうしゅうの依頼があった場合は急行しますので、いつでもたい衝撃シヨツク防御ぼうぎょの姿勢がとれる様にしていなさい」

 ああそうか!いざという時の為に、準備して待ちなさいって意味だったのね。



 準備かー、何すればいいんだ。にぎりヨシ、吸着ヨシ。練習はしたし、もう神頼かみだのみもませちゃったぞ。

 あとは待つだけみたいな、今さらジタバタしても仕方しかたがないし。いや待てよ・・・トイレ行っとこう。

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ようこそ我が艦隊へ!新入生の皆さん宇宙実習の時間ですよ Azu Kian @sencyo

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