第6話


「大丈夫、高村!」


「高村さん!」


「高村おにいちゃん!」


 不良を全滅させて、少女達が駆け寄ってきた。

 彼女達の目にはいたわるような色があったが……瞳の奥にテイムされたモンスター特有の『ハートマーク』が浮かんでいる。


「あ、ありがとう。えーと……赤井さん、青島さん、黄野さん」


 3人の名前を絞り出して、セージはお礼の言葉を口にする。


「よかった、怪我はなさそうだな!」


 安堵に肩を落としたのは、ショートカットの少女・赤井である。

 背が高くて健康的に日焼けしており、たしか陸上部に所属していたはずだ。


「ごめんなさい。私達のせいで危ない目に遭わせてしまって……」


 申し訳なさそうにロングの少女・青島が頭を下げた。

 こちらは日本人形のようにお淑やかで楚々としており、見た目の通りに茶道部に入っている。


「いや、いいんだよ。僕の方こそ何も出来ずに申し訳ない……」


 本当はとんでもないことを……ヘタをすると、あの不良がやろうとしていた以上にやってはいけないことをしてしまったわけなのだが。


(人間をテイムなんて……それって奴隷と一緒じゃないか!)


 あちらの世界であれば、極刑ものの罪である。

 罪もない人間を魔法やスキルで縛って奴隷にするなど、許されることではない。

 セージは慌ててテイムを解除しようとするが、その手を突然掴まれた。


「ダメだよ! めっ!」


「わあっ!?」


 セージの右手をつかんだのは、おかっぱの少女・黄野である。

 背が低くて文芸部に所属する彼女は、子供のように頬をプクッと膨らませてセージの顔をのぞき込む。


「高村おにいちゃん! それはダメ!」


「だ、ダメって何が……?」


「わからないけど……おにいちゃん、私達とのつながりを切ろうとしたよね!?」


「っ……!?」


 まさかテイムのことがバレたのか。

 緊張に表情をひきつらせるセージであったが、黄野は自分で言った言葉によくわからないという顔をしている。


「……って、どういうことだっけ?」


「ぼ、僕に聞かれても……」


「そうね、高村君とのつながりが切れるのは困るわね」


「青島さん!?」


 何故か青島まで同意する。その後ろでは、赤井もうんうんと頷く。


「わからない。だけど、正しいわ!」


「あ、赤井さんまで……」


 どうしてこうなったのだ。

 混乱するセージの腕を、黄野がとる。


「ねえ、もう帰ろうよ。高村……ううん、誠司おにいちゃん?」


「明日からはずっと一緒ですね。誠司さん」


「そうね、帰りましょう。誠司!」


 セージの右腕に黄野がぶらさがり、左腕を青島が握り、出遅れた赤井が背中に抱きついてくる。

 三者三様の女性の柔らかさを直に食らい、セージはクラクラと目眩を感じた。


「み、みんな……」


「私のことは空と呼んで。赤井空!」


「私は渚といいます。青島渚」


「リクはリクだよー。黄野リクー」


「はう……」


 3人の少女に引きずられて、セージは路地裏から出て行った。

 それから、セージは毎日のように彼女らにまとわりつかれることになる。

 美少女3人に囲まれた高校生活はとても平凡とはいえず、濃厚すぎるものになるのだったが――セージがそれを知るのは、まだ少し先のことであった。

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