第22話 少女の行方3
もう外も暗い。月が出ており、満月なために暗くはないが、ランプの明かりは間違いなく必要な時間になっている。
ドイル達が到着すると外には見張りの警官達がいた。
彼らにドイル達を連れて来た理由を説明をした後、家の中へと足を進める。普通なら前に怒られたように入れないことが普通だろう。しかし、犯人とメアの居場所を示す手がかりが乏しい。そこでメアの父親であるディーンがなんとかお願いしたのだ。
店主の家はけして大きくない。しかし、入り口はすこぶる綺麗で内装は豪華、貴族の家を彷彿とさせ、金持ちという印象を強く受ける。そして、ところどころに絵画や動物の剥製など様々なインテリアが飾られていた。
「うわ、高そー。やっぱりこういうの欲しくなったりするもんなの? ドイルさん」
「私はあまり興味がないな…だが、ともだ――いや、知り合いはこういう物を集めていたからな。欲しくなる奴は相当数いると思うぞ」
カッター警部に連れられて部屋に入るとその部屋はかなり広く、食事場のようであった。しかし、椅子や机は破損している。足が折れ、割れているものもある。そして、部屋の中では数人が依然として証拠を探しているようだった。
「これ、店主と嫁の戦闘跡に見えないんだけど…」
「私もそう思う」
カッター警部がやってきたことに気づいた一人が近づいて来る。
「カッターさん。戻ったんですね」
「追加の人員を持って来た。なにかわかったことはあるか?」
「こんな物を見つけました」
警官の手には表紙にキズがついた小さなノートのような物があった。
「これは日記か?」
「はい、どうやら婦人の物のようです…」
カッター警部は日記を受け取り、ページをパラパラとめくって最近のページを読み上げた。
3月5目
今日は大発見がありました。この前買った日本のお茶をちょっぴりチョコレートにこぼしてしまいました。でも、それがとても美味しいのです。夫にも教えておきましょう。
4月7日
ついに明後日、新作チョコレートが店内に並ぶのです。それに向けて明日は準備です。かなり手間とお金がかかりました。やっぱり輸入するとなるとお金がかかりますね。だいぶ手間暇をかけて作った新作です。きっとみんな美味しいと言ってくれる筈です。はやく明後日になってほしいです。
4月8日
普段陽気な夫が元気を無くしています。何か嫌なことでもあったのでしょうか? 今日一緒に行ってあげられなかったことが悔しいです。明日詳しい事情を聞いてみましょう。夫が辛い思いをしているときは妻が支えるものです。それに明日は新作チョコレートの発売日、気合を入れなければなりません。今まで通り二人で乗り切っていくのです。
4月15日
もう、私たちはダメかもしれません。こんな喧嘩をしたのは初めてです。数週間前まではあんなに明日が楽しみだったのに、今は明日がとても怖いです。なんでこんなに辛い思いをしなくてはいけないのでしょう。
4月20日
ビックリしました。人間は皆、悪魔を体の中に宿しているみたいなのです。私と夫が喧嘩したことも、あんなものが生まれて来たことも全部、私たちが大いなる御方の祝福を受けずにいたからなんだそうです。今まで不自然に思っていたことが全て腑に落ちました。明日詳しい話を聞きに行きましょう。
4月28日
なぜ。なんで。どうしてなのでしょう。理解してくれません。なんでこうもわかってくれないのでしょう。彼は祝福を理解してくれません。夫はこのままでは悪魔になってしまいます。助けなければ…いや、もう悪魔なのかも知れません。それなら夫を擁護するピーターもやはり…二人を助けなければ。それが妻の役割ですよね? ああ大いなる御方よどうか二人に御慈悲を。
「ここで日記は終わりだ。事件の概要がだいたいわかったな。妙な宗教にハマった嫁は夫と子供を殺そうとするが返り討ちにあった。そういうところだろう。」
カッター警部はそっと日記を閉じる。
「メアの手がかりは…?」
ディーンは着々と焦りが露わになってきている。殺人をした人物に誘拐されたかもしれないのだ焦るに決まっている。
「残念ながら…まだ…」
ディーンの表情は一層暗くなる。それをみてジョンは慰めの言葉をかけた。
「今それを探しに来たんですから、それにきっと大丈夫ですよ」
気休めだ。ディーンもきっとわかっている。保証もない曖昧な言葉だと。
「ありがとう…」
しかし、ディーンの落ち着きを取り戻すには十分だったようだった。
「この屋敷は部屋が多い、三人一組になって一つの部屋見て手がかりを探してほしい」
カッター警部の一声で調査が始まった。
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