第25話 少女の行方6

三人は二階へと再び足を運んだ。

「このランプ明かりでは少し見づらいな…ナギくん。明かりと出してくれるか?」

「えー充電少ないからあんまり使いたくないんだけどーとも言ってられないって感じ」

 そう、スマホは充電が全て無くなってしまうと二度と充電できなくなってしまうのだ。表示される充電が0%になるぐらいではまだ大丈夫だが、バッテリー内のエネルギーが本当に全て無くなってしまえばマジで動かなくなる。それにスマホを壊されてはナギの楽しみが無くなってしまうのである。

 

 二つの理由を心の中に用意したナギだったが、どちらかというと後者のほうが思っている割合は大きかった。

 しかし、状況的にもそんなことは言ってられないために仕方なくスマホのライト機能を使う。


「はい、どうぞ。丁重に扱ってね」

 ホームズにスマホを手渡すと後ろから何だそれはという声が聞こえて来るが気にしない。

 ホームズがスマホを受け取ると地面にべったりとくっついた。その様子は地面に落ちたコンタクトレンズを探すようであった。

 強い光を使ったホームズはすぐに何かを見つけた。

「あった。ここが入り口だ」

 ホームズがスマホの光で照らした先には線があった。正確には溝である。この暗さに加えて床にある柄のおかげで昼でも意識していなければ発見は困難だろう。

 線が向かう先には台があり、その上には壺が乗っている。台の真横には指が入るぐらいのくぼみと鍵穴のような物があった。

「鍵穴…ホントにここが入り口なんだ…」

 ホームズの話を疑っていたが本当にあった。ジョンも信じていなかったようで驚きの表情を隠せていない。


 入り口を見つけたのはいいが困ったことに私たちは鍵など持っていない。ここを開ける手段がないのだ。

「ホームズ、鍵なんて私たち持って無いけど開けれるの?」

「恐らく問題ないだろう。本来この台で隠してあるのだろうけど、この屋敷にはメイドもいないから隠す人が居ないんだ。だから鍵をかけることもできない」

 ホームズはそう言うと溝に手をかけて縦に扉を持ち上げる。

 持ち上げると同時に扉の隙間から微かに香っていた臭いが一気に強くなる。強烈な臭いだ。ゴミのような、腐ったような、排泄物のような、ヘドロのような、思わず顔を背けたくなるようなそんな臭いだ。

「う゛…なんだこの臭いは…」

 スマホで照らすも高さ故にハッキリと底が見えない。

 下へ降りるハシゴは汚れており、小綺麗で、上品な屋敷の内装とはかけ離れた雰囲気をひしひしと感じた。

「通路を見つけた。皆に知らせよう」


______________________________



二階の廊下に集まり、カッター警部が指揮を取る。

 カッター警部の指示で今いる人を二チームに分けた。一つはこの屋敷内に残り新たな手がかりを探すグループ。もう一つはハシゴを降りて地下を調査するグループ。店主がいる可能性もあるために人は多めである。


 ドイル一行は後者に属していた。カッター警部の指示に難色を示す人物もいたがカッター警部が押し通す。ジョンもカッター警部が何を考えているのかわからなくないと漏らしているのが聞こえた。

 ナギは漂う雰囲気が明らかにヤバいので行きたく無かったが、ドイルもホームズもやる気を出していたために残ると一人になってしまう。それだけは避けたかった。だから付いていく。


 準備を終えると一人ずつハシゴを降りていった。

 ナギがハシゴを降りると異臭がより強くなったことに気づき鼻をつまむ。

「ここマジ臭いエグすぎでしょ」

「そうだな、酷い臭いだ」

 後ろから降りてきたホームズがナギの言葉を拾う。

 地下の通路は一本道だった。通路は広くはないが狭い訳でもない。しかし、地下にある通路として考えるなら広い方だろう。人が二人分ぐらいなら通れる広さだ。そして通路の横には古めかしい扉があった。


 皆手にはランプを持ち、最低限の明るさを確保している。だが、ナギだけはランプの薄暗い明かりを使わず、スマホのライト機能で照らしていた。


 このあんまり明るくないランプで地下探索は地獄だ。それならいっそのことしっかり照らせるスマホを使う。 

(充電少ないけど…非常事態なので仕方ない)

 スマホの充電は15%程しか残っていないが、ライト機能だけだったら2時間ぐらい持つだろうと踏んで使用していた。念のためランプも持っている。

 

「いや、マジ無理むり…ここ」

 ナギが通路の奥を覗き込んでも全く見通せない。暗く、長い通路だ。

 

ドン!ドン!


「ヒィ!」

「開かねぇ!」

 通路にある古い扉を無理やり開けようとする警官の声だった。

「そこのデカい人手伝ってくれ」

 ドイルに声をかけられる。

「承知した」 

 そう言うとドイルは若干姿勢を下げ、肩を丸める。タックルの姿勢だ。

「ふん!」

 渋い掛け声と同時に扉が部屋の中に飛んだ。そして部屋の全貌が明らかになった。

通路には元々たくさんの臭いが、異臭として漂っていた。そしてその発生源の一つはここだということは誰が見ても明らかだった。

「なんだここは…」


 そこには部位が欠けている死体。

 肉がまだ付いている腐った死体。

 そして何かの骨が並んでいた。


 それぞれの死体が着ている服は本人の血らしきもので染まっており、それは元は黒と白を基調とするものだった。


「メイドか…これは…」

 真っ先に部屋に入ったドイルが死体の近くまで近寄る。欠けた死体はまだ新しく、顔も判別できる。しかし、食いちぎられたようにえぐれた切断面だった。腐った死体はかなりの時間が経過しているようで何処の誰かもわからない。そして最後に視線を向けた骨は…


「動物…?いや、もしや…赤ん坊の骨…なのか…!?」

 体こそ人間の赤ん坊だが、頭部が異様だ。例えるなら魚である。事件現場にあったような、奇形のものだ。人間ではない何かと思いたかったドイルだが、とある記憶がそうと断言させない。妻が書いた日記だ。彼女の書いた日記にはこうあった。


あんなものが生まれて来たことも全部、私たちが大いなる御方の祝福を受けずにいたからなんだそうです


 あんなものが生まれて来た。というのは、今いる子供への不満かと考えていたドイルだったが、これを見て考えを改めた。

(バカな! これが、生まれて来たとでも言うのか!? いや、これは人ではない! もしそんな存在がいるのであれば…)

「魚人間…」

 後ろからやってきたナギの言葉だった。ナギの言葉に思わず息を呑む。

「いや、そんなものが実際にいる訳――」


「ちょっと待て、ドイル、ナギくん気づいたか…? あの死体が誰なのか…?」

 ナギの隣にいたホームズが口を開いた。ホームズの指は腐った死体へ指を差す。

 ホームズに言われるように視線を向けると妙な既視感を覚える。


 服の色が腐敗により変色しているが、形はそのままだ。袖のようなものには黒いフリルが結びつけられており、メイド服らしさを感じるが何かといえばゴスロリに近い。頭らしきものには変色し汚くなったフリル付きのカチューシャが付けられている。

 そんな人物に心当たりがあった。

「これ、もしかして…」

「今朝あったメイドなのか…?」

「確証はないし、不可解な点も多い。だが、一つ言えるのは我々はあのメイド服と同じ服を着た女性を見たということだ」

 彼女の服装はナギ程ではないがよくある格好とは言えない。隣で死んでいる女性のメイド服を見ればわかる。その差は明らかだった。


 三人が死体を見て動揺していると、カッター警部が横からやって来る。カッター警部に動揺は無く、淡々と言葉を並べる。

「この骨の頭…事件現場にあった死体に似てるな」

 そう言うとキョロキョロと部屋の中を見回した。

「ここには、この死体だけのようだな…時間もない。お前とお前、上から何人か読んでここを調べとけ」

「はい!」

 一緒に入って来た警官の2人を指さして命令した。手慣れている様子だった。

「時間がない、先へ進む」

 カッター警部がそう言うと皆、再び通路を進み始める。暗く先の見えない通路へと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

探偵嫌いのコナン・ドイル SaiKa @SaiKa-dd9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ