姉から逃げたい俺は看病する

次の日、若葉は案の定風邪を引き学校を休んでいた。

家に誰もいなかったため若葉の看病をしなければいけなくなった俺は、家の家事をしっかり終わらせて、若葉の部屋に向かう。


「姉さん?起きてる?」


「うん!起きてるよ!」


俺が部屋をあけた先にいたのは、風邪を引いているにも関わらず全力でスクワットをしている若葉がいた。


「なんで起きてるんだよ姉さん。病人はほら早く布団に入った。」


「やっぱり、一日でも体を動かしとかないと、なまっちゃうからね。」


若葉は話している最中もスクワットを辞める気配はない。スクワットのスピードは徐々に上がり、そのうち残像が見え始めるかもしれない。


「風邪の時くらい休みなよ?」


俺がそう言いながら、半ば無理矢理若葉をベッドに戻す。


「えー。まだまだ運動したりないよー。」


「風邪の日くらい休みなよ。」


俺がそう言うと、若葉は不思議そうに首を傾げる。


「運動が好きだからだよ?それにあたしは運動しかできないからね!」


そう言いながら胸を張る。寝ながら胸を張るなんて器用だなって思った。


「それに、あたしが運動と勉強の両立が出来なくて困ってた時に助けてくれたのは兎斗じゃん。」


そんな事あっただろうか?いや、確かにあったような気がする。


「あたしね。ずっと家に居ずらかった。沙希ねぇは、モデル業と勉学を両立してたし、奈江はなんか良く分からない賞を取ってたし、お父さんは優しかったけど、その優しさが辛かった。」


若葉はその時を思い出しているのか、顔を俯かせていた。今の若葉にはいつもの元気さの欠片も無かった。


「ホントに如何にかなっちゃいそうになった時に、両親に兎斗が説得してくれたんじゃん。」


本当にそんなことしたのだろうか。いやならしただろうな。


「あたしは、兎斗に救われたの。だからあたしは運動を頑張るの。」


「そうか。でも今日は絶対安静な。」


「ぶー」


熱で赤くなった頬を膨らませ、あたし不満ですって顔をしている若葉。


「そんな顔をしても無駄だからな。」


俺はそう言って部屋を出ようとすると、若葉が話かけてくる。


「ねぇ。一つ聞いていい?」


「なんだ?」


「ねぇ。なんであたしたちに対して冷たくなったの?」


お前たちが俺を…っと思わず言い返しそうになったが、この前沙希の件で失敗している俺は今にも喉から出掛かった言葉を飲み込む。


「ねぇなんで?あたし達何か悪いことした?」


若葉は悲痛な面持ちでこちらを伺う。


もう我慢の限界だった。


「ふざけるなよ。お前たちが俺を!裏切ったんだろ…」


俺はそれだけ言うと、若葉の部屋を後にした。


「何の話それ。」


俺が後にした部屋で若葉は呆然としていた。

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姉たちから逃げ出したい @umineco1203

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