第5話
(やばい……どうすればいいっ!?)
スマホはない。あたりには人通りもなく、助けを求める相手はいない。
交番に走ろうにも、警察官を呼んできたときには手遅れになってしまう可能性がある。
不良らは3人の少女を捕らえ、路地の奥へ奥へと引きずっていこうとしていた。時は一刻を争う。
セージは『魔物使い』であったが、それ以外には何の力もない。魔物がいないこの世界では何の力もない高校生でしかない。
(いや……本当にそうか?)
ふと、セージは思う。
試してないだけで、ひょっとしたらできることがあるかもしれない。
セージの右腕には魔王の力が宿っている。魔王はモンスターを支配する力を持っていたが、魔王自身も恐ろしく強かった。
ならば、セージだって多少は強くなっているかもしれない。不良くらい蹴散らすことも出来るのではないか。
(失敗したら、その時だ。僕に注意が向いているうちにあの娘達が逃げてくれることを祈ろう……!)
セージは意を決して路地裏へ飛び込んだ。
「待て!」
「あ?」
叫ぶセージに、不良が怪訝に振り返る。
セージは右手をかざして、彼らへと突きつけた。
「喰らえ!」
「なっ……!」
セージの右腕が、魔神紋が光り輝く。
目を焼くようなまばゆい閃光がまっすぐに放たれ、男達を貫通していき……
「は?」
「何だ、おい」
何も起こらなかった。
光に貫かれた不良は自分の身体を見下ろし、何事もないことを確認すると怒りの声を張り上げた。
「誰だ、テメエは!」
「急に出てきやがって! 脅かすんじゃねえ!」
「わわっ!」
いきり立った不良がセージの胸ぐらを掴み、力任せに持ち上げる。小柄なセージは為すすべもなく宙へつり上げられた。
「ふざけやがって! カメラのフラッシュか!?」
「俺らを誰だと思ってやがる! ブチ殺すぞ!」
「うぐ……」
セージは息苦しさにうめきながら、少女らに視線を向けた。
今のうちに逃げてくれ――そんな願いを込めてアイコンタクトを送るが、少女らは何故か立ちすくんでセージのことをじっと見ている。
ショートカット、ロング、おかっぱ。髪型の異なる3人の美少女は目を皿のように見開いてセージを見つめて……。
「ちょっと! 彼に何するのよ!」
「うげっ!?」
不良を殴りつけた。
ショートカット娘が放った拳は先ほどのように受け止められることはなく、不良の顔面に突き刺さる。
殴られた男はギャグマンガのようにクルクルと回転しながら吹き飛ばされていった。
「へ……?」
派手に吹っ飛ばされた仲間。不良は呆然と凍りつく。
あり得ない光景に言葉を失う男達であったが、少女らの快進撃は終わってはいなかった。
「高村さんの敵は許せないわ!」
「高村おにいちゃんの敵はデストロイです!」
ロング娘が手刀で不良を切りつけ、おかっぱ娘がドロップキックをぶちこんだ。いずれも不良の身体を一撃でふっ飛ばす。
3人は倒した男達を踏みつけて、別の不良へと攻撃を仕掛けていく。
「ええっ!? 何この状況!?」
魔物使いであるセージの目には、確かに映っていた。
不良をやすやすと倒していく彼女らの身体が、赤・青・黄のオーラを纏っていることに。そして、そのオーラと自分の右手が細い糸でつながっていることに。
目の前で起こっている光景に心当たりがある。これは『使役バフ』だ。
魔物使いであるセージは魔法も使うことが出来ず、自力で戦う手段を一切持っていない。
しかし、テイムしたモンスターに力を分け与えて強化する能力を持っていた。それが『使役バフ』である。
「つ、つまりこれって……」
目の前の光景が意味することはただ1つ。
セージは3人の美少女をテイムして、使役してしまったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます