ポテトはシリアスな展開もぶち壊す
あの後、顔が赤いことについてしつこく聞いてくる沙希の追及を躱しながら、やっとのことで、サイゾに到着した。店内には小洒落た音楽が、流れておりこの店内にいつまでも居たくなるような雰囲気が漂っている。
「何名様ですか?」
「2名です。出来れば禁煙席でお願いしたいのですが?」
9
「分かりました。ではこちらへどうぞ」
そう言われ通されたのは、窓側の席であった。4月の温かい日差しがあたり、沙希と二人の状況だというのに、どこか気が緩むのを感じる。
席に着くと、俺は沙希の希望を聞き、料理をさっさと注文する。
料理を待つ間、暇なため窓の外でも眺めようかと思い窓に視線を移動させると、窓の外でこちらの様子を伺いながら待機する親衛隊を見つけ即座に気を引き締める。そうここは戦場一瞬たりとも気を緩ませるわけにはいかないのである。
「久々に来たわ、この店」
向かいの席に座る沙希がどこか懐かしむように話しかけてくる。
確かに、最後に来たのは俺が家族と距離を取り始める前だから、1、2年前の話か。
「ねえ、聞いてるの?」
「ん、そうだね。一年ぶりくらいかな?」
「そうね?貴方がいきなり距離を取り始めるから1、2年ぶりくらいよね」
俺と沙希との間に気まずい沈黙が流れる。
沙希は俺を射殺さんばかりに睨み付けてくる。
「それより、もっと楽しい話を…」
「話をそらさないで」
机をバンッ!と叩きながら俺に変わらず鋭い目線を向ける沙希。
「あんたらが、悪いわけじゃない。これは僕が勝手に沙希姉たちに期待して勝手に沙希姉たちに失望しただけなんだから」
「それはどういう…」
沙希が何か話そうとしようとした時、俺たちの間にドンッ!と先ほど頼んだ料理が置かれる。
「お待たせいたしましたー。こちら当店名物の山盛りポテトフライでございます!」
沙希は、自分の言葉を物理的に遮ってきた店員を睨み付ける。
「あのー私何かしちゃいましたか~?」
「いや、仕事に戻っていただいて大丈夫です!うちの姉がすみませんでした」
俺は気まずそうにしている店員さんに沙希の非礼を詫び、仕事に戻るように伝える。
「お姉さんだったんですね~。てっきり彼女さんかと思いました~。話のお邪魔をしてしまい申し訳ありませんでした~」
ゆるい店員さんは、最後にそれだけ言うと他の商品を運びに厨房に戻っていった。
店員さんのその言葉を聞いた沙希は、すっかり機嫌を直し店員さんが運んできたポテトをおいしそうにつまんでいた。
「まあ?人は間違える生き物ですし、良しとしましょう。」
なんで上から目線なんだ?機嫌が直ってるのも謎だし。
「それで、さっきの話はなんなの?勝手に期待して勝手に失望しただけって?」
沙希はポテトをモシャモシャと食べながら聞いてくる。
最近の沙希ではあまり見ない様な行為に、窓の外でこちらを伺っている親衛隊も遠くから見ても分かるくらい驚いていた。
恐らく、先ほど思わず沙希を昔の呼び名で呼んでしまったことで、沙希自身も昔の感じで接しようと思ったのだろう。
そんな沙希の姿を見て申し訳なく感じつつも、被害者面すんなよという正反対の気持ちが自分の中で湧き上がってくる。
昔の沙希は今みたいな厳格な委員長という感じではなかった、どちらかというとずぼらで、普段一緒に過ごしていて隙が多いように感じた。
それが今では厳格な存在として、あの学校に浸透しているのだから驚きである。
恐らく、沙希がこんな感じになった時期を考えると、沙希を変えてしまったのは俺が原因なのだろう。しかし俺は前の様な関係にもう戻るわけにはいかないのだ。
だから、俺は話すわけにはいかない俺が沙希たちの前から離れる理由だけは絶対に話せない話してしまったら、恐らく良くも悪くも今の家族にはもう戻れないのだから。
俺は沙希に対する申し訳なさと、苛立ちの相反する感情に吐き気を覚える。
「ごめん。それだけは言えないし言わないもう僕、いや俺の中では終わったことだから」
「兎斗…」
「…ごめん。俺先帰る。今日買った荷物は、玄関に置いとくから」
俺は、そう言って伝票と荷物を持って席を立ち、出口に向かう。
最後に見た沙希の悲痛な表情を俺はこれから先忘れる事はないだろう。
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