第23話 少女の行方4
ナギと同じチームなのはホームズと監視役のヴィンソンだ。
手がかりを探せと言われているものの、ナギは探し物があまり得意ではなかった。帽子を被っているのに帽子を探すようなこともよくあった程だ。三人で二階にある店主の部屋に来ているのだが、明かりはあれど薄暗い。怖いものが苦手なナギには余計に分が悪かった。
「二人がいて助かったー。一人で探せとか言われたら怖すぎて、いくら人が結構いても無理だったー」
「お前、遊びで来てるんじゃないんだぞ。口でなく手と目を使え」
「はーい…」
「カッターの奴め、はやり一般人を入れるのはよくないだろう」
ナギに注意すると机に置かれた記録をペラペラとめくりながらぶつぶつと文句を言っている。
そう、私たちが探しているのは倉庫の場所だ。記録にあった倉庫はもぬけの殻であり何も無かったそうだ。スコットランド・ヤード達によると本当の倉庫に隠れている可能性が高いらしい。
今のロンドンは最高の警戒態勢にあり、ネズミ一匹逃げられそうもないとドイルも評価していた。人が少ない夜の警戒だからこそ、人の動きが敏感にわかる。だから今は逃げられない。今夜中に倉庫の場所を見つけられるかにかかっている。まさに猫の手も借りたい状況だそうだ。
この部屋は本や資料そして荷物が多い。そして探すものは少女の行方に限った話ではない。メイドの行方も平行して探さなければいけなかった。結局あのネリーナと呼ばれていたメイドの正体は不明だ。彼女も事件に関わっている可能性は十二分にある。事件と関わりがあるとするなら何かしら記録が残っているかもしれないからだ。しかし、二人の子供がこの家の方向へ連れられて来ていたという情報があるだけでメイドの目撃情報はない。私たちに教えていないだけかもしれないが、今情報を渋る理由はないだろう。
(だいたいそんなに子供が大事ならもっと警護つけとけよー)
探すものが一番多い場所であるため、各部屋を探し終わったグループはここに集まってくる手筈になっている。
「おい、スコットランド・ヤードはこの明らかにおかしい物をほったらかしにしてたのか?」
「なん――」
「え! ホームズなにか見つけたの?」
ヴィンソンが言葉を口にした瞬間にナギもしゃべりだして、ヴィンソンの言葉は書き消されてしまう。
ホームズは机に指を立ててコツコツと音を鳴らした。
机、それも店主のものだ。当然真っ先に調べているはずだろう。そこにまだ何かあると言うのだろうか。
「もう既に調べたと聞いているが…」
「この机の引き出し妙だと思わないか?」
ホームズは机にある引き出しを指さす。ナギとヴィンソンはそれに釣られるように引き出しの中を覗き込む。
しかし、机の中は空である。何も不審な点はない。
「おいおい、何もないじゃないか」
「なんかおかしい?」
「ああ、この引き出しなんだが横からみた長さに比べて、中のスペースがちょと狭過ぎるとは思わないか?」
確かに言われてみれば外からみた引き出しの長さよりも奥行きがない気がする。しかし、元から引き出しが大きめであるため、違和感を感じるほど狭い訳でもなかった。
「うーん。でも、そんなに変じゃない気がするけど…」
「確かにこれだけではそう思うだろう。じゃあ二人ともこれを聞いてくれ」
ホームズは二人に何かを聞くように促す。
バチン!!
勢いよく引き出しを閉めた音であった。引き出しの音は大きく三人しかいない部屋に響き渡った。
「ちょ、ちょと??」
「何やってるんだ!」
ホームズの唐突な行動に不可解さを覚えた二人であったが、なにやらなにやら目的があったようだった。
「さっきの音を覚えておけよ。それじゃあ次はこっちだ!」
ホームズはそう言って反対側にある引き出しを開けた。
バチ!
さっきより音が小さく響かない。後者の物も中身は入っていなかった筈なのに明らかに音が違う。
「わかったか? こっち側の引き出しは奥が空洞になってるんだよ」
「なるほど、それは盲点だった。よく気づいたな」
「さすがホームズ! 天才!」
「運が良ければ誰だって気がつくさ」
ホームズは4段あるうちの一番うえの引き出しをそっと引き抜き、ランプの明かりを近づけて奥を覗き込む。
「あれ? 何もないみたいだけど…」
後ろから見ていたナギが言葉を発する。奥には何もない。ただ木できた壁があるだけだ。
「いや、奥の右端だけが僅かに擦れている。なにかある。」
4段ある引き出しを全て引き抜いていくと、一番下に穴があった。小指も入らないような小さな穴だ。
「これは…」
机の上には店主が使っていたであろうペンがあり、手に取る。
「使うぞ」
「あ、ああ…」
何に使うんだと言いたげな顔をしていたヴィンソンの許可を貰うとペン先を穴に入れると、キィーという音が鳴る。壁をスライドさせていたのだ。
ホームズはもう一度ランプの明かりを近づけて棚の奥を覗き込んだ。
「ビンゴ!」
そう言うとホームズは引き出しの隙間へなんとか腕を入れて何かを取り出した。
本だ。黒い本、表紙には黄色い円と文字が書かれていた。
ホームズはクルクルと表と裏を確認したあとにタイトルを読み上げた。
「Revelations of GlaakiⅫ《グラアキの黙示録12》…ナギくん。知っているか?」
「知らない。なんかその本…いや、やっぱなんでも無い」
ナギはその本――グラアキの黙示録からは形容できない気持ち悪さを感じた。
それは直感のようなものであり、本自体は何の変哲もなく気持ち悪さもない。ただ、何故か不快感を覚えるものだった。
「ごちゃごちゃ言ってないで貸せ。俺が確認する」
ヴィンソンがホームズの手から本を奪う。
「俺はお前らを信用してないからな重要そうな物は流石に渡せん」
そう言ってパラパラとページをめくっていく。すると何かの紙が本の隙間からこぼれ落ちる。
「何か落ちましたよ」
ホームズは紙を拾いあげると紙に書かれた文字に気がついた。
「これは血か?」
その紙に書かれた文字は黒ずんだ茶色であり、書かれてから何年も経っているようだった。
どうしても困ったことがあればこれを読むといい、さすればこれが全てを解決してくれることだろう
「なんとも怪しい本だな。店主の方も異端の宗教に手を出していたようだ」
ホームズが一度読み上げると、ヴィンソンがその紙を取る。
「これらは俺が調べる。他にも何か書き込んでいるかもしれんからな。お前たちは他を調べてくれ」
「ああ…」
ナギはヴィンソンが調べると言っていたために辞めておいたほうがいいと言いたいが、ナギの抱いた不快感は根拠もないただの勘であった。
カルト宗教の教本などは読まない方がいいという話はよく聞く。半端な気持ちで読んでしまうと逆に魅入られてしまうからだ。しかし、ヴィンソンは警官だ。警官の彼にそんなことを言うのは余計な心配だろう。
(なんにもないといいけど…)
ガチャ
扉の開く音だった。
「俺たちのところには何も無かった。こっちは何か見つかったか?」
他の部屋の調査が終了したチームがやってきた。
「ああ、ちょうどさっき店主の机からこんな物が出てきたところだ、これは俺が見る。まだ調べてない資料はそっちだ。物資の搬入や、倉庫の場所がわかりそうな物を中心に探してくれ」
「承知した」
ヴィンソンは新しく来たチームに指示を出し、ナギ達も再び作業に戻る。
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