英雄として、人として
「待ってくれ! 何気にそれ、重要な情報じゃないのか!?」
あっさりと大事なことを言ってきた全裸騎士にツッコミ交じりの叫びをぶつけるクロウ。
そんな彼に対して、騎士はバツが悪そうな声でこう述べる。
「いや、その、なんだ……実を言うと、君の【神籬機】の性能を正しく計れない理由はここにあるのだと思う。私たちは同一人物だが、同時に別人でもある。つまりは君の機体の中には実質二人分の英雄の魂が存在している上に、私自身が正体を秘匿しようとしているからただでさえ複雑な内部の魔力の流れが更に計測しにくくなって……という感じだ」
「はぁ……理由はなんとなく理解できたよ。あんたの正体に関しては全くわかんねえけどな」
自身の【神籬機】がカタログスペック以上の性能を発揮した謎に関してはこれで解決したが、根本的な疑問はわかっていない。
この全裸の騎士は何者なのか? 本当に騎士だったということと、最強だということと、何か後悔を抱えていることは判明したが、それでもクロウにはこの男の正体に見当が付けられずにいた。
「……質問なんだけどさ。あんたが二重人格だとしたら、【神籬機】の固有武装も単純に二倍になるはずなんじゃねえの? それが倍どころか一つもないっていうのはどういうことなんだ?」
「ああ、うん。それに関しても単純だ。今、君の【神籬機】に力を貸しているのは私のもう一つの人格で、彼は何も持っていない人間だからさ。ただし……彼は武器を使う必要がない程に強い。弱点がないわけではないが、大概の魔獣は素手で倒せる。だからこそ、固有武装となる物が出現しないんだろうな」
「……じゃあ、あんたが俺に力を貸してくれたら、その時にはあんた自身が持つ何かが武器として与えられるのか?」
「……そうだろうな。この武器は、私が持つべき物ではないと思う。私にはその資格がない。死して後にこの剣を携えて異世界に召喚されるだなんて、皮肉としか思えないんだ」
どうやら彼の事情はクロウが思っているよりも複雑のようだ。
ここから先はそう簡単に踏み込めない領域なのだと、曖昧に全てをぼかす騎士の反応からそのことを察したクロウは、小さく息を吐くと共に彼へとこう告げる。
「……あんたが何かを抱えてることはわかったよ。ただ、それでも……俺にはあんたの力が必要なんだ。英雄の力なんて借りなくったって、自分の腕だけで……って、考えたこともある。だけどやっぱり、この世界を変えるためには【神籬機】の力を完全に引き出せる、強い【勇機士】になるしかねえんだ。だから――」
「わかっている、わかっているとも。だが、それでも……私は踏ん切りをつけられない。勇気を出せない。かつては最強の騎士とまで呼ばれた人間なのに、どうにも情けないことじゃないかと思うだろう、クロウ?」
「……思わねえよ。あんたが抱えてる後悔が俺と似たようなものだとしたら、俺はあんたを情けないだなんて思わないし、笑いもしない。多分、きっと……俺とあんたは、力を合わせて乗り越えるべきなんだ。お互いが抱えた、後悔ってやつをさ」
「……そうだな。もう少し、もう少しだけ私に時間をくれ。自らの過ちと向き合い、それを乗り越える覚悟を決めた時こそ、私は君に……」
「ああ、わかったよ。ゆっくりでいい。自分自身と向き合って、立ち上がれるようになってくれ」
正体を明かし、力を貸す……無言ながらもそう告げた騎士に対して小さく頷いて見せるクロウ。
そんな彼の言葉を受けた全裸の騎士は、顔を覆うプレートヘルムの下で笑みを浮かべる。
「ありがとう、クロウ。君の未来が幸多きものになることを祈っているよ」
彼から感謝の言葉を告げられたところで、クロウの意識は急速に遠のいていき……二度目の英雄との会話は終わりを迎えたのであった。
黒曜の鴉~スラム上がりの青年、漆黒の【神籬機】と共に貴族だらけの名門校で成り上がる~ 烏丸英 @karasuma-ei
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