急 ボクが華麗に謎を解く

 ほのかちゃんは仔猫を抱いてリビングに降りた。キジトラのかわいい仔猫だった。


 ママは大喜び、おばちゃんはしかめ面をしていたけれど、頭の中では飼うためのプランがものすごい勢いで構築されている。


 ほのかちゃんは自分だけで飼いたかったらしい。だからお部屋に隠そうとしていた。


 それがバレてしまって残念そう。

 でも、ほのかちゃんのお部屋で飼うことになってほっとしている。


 ケンちゃんはムッとしている。


 みんなでわいわいしていたから、ボクはそっとリビングから行けるらせん階段を使って上のベランダに行く。


 ピンクのバラが植わっているプランターの前に白いネコがいた。

 大好きなバラを見ているようで、後ろを向いているから長い二本のしっぽが見える。


「タマ」

 白いネコが振り返って、ぴょんとボクに飛びついてきた。

 ボクはタマを抱きかかえようとして落とした。


「痛いわね」

 ぶつけたところをなめ、怒ったようにタマが言う。


「ごめん。ボクってどんくさいんだって」

 そう言って白い椅子に座ると、タマが膝に乗って丸くなる。


「ケンちゃんが心配してたよ。命日忘れてたから化けて出たって」

 ボクはタマを撫でながら言う。タマはネコっぽく気持ちよさそうに目を閉じた。


「失礼しちゃうわ。私がそんなことで怒ると思ってるの?」

 おしゃまな女の子みたいな可愛らしい声でタマが言う。


「思ってるみたいだよ」

「まったくケン坊は。私は死んでないわよ」

 タマはケンちゃんを『ケン坊』と呼ぶ。おじいちゃんと同じ呼び方。


「うん、知ってる」

 タマのしっぽは二本ある。


 つまり猫又。

 おばちゃんが田舎から連れてきたネコは、猫又になる素質のあるネコだった。


 長生きをしたネコはしっぽが二本に増えて猫又になるんだけど、そうなる直前にタマは姿を消した。今から三年くらい前。


 ケンちゃんはいなくなった日が命日だと思い込んでいる。それがたまたま昨日だったようだ、タマだけに。


「私が「にゃあ」ってほのちゃんが仔猫を隠していることを教えたら、慌ててコンビニ行ってお線香一式を買ってきたのよ。少ないお小遣いで、夜道で危ないのに」

 タマのしっぽがパシパシ腿に当たる。


「ネコっぽくすると伝わらなくて困っちゃうわ」

 文句は言っているけど、二本のしっぽは嬉しそうに動いていた。


「あれで大天狗の孫だっていうんだから世も末ね」


 都会で育ったおばあちゃんが、大天狗のおじいちゃんと結婚して生まれたのがおばちゃんとママ。あと地味なおじちゃん。


 ふつうの人間だった姉妹は都会で結婚して都会で暮らしている。

 ボクは隔世遺伝で天狗の羽が生えた。


「ケンちゃんはボクが気配を消しても気づくし、タマの声もちゃんと聞いたよ」

 ボクは遠い未来の大天狗だから、タマとも警戒されずに話ができる。


「まあね。ケン坊は私が育てたようなものだし」

 嬉しそう。


 はたらくおじちゃんとおばちゃんに代わり、タマがケンちゃんを見ていた。その時はネコとしてだけど。

 だから、タマもケンちゃんには思い入れがある。


「ケンちゃんがすごいのはタマのおかげかもね」

 ボクがそう言うと、

「まだまだよ」と言いながらも嬉しそうにタマのしっぽがピンとする。


 タマは伸びをして、シュッとしっぽを上げるとボクの膝から降りてプランターの影に行く。

 らせん階段からケンちゃんが上って来たからだ。


「昼飯だって。食うだろ」

 ボクを見つけたケンちゃんは、しかめ面で言う。


 ケンちゃんはいつもボクを見つけてくれる。

 それってけっこうすごいんだよ。


「うん」

 ボクは満面の笑顔でうなずいた。


 それと、無くなったローズガーデンの高いお線香をひと箱持っているのはタマだと後で本人から聞いた。

 ストレスが溜まったおばちゃんのためにたまに焚いているらしい。


 タマだから。


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ボクとケンちゃんの日曜日 玄栖佳純 @casumi_cross

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