第7話
一方、そんなセージを遠くから見つめている人間がいた。
「どうやら上手く出会えたみたいだね。偶然……いや、運命ってやつなのかな?」
水晶玉越しにセージ達を見ていたのは、セージを異世界に送り込んだ賢者アルズワールだった。
暢気そうな表情を浮かべた賢者は、困り果てた友人の顔を見て苦笑する。
「セージ、お前さんはずいぶんと愛されているね。こっちでも向こうでも」
セージに抱きついている3人の少女であったが、その正体をアルズワールは知っていた。
彼女らは肉体こそ間違いなく人間のものであったが、魂はかつて魔物であったもの。セージがこの世界で使役していた魔物である。
セージが異世界に転移したことで、テイムされていた魔物は解放されて自由の身になった。
しかし、一部の魔物はセージのことを慕い続け、アルズワールに詰め寄って自分達をセージの所に送るように訴えたのだ。
その必死さに根負けしたアルズワールは彼らの願いを叶えることにした。
魔力が希薄な地球では魔物は生きていくことができない。
そのため、アルズワールは事故や病気で命を落とした少女らの肉体に魂を憑依させ、融合する形で魔物を送り込んだのである。
ちなみに、魔物は人間よりも理性や知性が薄く、記憶も曖昧なものである。
そのため、人間になった彼女らはすでに魔物であった頃の記憶を失っており、肉体が持つ記憶と人格によって上塗りされていた。
セージが3人の少女を助け、少女らがセージを愛したのは完全な偶然。あるいは因果や運命と呼ばれるものである。
「記憶を失っても、君達は仕えるべき主人のことがわかるんだね。これを魔神紋の力だと考えてしまうのは野暮かな?」
おかしそうに笑うアルズワールだったが、別の水晶玉に目を向けるや、表情を曇らせた。
同じ形、大きさの水晶であったが……そこにはまるで別の光景が描かれている。
「こっちもちゃんと報いを受けているみたいだ。可愛そうだが自業自得かな?」
もう一方の水晶の中では、かつて共に旅をした勇者や聖女がモンスターと戦っている姿が映されている。
人類の最高戦力である彼らであったが、繰り返される戦い、際限なく現れる魔物に疲弊している様子だった。
セージが魔神紋を持ったまま異世界に転移したことにより、この世界から魔王の脅威は完全に取り除かれた。
しかし、それで魔物がいなくなるわけではない。魔王の支配から解き放たれた魔物が好き勝手に暴れ回るようになったのだ。
魔王の管理下にあった時のように積極的に人間を襲うわけではなかったが、それでも秩序をなくした魔物の群は人間にとって脅威である。
魔王を倒して平和を手にしたはずの人類は、再び終わりの見えない戦いの中に放り込まれたのだった。
「……あのままセージに魔物の管理をさせておけば、こんなことにはならなかったんだけどね。誰も傷つくことなく平和を手にすることができたのに」
水晶玉の中で戦っている仲間達は、はたしてセージを裏切ったことを後悔しているのだろうか。
それとも、すべてをセージのせいにして逆恨みをしているのだろうか。
どちらにしても、すでにアルズワールには関係のないこと。セージがこの世界を捨てたように、アルズワールもまた人類を見限っているのだから。
アルズワールは不愉快な光景を映す水晶に布をかけて、再びセージの方へと目を向けた。
「こっちはこんなことになっているわけだが……なあ、お前さん。コレで終わりだと思ってはいないよな?」
クツクツと喉を震わせながら、アルズワールは友へと届かぬ声で語りかける。
「君を慕っている魔物は3体ぽっちじゃない。まだまだ、君のハーレムは出揃っちゃいないよ?」
アルズワールが異世界に送り込んだ魔物は、全部で72体。その全てに、女性の身体を与えている。
もしも運命の女神というものが本当にいるのであれば、彼女らもいずれセージの前に姿を現すことだろう。
ワケも分からず美女・美少女に囲まれることになった友人の姿を想像して、アルズワールは愉快そうに笑うのであった。
おわり
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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勇者パーティーの『魔物使い』ですが、魔王の力を引き継いだので異世界に逃亡します レオナールD @dontokoifuta0605
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