第4話


 魔物使いセージは異世界に転移した。

 しかし――そこで予想外の事態が発生してしまう。

 なぜだかわからないが、異世界についたセージは幼児の姿に若返っていたのだ。

 それをアルズワールが想定していたことかどうかわからないが、セージは自力で歩くことすらできない赤ん坊になってしまった。


(でも……運が良かったよな。改めて)


 セージは異世界にある小さな国――日本にて、ぼんやりと考える。

 異世界に転移して幼児化したセージであったが、この世界の行政機関に保護された。

 その後、運良く引き取り先が見つかって養子となり、平和で平凡な家庭で育てられることになったのだ。

 セージを引き取ってくれた夫婦は子供ができず、ゆえにセージのことを実の子同然に育ててくれた。

 セージは『高村誠司』という新しい名前を得て、故郷である世界と同じ年齢まで成長した。無事に『高校生』になることができたのである。


(この世界には本当にモンスターがいないんだな。魔神紋も使い道がない)


 高校の授業を終えて、セージは自宅への帰路についていた。

 右手を頭上にかざすと、そこに幾何学的な刻印が浮かんでくる。

 変わらずそこにある魔神紋であったが、意識を向けない限りは消えており、誰かに見咎められることもなかった。


(刺青なんて見つかったら、退学にされちゃうかもな……こんなことで悩めることが幸せだけど)


 セージは苦笑をしながら、足取りも軽く自宅に向かう。

 きっと、今頃は母親が夕飯を作って待っていることだろう。セージは魔物と心をかわすという異能のため両親に捨てられた経験があった。

 手料理を振る舞ってくれる母親、自分を守ってくれる父親の存在は、涙がでるほど有り難いものだった。


(本当に、アルさんには感謝をしないと……ん?)


「やめてください!」


「放して!」


 寄り道せず自宅に向かうセージだったが、女性の悲鳴が聞こえてきた。

 どこかで聞き覚えのある声である。声の方向――建物と建物の隙間にある路地裏を覗いてみた。

 そこには3人の女性がいて、倍以上の人数の男達に囲まれていた。


「あの娘達は……?」


 女性には見覚えがある。クラスメイトで、可愛いと評判の女子3人組だ。

 男達に見覚えはないが、彼らが着ている制服は少し離れた場所にある男子校の制服だ。その学校は、『不良の巣窟』として近隣の中高生から恐れられていた。

 どうやら、不良達がうちのクラスの女子に絡んでいるという状況のようである。


「いいじゃねえか、ちょっとくらい付き合えよ」


「そうそう、ちゃーんと飯代はおごってやるぜ?」


「ホテルの金もな! ははっ!」


 不良らの口振りを聞く限り、もはやナンパという枠を越えている。すぐに警察を呼んだ方がいい。

 セージはポケットに手を入れるが、そこで今日に限ってスマホを忘れていたことを思い出した。


「ちょっと! やめてって言ってるでしょ!?」


 女子のうち、背の高いショートカットの少女が手を振り上げた。

 そのまま男を張り飛ばそうとするが、あっさりとその手を掴まれてしまう。


「おっと、あぶねえ!」


「おいおい、暴力はよくねえなあ?」


「きゃあっ!」


 殴られそうになった不良がショートカットの少女を壁に追いつめ、その身体に手を這わそうとする。


「やあっ、ちょ、やめなさい!」


「これは正当防衛だぞー? そっちから手え出したんだからな!」


「やめて、いやっ!」


「やめてください……っ!」


 ショートカットの少女がピンチになっている。他の2人も止めようとするが、他の不良らに捕まってしまう。

 うら若き乙女たちのピンチを目の当たりにして、セージは混乱して左右を見回す。

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