第6話 ログマントオオタカダンゴムシ スライムワーム

 さて。

 講釈垂れ流し時間はこのくらいにして本題に入ろう。

 以上の封印魔法の性質を踏まえて私のやるべきことは何か。

 もちろん。


 次なる封印対象を得ることに尽きる。


 夢を叶える偉大な一歩を踏み出したことで調子に乗ってしまったが、子供でも捕まえられるようなただ速いだけのニソクコガネムシ1匹程度を封印したことによる身体能力の強化具合など高が知れている。

 そもそも、本当に身体能力が上がっているかも分からない。

 そういう風に魔法を編み出したつもりではあるが、実際にどうなるかの初めての実験が終わった段階なのだ。

 仮に上がっていたとしても、封印対象の力を丸々取り込めているのかも不明である。

 体に悪影響がないかを確認しつつ、身体能力の変化の記録もしながら次なる封印対象を吟味すること1週間後。


 幸い体への悪影響は見られなかった。

 身体能力については誤差の範囲でいまいちわからず、魔力量についても変化は感じられない。

 が、封印自体は成功したものと見ていいようで、封印したニソクコガネムシを自在に出し入れし、私の意思で自在に動かせるのも確認できた。

 初めての封印魔法の実験は大成功と言って良いだろう。


 となれば次の封印対象の捕獲を実行あるのみ。


 今度は間を置かずに2種類の魔物を封印してみる。

 それによる悪影響の有無の確認がてら、最終的には同時に何匹も封印して一気に能力を強化したいところだ。

 子供でも捕獲が可能と言う厳しい条件の下、あらたに選出されたのはログマントオオタカダンゴムシ、と呼ばれるダンゴムシの一種である。


 名前の通り、ログマントオオタカダンゴムシはダンゴムシの一種。

 地球においてダンゴムシは自然界における分解者のうちの一つであり、それはこの世界でも変わらず、そして生態も地球と特に変わりはなく、この世界のダンゴムシもまた地球と同じく誰もが聞いたことのあるポピュラーな蟲で、陸棲のエビカニの仲間であり、その食性は雑食で食べれそうな物ならなんでも食べるらしい。

 枯葉や朽木といった、通常の生き物は消化できずに食べないような物まで食べて消化することが出来るため、自然界において堆積しやすい植物の死骸を分解する分解者と呼ばれる自然のサイクルにおいて非常に重要な位置にいる生き物である。


 そのダンゴムシの魔物バージョンがこのログマントオオタカダンゴムシだ。

 野球ボールほどもあるダンゴムシにしては巨大な体躯に、タカと名にある通り普通のダンゴムシよりも高さもあるのが特徴で、大きさを表す言葉としてこの世界の童話に登場する巨人の英雄と呼ばれたログマントの名まで付いている。

 普通のダンゴムシに比べて非常に大きく、その甲殻には多少ではあるものの金属類が含まれており、父曰く私の居るエイプリール国のみならず、各国で金属武器の材料として利用されてきた歴史があるとか。

 大きな陸生甲殻類なので、食材として利用されてもいる。が、土臭いためにあまり積極的に食べる人はほとんどいない。

 枯れ葉などを食べる生き物なのだから、さもありなん。

 孤児院で給食として出されるログマントオオタカダンゴムシの酒蒸しは確かに土臭く、私もあまり好きではないのだ。


 まあ今回は食べるのではなく封印魔法で封印するのが目的なのだから土臭さは関係ないのが幸いである。

 孤児院の庭先を悠然と歩いていたこいつと、さらに封印するのは同じ場所で見つけたミミズの一種。


 スライムワームである。


 このミミズ、実のところほとんど生態が分かってない非常に謎な生き物らしい。

 周りの人に聞いてもよく分からないと言う。

 糞をしたりもしないらしく、何を食べて生きているのかすら分からないのだとか。


 スライムワームと名前がついたのは魔物であるスライムがいるところでは沢山のスライムワームが地面から這い出て蠢く姿を良く見かけることからそんな名前が付いているらしく、別にスライムのような姿であるとか、スライムの近くにしか生息していないとかはないようだ。

 どちらかといえば普遍種である。

 もちろんなぜスライムが近くにいると蠢くのか、理由はよく分かっていないという次第。


 まあ、スライムワームの謎はさておき。

 封印には関係ないので、こいつも一緒に取り込んでしまうこととしよう。


 これまたあまり触っていたくない生き物であるゆえに、さっさと済ませてしまうのが吉である。


 光になって私の体に吸収されていくダンゴムシとミミズ。

 体に取り込む以上、できれば遠慮したいものだが、いずれドラゴンなどにも手を出そうとする以上、少しでも身体能力を高めなくちゃいけない。

 これも私の夢を叶えるための一歩だと考えれば、我慢するしか無い。

 とはいえだ。

 これでさらなるパワーを得てしまった私。

 ふ、今度こそ私が勝ってしまうかもしれないな。

 リベンジ、と行こうではないか。

 発育で劣っていても、余りある知性と、知性から生まれた魔法技術で今度こそ泣かせてしまうかもしれない。

 今から泣いた子を慰める言葉を考えておかねばな。

 ツェツィよ、覚悟すると良い。

 今宵の私は一味も二味も違うのだから。


「また、私の勝ちだね!」

「…ばかな」


 普通に負けた。





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右腕が…疼く!をやりたい男の話 百合之花 @Yurinohana

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