姉から逃げたい俺は次女と出かける

 ジリリリリリリッ!と俺の耳元で騒々しい鳴き声を上げるニワトリ型の目覚まし時計が俺を夢の中から叩き起こす。ニワトリのトサカを苛立ちながら叩き、布団に潜り込み二度寝を決め込む。


 もうすぐ、もう一度夢の中に飛び立てそうになっている所で、階段を勢いよく駆け上がってくる足音が聞こえてくる。


恐らくこの騒がしい足音はうちの次女だろう。その騒がしい足音は、俺の部屋の前でピタッと止まった。


 「兎斗~!起きてる~。」


俺は朝からでかい声で俺の鼓膜を破壊しに来る「若葉」に対抗するように布団の奥深くに潜る。


「ねえ~寝てるの?起きてるの?返事してよ~もし寝てるなら久しぶりに布団にダイブして起こしちゃおうかな~」


いや、寝てたら返事出来なくね?


若葉の言葉にツッコミを入れていた俺は、若葉の言葉を思い出して急いで布団から起き上がり、四つん這いで急いでドアまで駆け寄り、内側から鍵をかける。


「あれ~開かないな~」


若葉はドアノブを何回かガチャガチャ回すと諦めたのかドア前から下がっていく足音が聞こえる。

 

 「よ~し行くか~!」


 若葉はそう言うと、足音の感覚が狭くなりどんどんドアの前に近づいてくる。


 え、近づいてきて…


 自分の生命の危機を感じ取り、咄嗟にドア前から離れようとするが、間に合わずドアノブが勢いよく俺の顔面に迫ってくる。


 「いって~!俺のおでこ大丈夫?ドアノブの跡で第三の目みたいになってないよね?」


その直後に、部屋に飛び込ん出来たのは、水着姿で部屋に突撃してくる若葉であった。


「大丈夫!?すごい音したけど?」


「いや大丈夫。」


俺は早く若葉を部屋から叩きだしたい一心で、若葉の言葉に冷静に返答する。


「なんでそんな所にいたの?」


「いや、なんとな…く…って何その恰好!?」


 俺の部屋に神風特攻ばりの勢いで突っ込んできた若葉の姿に、言葉が上手く出てこない。


「ん?普通だよね?あ、もしかして可愛い系の方が良かった?この水着。」


 そう言いながら、俺の前でくるりと回って見せる。姉の水着姿は家族の俺の目から見ても毒そのものである。


「いやこの際水着を着てるのは分かったけど。何で水着?まだ春だけど?」


「うん?」


 若葉は、何を言っているのか分からないのか首をコテンと傾げてこちらを見てくる。


「え?」


あれ、話が分からない。


「え?海だけど?」


「え?今春だけど?」


「ん?春だから泳いじゃダメなの?」


「いや、ダメじゃないけど」


俺たちが首を傾げあっていると、下から母親が呼ぶ声が聞こえてくる。


「ご飯よ~。早く降りてきなさい。遅刻するわよ。今日朝練あるって言ってなかった~?」


「はーい!今行く!」


若葉は元気よく返事すると、颯爽と部屋を出ていく。


「あ、今日放課後迎えに行くから教室にいてね?」


若葉は戻ってきてヒョイッと顔を出してそう言った。


若葉はもう伝えたいことはもう無いのか、今度こそ一階に降りていった。


「マジかよ」


 早く引っ越し先を見つけないと…


いつも通りに時間が過ぎ、恐れていた放課後の時間


「兎斗いる~?迎えに来たよ~」


若葉が扉を勢いよく開け、ひょっこり顔を出す。


「姉さんマジで来たんだ。」


「うん!朝約束したからね!」


姉さんはそう言うと、俺の手を勢いよく引いて教室を飛び出す。


明日の教科書とか置いていきたかったんだけど…


その言葉が喉元まで出かかったが、俺の手を引く楽しそうな姉さんの横顔を見て引っ込めた。


まぁ、明日持って行けばいいだけか。


そして俺は若葉に連れられるがまま海に連れてこられた。


海には春ということもあり、人は誰も居らず潮風が俺の頬を撫でる。


春ごろの海は、薄着で来るには肌寒く、隣で体を震わせている若葉に彼女が着るには少し大きい服を手渡す。


「…ありがとう。兎斗はやっぱり優しいね。でも大丈夫!今日のあたしは温かいし!朝熱計ったら38度だったし!」


若葉は俺が肩にかけた嬉しそうに、抱きしめながらはにかんだ様な笑みを浮かべそう言ってくる。言ってることすげー阿保だけど。


「それは、風邪を引いてるから高いの!早く帰るよ!若葉姉さん!」


「えー今来たばっかりじゃ~ん。まだ向こうの島まで泳いでないよ~」


俺は、後ろでぶつくさ言う若葉姉さんの手を引きながら帰路に着いた。姉さんは電車に乗ってからもぶつくさ言っていたので、口にコンビニで買ったずんだにしんストロベリーアイスクリームとかいう激うまアイスを口に突っ込んだら静かになった。


ふっ、このアイスのうまさに言葉も出ないか!生きてきた環境が同じだけあって分っているな。


その後寝てしまった若葉を背負いながら俺は、電車から家までの道のりを歩く。


あ、激うまアイス残してるじゃん。残すのも持ったないし、食べるか。しっかり味がして美味しいな。このアイスは。

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