第5話・いい加減にしろ!怒ったオレ……そして、デルタの想い

 夜景を見ながらファストフードを一緒に食べたいというデルタの願いを叶えるために、オレはデルタの上に乗ってファストフード店のドライブスルーに向かった。

「ハンバーガーと飲み物を買いにいくなら、店内で注文しても」

《ドライブスルーがしてみたいの! カレシと一緒にドライブスルーがしたいの!》

「恥ずかしすぎるよ」


 デルタに乗ったオレは、ファストフードのドライブスルーのマイクに向かって、動揺して必死に笑いをこらえている店員に注文を伝え。

 赤面しながら出てきた商品を受け取った。

 周囲はすっかり夜になっていた。

「夜景を見ながら食べるなら、このまま上昇すれば」

《そんなのダメだよ、夜景スポットでカップルが、語らうコトに意味があるんだから》

 町の高台にある有名な夜景スポットに、空を飛んで移動する。

 ベンチに並んで寄り添うカップルが多数いる場所で。三角モニュメントのように垂直に立ったデルタと、オレは並んで芝生の上に座る。

《町の夜景……綺麗だね》

「綺麗だね」

 デルタに丸い穴が開いて、その穴にフライドポテトを近づけると吸い込まれていく、オレもポテトを食べる。

《今日はデートしてくれてありがとう……楽しかった、またデートしようね》

「あぁ、またデートしような」

 オレは、デルタが妙にデートをするコトに焦っているようにも見えた。


 翌週──休日に朝から叩き起こされたオレに、デルタが言った。

《天気がいいからデートしよう、デート……今日は海でサーフィンして、雪山でスノーボードしよう♪》

 オレに返答する間も与えずに、パジャマ姿のオレは吸引ビームで部屋から吸い上げられ。

 三つ爪のマジックアームでつかまれて、クレーンゲームの景品のように連れ去られた。


 飛行する先に青い水平線が見えてきた。

《南国の浜辺まで一気に行くよう♪そうれっ!》

「うぎゃあぁぁ! 衝撃波!」

 南国、砂浜、ヤシの木、高い波に乗ってサーフィンを楽しんでいる人たち。

 デルタは、パジャマ姿のオレを腹部側に乗せると、そのまま波に突っ込む。

《ひゃほぅぅ、いい波が来たぁ! サーフィン♪サーフィン♪》

「波飛沫しぶきが、ごぼごぼごぼっ」

 足の裏がくっついたまま、海中から飛び出したオレとデルタは波に乗る。

《海でデート、デート、次は雪山に瞬間移動して、スノーボード》

「ち、ちょっと待て! うわぁ!」

 閃光の中、一瞬でスキー客が滑っているゲレンデに移動して、斜面を滑走する。

《そうれぇ! 雪山で上級者コースの急斜面を滑走だぁ! 楽しいぃ》

「寒いぞぅ! いい加減にしろ! オレの都合も考えないで身勝手過ぎるぞ! ナニをそんなに焦っているんだ!」

 斜面で浮かんだデルタの動きが止まる。

《ごめん……浮かれすぎた、本当にごめん……今日はこれで帰るから》


 地球の裏側からの帰路──デルタは一言も喋らなかった、地平線を眺めながらオレは。

(少し言い過ぎたかな)

 そう思った、その日からデルタは言葉少な目にオレと遠慮気味な会話をするようになった。


 次の週の休日──部屋の天井に開いた穴から見上げる、デルタはどことなく元気が無いように感じた。

 力無く二重円は点滅を繰り返し。黒い表皮のような破片がパラパラと落ちてくるようになった。

「どこか、体の具合でも悪いのか?」

《別に……》

「今日は予定無いから、デートしてもいいぞ」

《どこにも行きたくない》

「そんなコト言わないで、博物館とか美術館はどうだ、デルタが好きそうな企画展やっているぞ」

《スクエアが一人で行ってきて……あたし、留守番しているから》

「本当にそれでいいのか……オレから頼む、デートしてくれ。思え返せばメチャクチャなデートだったけれど、なんかワクワクしたから……どこでも、つき合うよ」

《じゃあ、図書館で本を読みたい》

 ずいぶんと大人しい、希望だなと思いながらオレは、デルタと一緒に図書館に行った。

 デルタは図書館の上に浮かび、オレだけ館内に入って本を読む。

(デルタは、どうやって読書するつもり、なんだろう?)

 疑問に思っていると、本棚から勝手に抜け出て空中を蝶々のように飛んできた一冊の本が、オレの隣の席で、透明人間が本を読んでいるようにめくれはじめた。

(あっ、そういうコトか)

 デルタが、どんな本を読んでいるのか、覗き見すると『人魚姫』の本だった。

(人魚姫って確か、最後は海の泡になって消えちゃうんだよな)

 人魚姫を読み終わって本を棚にもどしたデルタが、図書館のガラスを振動させてオレに話しかけてきた。

《伝えなきゃいけないコトがあるから、図書館近くの公園に来て》


 オレは、公園で目の位置に浮かんだデルタと向かい合って立つ。

《あたし、思い出したんだ……元々は人間だった》

「記憶がもどったのか?」

《うん、最初に公園デートした少し前から……あたし、高校生で理由はわからないけれど私服で、地方の農道に倒れていたらしいんだ……事故か事件か自殺かは、わからないけれど》

「それで」

《倒れていた、あたしを発見した三角形のアンノウンが、このデルタな体をくれて。仲間として迎えてくれた……そして、スクエアを最初に見た時に三角形デルタの仲間たちから、通信が届いたの》

「どんな通信?」


《この星の大気に含まれている、ある大量の物質がデルタ型には有害だから。惑星にとどまる時間は限られているって》

 デルタの体から、ポロポロと金属表皮が剥がれ落ちてくる、デルタが苦しそうに機体を傾けた。


「大丈夫か?」

《まだ、大丈夫。最後まで話しをさせて、だから惑星を去る限界日までに、やり残したコトがあったら悔いなくやっておくようにって》

「有害な元素っていったいなんなんだ! 限界日っていつなんだ! やり残したコトって?」


《あたしの体に有害な物質は『酸素』……限界日は今日の日没……やり残したコトはカレシを作ってデートするコト……やりたいコトは全部やったから……だから、今日でさようなら》

 オレは、デルタの言葉に愕然とした。今までムリをしていたのか、だから焦っているみたいな強引なデートを……そんな。


「突然すぎるよ、いきなりお別れだなんて」

《ごめんにゃん、ごめんにゃさい》

 デルタの先端から水滴が垂れる、デルタな彼女が泣いている。


「オレは、未確認なデルタのコトを……もっと知りたい……なにか、別れなくて済む方法は無いのか?」

《一つだけ方法があるって三角の仲間が言っていた。でも、それは》

「言ってくれ、なんでもするから」


 少しの沈黙の後にデルタが言った。

《じゃあ、スクエアに人間捨てる覚悟ある?》


 数日後──オレとデルタは宇宙から地球を見ていた。

《青くて綺麗だね……地球》

《綺麗だね……地球って宇宙から見ると、自然物や人工物の模様があるね……あの毛細血管みたいなのアマゾン川かな?》

 オレは、人の姿を捨てた。今のオレは黒光りする段差がある正方形スクエア型をした未確認飛行物体だった。

 オレたちは、宇宙へと世界を広げた。


《今日のデートは、どこへ行く?》

《冥王星のハート模様を見に行ってみない、太陽系内のラブパワースポットみたいだから》

《了解》

 高速飛行するデルタを、アンノウンになりたてのオレは必死に後を追う。

《ほらほら、遅いぞ未確認な後輩くん♪》

《待ってくれよ、まだこの体の扱いに慣れていないんだから》


《宇宙は広いよ、毎日光速デートをしても回りきれないくらい……あたしたちには、時間はたっぷりあるから問題ないね》

《お手柔らかにお願いします》

 オレとデルタは、宇宙旅でデートを続けた。



デルタ〔Δ〕な彼女~おわり~

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デルタ〔Δ〕な彼女 楠本恵士 @67853-_-

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