第5話

 余裕で負けてしまった。

 女児と男児の成長の違いを甘くみすぎていたのが敗因である。

 小学生くらいまでの年齢、大体10才前後までは女児の方が成長が早い。

 これは女性ホルモンが影響しているらしく、女性ホルモンが増えだすと身長が伸びやすくなるのだとか。

 身長が伸びれば当然ながらそれを支える筋肉だって付くわけで、小さいうちは女児の方が肉体的に強くなりやすいのは致し方ないことである。

 ちなみに女性ホルモンがある程度まで増えると今度は身長の成長が抑制され、胸やお尻周りが成長しだすとか。

 つまり、私が負けたのは致し方ない生物学的な自然の摂理であり、やむを得ないことだったのだ。

 生物学的な差を埋めるにはニソクコガネムシ程度ではまるで足りなかったという事にすぎない。

 まがりなりにも前世からの夢が叶って調子に乗りすぎてしまったようで反省すべき点である。


 一歩前進したものの、多少運動能力に優れた女児に負けるようではドラゴンやら不死鳥を右腕に封印するのはまだまだ先のことになりそうである。


 様々な魔物を右腕に封じて身体能力を上げつつ、地道にやっていくしかないということだ。

 ああ、ちなみに、だが。

 比較的身近なニソクコガネムシを何匹も捕まえて右腕に封じていけば最終的にはめちゃくちゃ強くなるのではと思われるかもしれないが、今の封印魔法では不可、である。

 というのもこの封印魔法は実際には


 厳密に言えば分解、吸収、再構築という三つの魔法を複合したもので、この3つを複合して一つの魔法に再設計した魔法を私は封印魔法と呼んでいる。

 封印というよりは対象物を分解して取り込むと言った方が正しい。

 分解する過程で対象物を殺して、取り込んだ生物を右腕から出したい時は再構築して手動、ないしは半手動でそれっぽく動かす…いわばいつでも呼び出せるロボット的な処置が行われる。

 しかし同じ生物を複数匹右腕に封印してしまうと、再構築が上手くいかなくなってしまう。


 なぜなら生物には個体差が存在するためだ。


 例えばニソクコガネムシを3匹封印したとする。

 一匹目はオス。二匹目はメス。三匹目はオスであるが一匹目に比べて1センチほど大きいとする。

 この場合、再構築して呼び出す際に同じニソクコガネムシでも三者三様で再構築しなくてはいけなくなる。

 3匹程度ならまだ良い。なんとか出来ないこともない。

 これが10匹、100匹となったらどうなることか考えたくもない。

 そして仮に100匹封印した場合、どうなるか?

 先に言ったようにこの魔法は厳密には封印するのではなく、右腕を基点に対象物を分解して取り込む魔法だ。

 魔法で分解した100匹分の同一種の体組織から1匹分を抽出して再構築する、なんていう気の遠くなる作業が必要になってしまうのだ。


 何億ピースとあるジグソーパズルを完成させるに等しい。

 ただただ苦行である。


 再構築ができなければ「右腕を疼かせた後からの右腕から封印した生物が無理やり出てくる」という演出も出来なくなる以上、私は複数匹の同一種の封印を行うわけにはいかないのだ。

 そもそも、体に取り込むという性質上取り込める量は限られており、それを同一種で埋めるのは色々な意味でデメリットの方が大きい。


 ちなみにだが言葉通りの意味での封印魔法の開発、使用も結論から言ってそれは可能だが私はやるつもりはない。


 これはなぜか?

 もちろん理由はある。


 封印という形式をとった場合、いくつかの不都合が生じて、それの解決のための魔法の開発、習熟訓練、試験運転などが必要になるためだ。

 もし封印と言う形の場合、まず生きたままの状態で右腕に格納する魔法が必要になる。

 そして封印した対象物を生かし続けるための魔法が。

 さらには対象物を自在に封印解除する魔法、最後に封印解除した対象物を制御する魔法。

 当然ながらそんな魔法は調べた限りでは存在しなかった。

 今挙げた魔法を一から開発、検証、習熟するのはさすがの天才公爵家の血筋と言えどもかなりの期間が必要なのが容易に想像できてしまう。

 そんな悠長なことをしていたらいつまでも右腕を疼かせるという夢が叶わないし、叶ったとしてもヨボヨボのおじいちゃんになってから夢が叶いました、となってしまえば肝心の右腕を疼かせて愉しむという夢を果たす前に寿命が来てしまいかねない。

 ついでに言うと体に取り込むわけではないのでこちらの場合、身体能力や魔力が上昇する効果は見込めず、それをしたいのであれば封印対象の力を取り込む魔法も必要になってしまうのだ。








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