後悔を抱える騎士

「……なんでそこまで自分を卑下するんだ? あんた、英雄……なんだろう?」


「英雄? そんな立派なものじゃあないさ。私は……ただの愚か者だよ」


 自嘲気味に笑いながらそう語る全裸騎士。その背を見つめるクロウは、この状況をどう捉えるべきか少し悩んでいた。

 予想だにしていなかったが、この騎士は普通に話すことができるらしい。ならば、彼とコミュニケーションを取って相互理解を深めた方がいいだろう。


 だが、クロウはそれ以上に自分のことを責め続けるこの騎士のことをどうしても放っておけなかった。

 英雄と呼ばれた男にスラム街出身の持たざる者である自分が何ができるかなんてわからないが、それでもクロウは必死に彼へと語り掛けていく。


「そんなこと言わないでくれよ。あんたが自分で言う通りの愚か者だとしたら、そんな奴を召喚した俺だって似たような人間だってことになっちまう。いや、別に俺も賢い人間ってわけじゃあないんだけどよ」


「……そうだな。こうして君の前で自分を卑下し続けては、私を召喚した君に失礼か。だがすまない、私は自分を責めることを止められそうにない」


「そう、っすか……その、話を変えて申し訳ないんだけど、あんた、滅茶苦茶強い騎士……だったりしませんか?」


 大型魔獣であるゴーレムを一撃で粉砕できる馬力をはじめとした、最低ランクとは思えない強力な【神籬機】の性能を振り返ったクロウが、気になっていたことを全裸騎士へと質問する。

 その言葉にぴくりと肩を震わせた彼は、プレートヘルムの中で大きく息を吐いてから、静かにこう答えた。


「強いよ、私は。誇張でもなんでもなく、だった」


「最強……? 最強だって? じゃあ、なんで――」


「その力を隠しているのか、かい? ……言っただろう、私には君に合わせる顔がない、と。君だけでなく、生前の仲間たちにも今更どんな顔をして会えばいいのかがわからないんだ。逃げてるんだよ、私は。さっきも言った通り、卑怯者の小心者だからな」


 最強、目の前の騎士は自分のことをそう言った。

 しかし、そこから続く言葉は自分を卑下したとても強い人間が口にするとは思えないもので、その矛盾した態度にクロウは更に困惑を深めてしまう。


 ただ……彼が抱えている後悔がとてつもなく深く、そして大きなものだけは理解できた。


「……自分を責めたくなる気持ち、わかるよ。俺だってそうだ」


「ああ、そうなんだろうな。召喚に際して、私は君の心を覗いている。君が何を思い、何を志してこの場に立っているのかも知っている。心の奥底にある後悔や自責の念が似ているからこそ、我々はこうして運命に引き合わされたのだろう」


 クロウの心の奥にある、とある記憶。

 決して消すことなんてできない、消すつもりもないそれを共有している騎士は、呻くような声でそう語った。


「……やはり私は卑怯者だな。君の心に眠る苦しみを知っておきながら、自分は何も君に伝えようとしないのだから」


「かも、しれないな。でもさ、きちんと話をしてもらえたお陰で、あんたが何かを抱えてるってことがわかったよ。その点、俺たちは似た者同士だ。俺はてっきりあんたが露出狂の変態で、俺もその気があるんじゃないかってひやひやしてたんだぜ?」


「それは、その……すまない。私にも、にも、悪気があったわけじゃあないんだ。ただその、上手く説明ができないんだが、う~む……」


「ん? 彼? 彼って誰だ? 何の話をしてるんだ?」


 唐突に騎士が口にした第三者の存在を仄めかす発言に眉をひそめたクロウがその言葉の意味を尋ねる。

 彼は暫し唸った後、最もわかりやすいであろう解説として今の言葉の真意をこう説明した。


「私にはその、心が二つある……とでも表現すべきかな? この姿の時には基本的にはもう一つの心の持ち主が主導権を握っているのだが、今は私が無理を言ってこうして前に出させてもらっている、というか……」


「えっと……つまりあんたは、二重人格者ってことか?」


「ああ、それだ! そういうことになる! ただまあ、この人格というのも私が嫌なことから逃げるために作り出したもので、どちらにせよ私ということは変わりないのだが……」


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