第21話 少女の行方2
状況整理も兼ねて改めてディーンに当時の状況を話すと彼は表情を変えた。
「二つわかったことがある」
ディーンの表情からは焦りが感じられ、汗が流れている。しかし、言葉には落ち着きがある。大きな工場をもつ経営者というものだ。
「まず、うちにはそのネリーナというメイドは居ないということ。二つ目は特別なチョコレートが食べられる店は恐らく…事件の合ったチョコレート屋のことだろう」
周囲に緊張が走る。けれど、それぞれ違う箇所に反応を示していた。ドイル達はネリーナが存在しないことに驚き、警官達はチョコレート屋の事件との関係性があることに驚いた。
「し、しかし! それはおかしい!」
若い刑事からの声であった。他の警官たちも各々に口を開いて「ありえない」「どうなってる」とそれぞれが口を開いている。そして、それに続いてホームズが口を開いた。
「ディーン殿、あのメイドが居ないとはどういうことだ?」
雇用主であるディーンがメイドの数を把握しきれて居ないだけなのでは? とナギも疑問に思ったが、瞬時に否定される。
(あの存在感のメイドに気づかないなんてことある? いや、そんな訳ない。じゃあ誰だったの?)
「皆さん落ち着いて下さい。取り敢えず一つずつ解決していきましょう」
ドイルが仲裁に入る。ドイル自身も疑問に思っている筈だが、流石は医師だ。こういった細かい判断が妙に早い。
ドイルの発言を聞くと若い刑事は「ではこちらの疑問から話させて頂きます」と言って話始めた。
「チョコレート屋と関係があることの何がおかしいのかと言いますと、ドイルさんの眼科に入って以降の目撃証言が一つもないのです。そう一つも。『チョコレート屋の殺人事件』と『メアさんの行方不明』が同時に発生しているのです。我々スコットランド・ヤードは勿論最初に関連性を疑いました。しかし、ドイルさんの眼科から、チョコレート屋までの道のりは人通りが非常に多いです。ましてや、メアさんは普段から非常に目立つ格好をされていると伺っております。それなのに目撃証言が一切ないのは明らかに不自然です。そのため殺人事件との直接の関係性は薄いと考えていました。しかし、カシミアさんの言葉によると向かったチョコレート屋は例の殺人事件の現場であり、疑問に思ったわけです」
「なるほど…」
ドイルが頷く。
「では、僕からもこちらの状況を話そう…と言いたいところだが、先程あなた達に話したことが全てだ、だからディーン殿聞く。メイドのネリーナが居ないとはどういうことだ?」
ディーンはうつむいていた頭を上げてホームズと目を合わせた。
「言葉の通りだ。君たちの話に出てきたメイドのネリーナという人物はもう存在しないんだ」
「それは…死んだということか?」
「ああ、あれは忘れもしない2ヶ月前のことだ…うちの屋敷で不慮の事故が起こったんだ。ネリーナ雑用メイドでな。その人は屋敷の二階の窓を掃除していたそうだ。そして何かの拍子に窓から落ちてしまったんだ。打ちどころが悪かったようでそのまま死んでしまったのだ。だからもう居ない人物なんだ…それに彼女が一緒にいることはおかしいんだ。メアの世話は別のメイドに頼んである。」
おかしい。私たちが見たものと、どんどん辻褄が合わなくなっていく。
「ちょっと待って下さい。今の状況をまとめると…
ドイルさんの眼科で目撃証言が消えている。
私たちはチョコレートを食べに行くと言って外に出ていった二人を見た。
私たちが見たメイドはもう存在してない。
ってこと? 確かに私たちめっちゃ怪しい…」
これでは私たちの証言はあてにならない。むしろ私たちが嘘を付いていると考えたほうがよっぽど自然に見える。
ホームズに期待をしてチラリを横目で見るが表情は険しい。何より情報が乏しいこの状況では流石のホームズでも手が出ないようだ。
そうして、私たちが頭を悩ませているとまた一人この場所に駆け込んできた。
「事件に進展があったぞ!」
そう言ったのは少し年を取った刑事だ。彼は事件の現場にいたもう一人の刑事だ。
「どういう状況だ?」
年を取った刑事は結構な人数が集まっている現状をみて疑問を抱いているようだった。
「手の空いている奴はいるか?」
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若い刑事が端的に状況を説明すると少し年を取った刑事は少し早口でこう言った。
「だいたいわかった。殺人事件と関係がありそう、ということだな? 実はこっちでもその可能性が見えてきたんだ。」
「すみません。あなたはどなたですか?」
ディーンからの質問であった。
「私は警部のカッター。コイツは補佐をしてくれているジョンだ」
カッター(少し年を取った男)とジョン(若い刑事)の自己紹介を終えるとカッター警部が再び口を開く。
「今回の事件に進捗があったから共有したいところだが…時間が惜しい、あまりやりたくはないが移動しながら教えよう。付いて来てくれるか?」
「何処に向かうんですか?」
「チョコレート屋の店主の自宅だ」
彼の口から出てきた内容はこうだった。
店内の状況
店内に人間一人のバラバラ死体
指の一つには指輪がある
死体はサイズこそ大きいが女性のもの
大きな魚の頭は学者でも知らない未知のもの(調査中)
箱は黄色い酒に浸されていた。瓶のラベルより蜂蜜酒
死体は死後数日は経過している(蓋を完全に締めていれば甘い匂いに隠れてそこまで臭わない)
調査情報
事件当日の担当は店主とその妻の二人
最近の店の評判が非常に悪く、人が殆ど来ていなかった。第一発見者は頻繁に訪れる客ではなく、たまに利用する客
メア・カシミアはよく利用していた
店主の家はかなり荒れており、戦闘をしたような後があった。
事件発覚の1時間ほど前に子供を二人連れた裏路地を通る様子を目撃した。子供の一人は背負われており、全員ローブ姿だった。
進んでいった方向は店主の自宅
店主の子供は男の子一人
「これが今わかっている情報だ。子供が二人いるのはおかしいだろ? やはり、繋がっている可能性が高い。だが、この家からの手がかりが見つからない状況だ。人手が足りない。だから呼びに行った訳だ。」
「なるほど、だからまた店主の自宅に向かっているんですね」
若い刑事のジョンが言った。
彼らにはドイル達も同行していた。しかし、ホームズは乗り気でないようだった。あまり顔色は優れていない。そりゃあそうだ。ドイルの眼科でかなり落ち込んでいたのを無理やり連れて来られているのだ。気分も悪くなる。しかし、このまま何もしなければ犯罪者になってしまう可能性も高い。だからこそ、付いてきているのだろう。ナギ自身もそうだった。子供であろうとも、メアはあまりいけ好かない奴だった。第一印象は非常に悪い。そんな奴を助けたいとはあまり思わないからだった。
そんな思いの中店主の家に到着したのだった。
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