デートからは逃げられない
デートそれは男女どちらともが心を躍らせ、心を通わすイベント。誰しもがデート前日には楽しみで眠れなかった小学校の遠足を思い出すイベントそれが主なデートだろう。
相手があの沙希でさえなければ、本当にそれだけが悔やまれる。確かに沙希は見た目だけなら魅力的に見える。プラチナブロンドの長い髪に切れ長の目、細いながらも出るとこ出た身体をしており、弟の俺からも見ても魅力的に見える。しかし、それだけだ。もう俺が沙希に心を開くことは無いのだから。
「兎斗。ストバで私が好きそうな奴買ってきて。」
「了解です」
私が好きそうな奴って何だよ。バーとかにいる私に合うお酒を頂戴とか言ってる。めんどくさい奴かよ。
俺は胸の内にふつふつと怒りを募らせながらもストバに向かい、沙希に期間限定ずんだクリームフラペチーノを持ち、沙希の元へ戻る。
「あら戻ったの兎斗。この服似合う?はいか、いいえで答えなさい。」
戻ってきて早々俺に服の良し悪しを聞いてくる沙希。
せめて感謝くらいしろやぁ~!この期間限定ずんだクリームフラペチーノ地面に叩きつけて、その上でジタバタして辱めてやろうか!
しかし、俺にそんな事を行う度胸も捨てられるプライドもあるわけなく、
「…はい」
せめてもの反抗でそっぽを向きながら、沙希の問いかけに答える。
「はいだけじゃ分からない!どこがいいのかもきちんと言いなさい!」
(はいかいいえで答えなさいって言ったじゃん)
「選んだ服も今日のバックや靴にも相性が良くて、沙希さんの生まれ持ったセンスの良さがうかがえます!」
「よし!及第点ね。」
何が及第点だよ。今の褒め方満点だろうが。大体何で上から目線なんだよ。姉だからかそれなら納得だ。
「兎斗。お腹減った美味しいお店探してきて。はい30秒スタート!」
「了解です」
支度する時間よりもすくないんだよなー。あのばあさんでももう少し時間をくれたぞ。
早くも俺の心は折れかけていた。なんか下に俺の心らしきものがぽっきり折れて転がっていた気がしたが、気のせいだろう。
「あ、もうサイゾでいいか。」
サイゾとは、お値打ち価格でイタリア料理を食べれる高校生の味方であり、良く学生が行く所である。
行き先を考えるのが面倒になった俺は適当に目についたサイゾに行く事にして、沙希の所に戻ることにした。
「ん?」
沙希の所に戻ると、沙希が男の集団に囲まれていた。囲まれているというよりかは、遠巻きに見られているという感じではあるが。
「ただいま戻りました。」
「どこにしたの?」
「サイゾです」
「…分かった」
沙希はサイゾと聞いて、一瞬顔を顰めたが諦めたのか。次の瞬間にはスタスタと歩き始めた。
沙希の進行方向を遮るように、ガラの悪い男たちが現れる。
「ちょいちょい。待ってよお姉さん。今からどこ行くの?一人なら一緒に遊ばない?」
おそらくこいつらには俺の存在が認識できていないのか、それともあえて無視しているのだろう。どの道気分は良くない。
「なんですか?今から私は弟と一緒にサイゾに行くので退けてください」
「弟ってそこのザ・平均男みたいな奴?」
あ、俺の存在を認識して、わざと無視してたっぽいな良かった。姉へのストレスで気付かないうちに死んでたのかと思ったわ。
「いいじゃん。少しだけだからさ」
「辞めてください。」
沙希は美しい顔を何の変化もせずピシャリと言い放つ。
「………」
イライラしてんな~沙希。表情には全く変化が見られないが、家族として何年も過ごしてきた俺には分かる。沙希はキレている。
そして確実にそのしわ寄せが俺に来る。
結果、俺は疲労で死ぬ。
俺がしょうもない事を考えていると、ガラの悪い男Aに俺らの後ろからガラの悪い男が出てきた。
「沙希様に何て口きいてんだよ。小僧が」
恐らく、熊蔵さんの部下であろう人がヤンキーに凄む。
「沙希様の道を塞ぐな。」
熊蔵さんはさっきまでの人のよさそうな顔は鳴りを潜め、それは見るも悍ましい顔をしていた。
「駄犬任せていいわね」
「はっ!」
いや中世みたいなやり取りすんなよ。
「く、熊蔵さん、ありがとうございます」
「はい。是非沙希様とのデート楽しんでくださいね」
熊蔵さんはそれだけ言うとガラの悪い集団の方に歩いて行った。
俺たちはガラの悪い集団の対処を熊蔵さんたちに任せ、サイゾに向かっていると俺の前を歩いていた沙希が突然止まり、
「熊蔵は、只の私の部下みたいなものよ。」
俺の方に振り返りながら、くそどうでもいい情報を伝えてきた。
え、いきなり何?どの反応が正解何だ?
パターン1
へーそうなんだ、と流す。
パターン2
えー!てっきりこれ、なのかと思ったと言い小指を上げる。最有力候補。
パターン3
はあー良かった。お姉ちゃんが取られちゃったのかと思ったよ。弟感を出す。
うーん、2にするか~
俺は小指を上げ、パターン2の言葉を紡ごうとすると
沙希は俺の小指をゆっくりと握り、俺の小指に流れる血が一瞬止まったのかと思うほど強く握る。
「そのあとの言葉をその口から発したら私は大切な弟の指を失うことになってしまう。私の弟は私にそんな事させないよね。」
それは死刑宣告だった。
「い、いや、小指が痒くて小指を立てただけだよ。姉さん。」
「あらそうなのね。私ったら勘違いをしてしまったわ。ごめんなさいね。」
沙希はうふふと上品に笑うと、俺の横に立って俺の腕に腕を絡めてきた。
それと同時に、周りの目線が一層強くなる。その中には、彼女そっちの気でこちらを睨み付ける奴だったり、こちらを見すぎるあまり電柱に当たっている奴もいた。
これがあるから姉さんと街を歩くのが嫌なんだよ。これが普通の男だったのなら、戸惑い頬を赤く染め離れるように言うくらいの事をやるのだろうが、俺たちの関係は義理とはいえ兄弟、照れる必要はないのである。
「……少し赤いけど大丈夫?」
こういう時は触れないのが優しさなんだよ!沙希ぃ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます