第24話 少女の行方5
この屋敷に到着してから3時間もの時間が経過し、続々と他のチームも集まって来ていた。しかし、これと言って進捗はない。本当の倉庫の場所に関する情報は巧妙に隠されていたからだ。
「ちょっときゅーけー。ホームズもきゅーけーしよ」
「あ、ああ」
ナギは疲れたのでホームズを連れて廊下へ向かう。休憩は各自で取っているため問題はない。
「おい、誰か付いて行ってやれ。早く戻ってこいよ」
流石に見張り役として後から部屋にやってきたジョンが付いてきた。
ちなみにホームズをわざわざ連れて行くのは一人で行くのが怖いからであった。
部屋から出ると廊下にかかっている絵画にギョロリと睨まれたような気持ちになる。ナギであればこの家に一人では住めないだろう。しかし、今は複数人いるためビビるぐらいで済む。
「うわ、くらすぎ」
実際は月明かりがあるためそこまで暗くはない。しかし、明るい街頭があるのが当然の世界で生きていたナギにとっては暗かった。
「むしろ今日は晴れていて月も出ているから明るい方なんじゃないか?」
「まぁそうなんだけど…それにしても、マジで何も見つからないね本当にここに証拠あるのかなぁ?」
「まぁ、僕たちは探すしか無いさ。他のめぼしい場所もスコットランド・ヤード達が調べてるらしいしね」
「なんか臭う…」
窓から顔を出しているナギは何か嫌な臭いを嗅覚で感知する。この臭いは何処かで嗅いだことがある。嫌いな臭いだ。ここはまだ臭いが薄い。しかし、臭い発生源までいけば確実に鼻がもげそうになるだろうということはわかった。
そう考えていると後ろからなんだか煙のようなものがやってきて、口を手で覆い窓から離れる。
「くっさ! なにこれ?」
慌てて後ろを振り返ると一緒に付いてきたジョンが煙草を吸っていたのだった。ホームズは煙草の煙を上手く避けるように陣取っていた。
「ちょっと酷くないですか? せめて何か言ってから吸ってほしかったです」
「あ、ごめんね」
ジョンが取って付けたような謝罪をすると。ホームズにも矛先が向く。
「ホームズも気づいてたんなら何か言ってくれても良かったのにー!」
「すまないね。でも君が窓を独占しているから、彼だって言いづらかったのかもしれないよ」
さっきの反応からして違うと言いたいが、その可能性も捨てきれないと思ってしまうのがムカつく。窓の話になり、ナギは一階には窓が無かったことを思い出す。
「そういえば、一階、窓無いせいでめっちゃ暗かったよね」
「一階に無い…!?」
ホームズは片眉を上げて張り詰めたような声をだす。
「え? うん。確かね」
何気ない一言に質問されると逆に心配になる。何か自分が地雷を踏んだような気分になるからだ。
「確認だ、下に行くぞ」
二人が階段の方へ向かうと、ジョンは慌てて煙草を消す。
「もうちょっと休憩したかった…」
この屋敷の作りは非常に単純で、長い廊下から生えるように部屋がある。そして廊下の端に窓がある。そして一階も二階も構造は一緒である。
階段を下りると、ホームズは即座に窓を確認した。
「無い」
そうつぶやくとホームズは二階の窓があった場所に近づいた。
「ホームズ、なんかおかしいところあった?」
このままでは訳も分からず振り回されてしまう、また勝手に置いていかれてしまうことだけは避けたい。
「何故ここに窓を作らなかったのだと思う?」
ホームズは質問に質問で返してくる。先に答えてから聞いてくれと言いたいところであるが、ナギも大人の女性である。わざわざ口に出さない。
「いや、わかんないけど…」
「君は?」
ホームズはナギと並んで立っているジョンに問いかけた。
「いやー僕もわからないですね…」
ナギがその質問にどんな意味があるのか聞こうとするとホームズが答え合わせをしてくれた。
「僕はおかしいと思うんだ。この階に窓がなければ明らかに風通しが悪くなる。それに日当たりも悪くなる。良いことは少ないと思うんだ。わざわざそんなことをする人が何故二階には窓を取り付けたんだ? 僕には不思議でたまらない」
確かにそうかも知れないが、だからなんだと言うのだろう。窓があろうとなかろうと、正直どうでもいい。その違いに一体なにがあるのだろう。
「もういいか? そろそろ戻るぞ」
ジョンが動かないホームズを見て声をかけた。もうそこそこ時間は経過している。今の状況であまり長い休憩はよくないだろう。
ホームズからの返事は遅く、急に大きめの声をだした。
「ちょっと待った」
ホームズは駆け足で階段の方へ向かった。
「いや、待って欲しいのはこっちなんだけどー」
ホームズを追いかけて階段を登る。二階へ付くとホームズは今度は一階へと階段を降りる。そして一階に戻ってくるとホームズは眉を上げて驚いていた。
「なんかわかったの?」
ナギの問いかけにホームズは答える。
「ああ、この屋敷まだ部屋を隠しているみたいだ」
「部屋を隠してる? まだ他に部屋があるの?」
「ある、ここにある」
そういうとホームズは壁を手の甲でコンコンと叩く。
「響くだろ? ここは空洞だ。一階は窓を付けなかったんじゃない。付けられなかったんだ」
ホームズの突拍子もない推理についていけない。説明してほしいものだ。
「え!? なんでそうなったの?」
「さっき二階へ行ったのは階段から窓までの距離を測ってたんだ」
「なるほどー。でも、流石にこの壁の奥に部屋があるっていうのは無理じゃない? 私も体感そんなに変わらないし…」
「そう、そこなんだ。この壁の向こうにあるのは僕の計算では、だいたい直径一メートルぐらいの小さいスペースがある筈だ」
彼は何を言っているのだろうか。そのスペースに一体何があると言いたいんだろう。そこまで小さい場所であるなら頑張っても人間一人いるだけで限界だろう。
「それじゃあ、そこに何があるの?」
「入り口だ。それも地下へ続く」
「地下?」
「そうだ、だいたい不思議に思わないか? これだけスコットランド・ヤードが探しまわっているのに、情報が少なすぎると」
「まあ確かに…」
「地下通路があるとすれば目撃証言の少なさも納得できる。メア・カシミアの目撃証言が少ないことはまだわからないが、店主らしき人物は事件発生の少し前に目撃されている。それから事件が発覚し、ロンドン全体が警戒態勢に入っていたんだ。そこからの目撃証言もないのはおかしくないか?」
「ちょっと待ってくれ」
口を挟んだのはジョンだ。
「仮に地下への通路だったとしてなんでわざわざ窓を塞いでまでハシゴをかけたんだ? そういうものは地面に隠すんじゃないか?」
一理ある。一階の地面に隠してカーペットでも引けばそうそうバレるものではないだろう。わざわざ窓を塞ぐ理由が見当たらない。
「ああ、君はさっき煙草を吸っていたから気づかなかったようだね」
「煙草が悪かったのか?」
ホームズがジョンに向かって
「二階の窓側付近は弱いが何かの臭いが漂って来ていたんだ。一階に入り口を隠せばその臭いが漏れると思ったんだろう。実際に二階からは臭いが漏れている。一階には客間もあるからなバレる可能性があったんだろう。だが、そうなると一つ問題なのが…いや、今考えることじゃないな。よし。二階に上がるぞ」
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