戦闘開始

『ふむ…潜んでいるらしい…悪いが、私の方の依頼主の陣営みたいだ』


暗闇と同化した森林の風景に人間が潜んでいる。

トグサは自らの魂に内包している武器を思い出して具現化させ武器を構えた。


「手出しは出来ないと言う事は承知しています…」


相手は本気でトグサらを殺そうとしている。

決して油断出来ない状況、ルイーズ=カンデラが居る以上、下手に動き回る事は出来ない。


「(いや、戦うよりも…)」


トグサはルイーズ=カンデラを連れてその場から逃げるという選択肢に到達する。


「ルイッ」


ルイーズ=カンデラの名前を呼んでその手を掴もうとした時だった。

トグサの手は届かなかった。

より早く彼女の体を掴んで来たのは、暗闇から伸びる多くの手だった。


「なんです…むごごッ!!」


口元を抑えられたルイーズ=カンデラが暗闇の中でさ引きずり込まれてしまう。


「ッ!おい!!」


ルイーズ=カンデラに手をあげる暗闇の住人。

一瞬、トグサはあの闇の一族の長たちの事を思い浮かべた。

だが、一瞬、闇夜の中で蠢く彼らを見て、トグサは違うと感じた。

同じ種族でも、文化によって姿が違う事など大いにある。

彼ら闇の一族は、顔面に黒色のローブを巻いているのが特徴的。

だが、先程垣間見えた闇の一族は違う。

その姿は、柔らかな印象よりも、硬い鉱石の様に見える。

顔面には黒色の仮面を装着しており、液体塗料でも塗っているのか、肌は闇に浸透する色合いだ。


「レインさんの所の依頼主、ですか」


『如何にも』


レインはトグサと同様にこの世界の住人が依頼を行い、それを受理している。

当然ながら依頼主は複数存在する。

同一の世界で複数の依頼主が仕事を頼むという事はよくある話だった。


「光、もたらすもの、それは、何者だ」


仮面の男は、明らかにこの暗闇の世界の住人ではない存在に対して指を差しながら、帰還者として依頼したレインの方を見た。


『義務では無い為に、守秘を貫きまする』


レインは帰還者としての立場があり、同じ帰還者として存在している。

なので、レインの台詞には、多少、トグサに対する感情などを重視していた。


「依頼の内容、それを復唱せよ」


『私の仕事は敵の一族の妨害です…あちら側の一族を殺す役目は貴方たちが行うのでしょう?』


敵の一族。

それは、恐らくはトグサを召喚した依頼主に対しての事だろう。

二つの一族が、敵対同士として活動している。と見て問題は無さそうだ。


「そうだ、考えるに、その男は、異国の出で立ち、あちら側が用意した、帰還者だ、ならば、陣営として見るに値する…光、もたらすもの、お前の仕事は、敵の一族の妨害だろう、ならばそれも、こちら側に対する妨害と見る…なれば、やれ、やる他、あるまい、でなければ、契約の違反と、判断せざるを得ぬ」


仮面の男は契約違反をするのかと、遠回しにレインに釘を刺す。

依頼主が提示した契約内容に、依頼主が解釈を説明してしまえば、首を左右に振る事は出来ない。


『…一理ある話ですな、致し方なし、トグサくん。肉体を失っても、悪く思わないでくれたまえ』


複数の触手を伸ばして眩く発光する海月姿のレイン。

トグサの肉体を破壊して、妨害する存在を消そうと考えていた。


「…駄目ですね。此処で消失して元の世界に戻ったら、ルイーズを置いて行ってしまう」


トグサは武器を構える。自らの魂から生まれた代物を、相手に向け出した。

彼の言葉を聞いた仮面の男は鼻で笑う。


「女、それが名か、案ずるな、同じ所に、返そう、同じ、死の場所、終わりの、場所へ」


仮面の男の笑い方は、トグサの神経を逆撫でさせた。

人を貶す様を見ているとトグサはどうしてもその鼻を明かしたくなる衝動に駆られてしまう。

例えそうでなくても、ルイーズ=カンデラを危険な目に合わせる様な口ぶりが、一瞬でトグサの怒りに火を点けた。


「あ…?」


握り締める武器を捨て、トグサは自らの胸に五指を開いて掴んだ。


「やれるものなら、やってみろよ…その前に俺がお前らを殺してやる」


『それは駄目だ、トグサくん。原住民の殺害は認められない』


同じ帰還者であるレインが、トグサを見る。

トグサとレイン。

お互いに譲れない意志というものが存在する。

彼らの肉体は朽ちた。死亡した魂の行く末が、世界と契約して存在する事を許された帰還者と言う立場。

生前。生き続ける上で守り続けた何かを、死した二人は既に失っている。

それはかたちあるものであり、人生と言う百年にも満たない時間の中で築き上げた人との関係や、地位や財産も、彼らには最早何もない。

それでも魂に刻まれた譲れないものは存在した。


「そうですね…貴方は、歴史研究者。異世界の歴史を貪りたいと願う…俺は違う、俺は、許さない事を無理に許す事を許さない、どんな相手でも、俺はそれを誇示し続ける」


トグサは自分が優位だと思い込み劣勢者に対して煽り勝ち誇った表情をする輩が大嫌いだった。

だからそういった人間をトグサは絶対に許さないしその表情が歪む事を望んでいる。


『この世界の人間が、世界によって終わる事ならば手出しはしない…けれど、我ら異物が歴史に介入する事はあってはならない』


レインは生前から続く歴史の追求者だ。

異世界人である彼は一代にしてその歴史全てを解明してしまった。

余分以上にある人生を研究に費やす事も出来ずに、ただ茫然と命を消耗する日々を繰り返していた。

歴史を欲した男は、自国、己の世界すら捨て、魂となり、そして新たな謎を解明するべく、帰還者として契約を果たした。


「よく言いますよ…既に俺達はこの歴史に紛れ込んだ異物だ…そんな台詞、おかしな主張ですよ」


『けれどそうでなければ、異世界に辿る事は出来ないものでね…ッ』


乾いた笑いが生まれた。

二人は、全力で闘争を始めようとしていた。

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世界と契約した異世界帰還者は契約違反を犯した傲慢国王から報酬としてお嬢様ヒロインを奪い取る 三流木青二斎無一門 @itisyou

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