子の心親知らず

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子の心親知らず

 工作が得意で、夏の自由研究に出したものが学外で賞を取り、展示されることになった。

「こんなので賞をとっても仕方ないから、勉強しなさい」


 よく一緒に遊んでいた幼馴染が難病になった知らせが届いた。

「元気になんかならないから。あんな子なんて忘れてしまいなさい」


 絵画コンクールで金賞をとった。

「絵では食べていけないから。勉強しなさい」


 読書感想文が県大会で賞をとった。

「そんなことより、家の手伝いして、勉強しなさい」


 毎週のように、近所の同級生の家に遊びに行った。

「他所の家で変なこと喋ってないで、塾行って勉強しなさい」


 少年の主張大会で発表し、奨励賞をとった。

「そんなのはいいから、風呂掃除と布団干して、勉強しなさい」


 クラスの友達が事故でなくなり最後のお別れに行きたいといった。

「どれだけ塾の旅行の積み立てしてると思ってるの。そんなのどうでもいいから、塾に行って勉強してればいいの」


 部活の共同研究で、文部科学大臣奨励賞をとった。

「部活になんか夢中になるよりも、受験勉強しなさい」

 

 受験で高等専門学校に行きたいといい出した。

「そんなとこよりも有数の進学校に行くんだから、勉強しなさい」


 幼馴染が亡くなった知らせが届いた。

「通夜や葬式になんて出なくていい、あんたには勉強があるでしょ」


 葬儀の手伝いから帰ってきたとき。

「どんな様子だったかって? 同級生の子たちが数人きてたみたい。写真がなかったのか、集合写真に写っていたものを引き伸ばしたぼやけた写真が飾られてて、どんな顔やらわからなかったね。そもそも花の名前をつけるから、病気になって短命になるのよ」


 遠くの大学に合格した。

「なんで家から通えるところにしなかったのよ。大きな休みの度に帰ってきなさい。でなければ、行かせません。わかってるの」


 就職活動をはじめる時期になった。

「家から通えるところ以外、絶対に認めません。絶対だから」


 遠くで就職して働き出した。

「必ず毎月一度は帰ってきなさい。そして家から通えるように申請を出しなさい。でなければ認めません」


 近所の同級生の祖母が倒れられた。

「あなたの同級生のあの子、看護師になったんでしょ。身内が倒れたときに家にいたけど、救急車を呼ばずに一一〇番に電話かけたなんて間抜けね。ふふっ。そんなんで看護師なんて、どうかしてる。あはは」


 家から通うようになって月日が立ち、体調を壊して退職した。

「体を壊したからって寝たきりでいないで、今までどおり、掃除や洗濯、食事の準備をしなさい。こっちは疲れてるんだから」


 風邪をこじらせて病院に担ぎ込まれた。

「栄養失調で肺炎になりかけてるっていわれたじゃない。医者に白い目でみられて。まったく。まるで、なにも食べさせていなくて私が悪いみたいじゃないのっ。いい加減にして」


 ご近所さんから野菜をいただいた。

「そこからいただく野菜は、玉ねぎは小さいしネギは硬いし、できが悪いのよね。それにくらべて、あっちからいただく野菜は、肥料にもこだわって色々作ってるし、出来もいいのよ。あなたの同級生のところも畑あるけど作らないし、おばさんは草抜きしてるけど、旦那は何もしない人だから。ほんと、どうしようもないよね」


 家を出て復職活動をしはじめた。

「お父さんが不倫したから、帰ってきなさい。そんなのやってないで、いいから帰ってきなさいっ あんたも私を裏切る気なのっ」


 不倫騒動を終えた後、父が血を吐いて倒れる。

「何をどうしていいかわからないから、あんたが調べて準備しなさい。あー、もうっ」


 連絡ついた人に見守られ、病院で息を引き取った。

「葬儀の手配やら準備やらどうしたらいいのか。あんたがなにもかもやりなさいよっ。とにかく一旦家に帰って、着物取ってこなくちゃ」


 父の遺品整理をする中、家のリフォームをはじめた。  

「あちこち傷んできたから、あの人が残したお金を使って、これから私が暮らす家を綺麗にしておきたいの。大工してる弟がやってくれることになってるから、あんたも手伝いなさい。どんなふうにっていわれても、私にわかるわけないから」


 リフォーム後、家事全般をすることになった。

「ボタンを押してお風呂も料理もできるようになったとはいえ、新しい電化製品と同じで使い方がわからない。取扱説明書? そんなの読むわけないじゃない。難しいこと書いてあってわからないから、全部やりなさい」

 

 ショッピングモールで買い物をしていたとき、ふと足を止めた。

「うちの子は、ずっと家にいてなにもしなくて、本当にどうしようもないんです。ほとほと困っていまして、どうしたらいいですか」


 期間限定で開設した、時間五分の『なんでも相談会』のテーブルを挟んで座る女性を前に、名探偵は眼鏡のフレームを中指で押し上げる。

「悪いのは親であるあなたです。自分の子供のやりたいことをさせず、自分の願望を押し付け、愛玩動物のように接してはこき使い、闇雲に強いらせた結果です。幾度となくあなたから離れようとしたにもかかわらず引き戻され、もはや元気も気力も体力さえ消え失せてしまったのでしょう。親が子供に決して言ってはならないのは『悪口』です。子供が信用しているものを汚す行いは、子供の心をも傷つけるのです」


 立ち去っていた女性を見送った名探偵は、眼鏡を外し、眉間をつまみ上げて息を吐いた。

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