第4話・デルタは想定外な彼女

 アミューズメント施設で大量のヌイグルミを略取──もとい、ゲットしたデルタな彼女の希望でオレたちは、複合映画館にやって来た。

 ここでも、アンノウンの入館は禁止されていた。原因は映画館の前に駐車した未確認飛行物体から、ゾロゾロと出てきたグレイタイプの異星人たちが、何時間も映画館を占拠したのが原因らしい。


《え──っ、またぁ! もういい加減にしてよね……映画館に頭から突っ込んで観るのは過激すぎるかな……しかたがない、一人で映画観ていて、なんとかするから》

 オレはデルタに言われた通り、一人で映画館に入って映画観賞をした。

 本編前の頭がビデオカメラの男が、町中を逃げ回る例の警告映像を観ながらオレはなぜか、ビデオカメラ男とデルタの姿が重なった。

 映画本編がはじまっても、デルタは現れなかった。

(観るの諦めちゃったのかな?)


 映画にエンドロールが流れても、デルタは現れなかった……映画のラストシーンに感動したオレは、暗い中で涙を拭う。

 映画館を出ると、デルタが空中に浮かんでいて、下部から雨みたいにしずくが垂れていた。

《映画、楽しかったけれど……ラスト泣けちゃったね》

 デルタから垂れている涙で道路にポツポツと穴が開いている──物体を溶かす溶解液の涙だった。不思議に思ったオレはデルタに質問する。

「観ていないのに、なんでラストシーンを知っているの?」

 デルタが尖った先で示した空中を、振り返って見ると、空に長方形のデジタルスクリーンが浮かんでいて。

 オレが映画館で観た、次の上映映画の予告編が流れていた。


「上映されている映画を無断で外に流すの、それ違法!」

《だって、一緒に観たかったんだもん》

「映画館の人に怒られなかった?」

《建物の中から出てきて、なんか難しい言葉を並べていたけれど……強ビームを山に向かって水平に放ったら、建物の中に逃げ込んで二度と出てこなかった》

「うわぁ、貫通した丸い穴が山に開いている、景観変わっちゃった……映画館の人、頭にパトランプ被っていなかった?」

《普通の頭だったよ……次は動物園に行ってから隣接している遊園地だね、行こう》

 デルタと、デートしてみてわかったコト、パート4……デートの予定を取り仕切る、そのくせ金銭は一円も出さない。


 動物園に到着すると、デルタはすぐに迷惑行動を起こした。

《うわぁ、ゾウさんだ、キリンさんだ、ライオンさんだ! 可愛い》

 デルタの吸引ビームで次々と空中に浮かび上がり、黒い三角形の中に吸い込まれていく動物たち。

(家畜の内臓が宇宙人に抜かれる、キャトルミューティレーションのはじまりか!?) 

 あの厚さの中にどうやって、ゾウやキリンが入っているのかわからないが、動物たちの怯えた鳴き声と揺れる機体のデルタの声が聞こえてきた。

《よし、よし、よし》

 数十分後──動物たちと触れ合って満足したデルタは、グッタリと痩せ衰えた動物たちを解放した。

「なんか、もどした動物の場所、違ってない? シマウマの柵の中にライオンがいるんですけれど」

《あっ、本当だペンギンの場所にゾウさん入れちゃった、飼育員さんごめんにゃさい♪》

 

 動物園の次は遊園地──ここでもデルタは、迷惑行動を起こした。

《あたしはジェットコースターとか、観覧車に乗れないから。好きなアトラクションの乗り物に乗っていて、あたしなりに楽しむ方法を工夫するから》

 オレは不安を感じながらも、一番無難そうな観覧車を選んで乗る。

 オレが乗り込んだゴンドラが、一番上まで到着した時に。観覧車の回転軸に取りついたデルタが言った。

《いっくよぅ♪》

 観覧車が高速回転をはじめる、オレは口元を押さえてリバースに耐える。

「うぷっ、目が回る」

《あはははは、なんか楽しい。他の乗り物もスピードアップさせちゃえ♪それ、それ》


 お客が乗ったジェットコースターが、デルタから発する電波かなにかで誤作動して止まらずに、周回で高速通過して。


 高速回転するメリーゴーランドや、コーヒーカップから悲鳴や絶叫が響く──遊園地は地獄に変わった。

「うげぇぇぇ、回されて身が出る! 気分が悪い!」

 オレが、地獄の観覧車から解放されたのは、数十分を過ぎてからだった。


 観覧車から降りて、遊園地のベンチでグッタリしているオレにデルタが話しかけてきた。

《大丈夫……ごめん、少しはしゃぎ過ぎた》

 あれ? 語尾に『にゃん』が付いていない?

 オレの頭上で日陰を作って、西日を遮ってくれているデルタの三角機体が夕日を反射して、絶妙な色合いに変わる。


《夕焼け空……綺麗だね》

「そうだね」

《もう少しだけ、デートにつき合って……今日中にやりたいコトがあるんだ》

「いいよ、最後までつき合う」

《わがまま、聞いてくれて、ありがとう》

 沈黙して黄昏色の空を眺める、オレとデルタな彼女。デルタがポツリと言った。

《キスして》

「うん」

 下降してきたデルタの尖端がオレの顔に近づく。

(やっぱり、尖った角にキスするのは危険だよな)

 オレが角を避けて、側面に唇を近づけると、いきなりデルタが怒鳴った。

《どこにキスしようとしているのよ! 変態!》

「ご、ごめん」

 ナニが変態なのかわからないまま、オレは尖った角にキスをした……唇から血が出た。


《わ~い、カレシとキスしちゃった♪デートの締めは夜景が見える場所で、ファストフード一緒に食べようね、スクエアは学生だから展望レストランでディナーする、お金なんかないから》

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