ひまわりからの帰り道。

住宅街は静まり、月も見えない暗闇をまばらな街灯が照らしている。

少し火照った顔を夜風が撫でる。


「先輩、おんぶしてよ。」


美鈴は酔ったときにたまにこうして甘えてくる。

実の父親が早逝し、小学生の時に母親が再婚したという家庭で育った美鈴の深層心理に何か渇きのようなものがあるのか、単におんぶが好きなだけなのか。深く聞いたことはない。


…寮まであと数分。人目も少ない時間だし、この暗さだ。問題ないか。

「寮に近づいたら下ろすよ。」

少ししゃがんでやると美鈴は嬉しそうな声を出しながら飛びついてきた。豊かな胸が背中に押しつけられる。声が少し大きいぞ。


知里にこんなふうに甘えられたことはなかったっけ。


美鈴と肉体関係を持つようになったのは、知里と付き合い始めた4年次の年末からだ。帰省していつものように飲みに行き、教育実習を終えたばかりの美鈴のペースは過去最高だった。つられるように俺も酒に飲まれ、気付けば二人はラブホテルにいた。ベッドに横になってふと冷静になった俺はそのまま寝ようとしたが、『我慢できるの?』という美鈴の挑発によってたがが外れてしまった。


最初の行為は、今のそれほど燃え上がるようなものではなかった。しかしこれまで経験した女性たちとは違う感覚があった。それは肌の相性だった。裸で抱き合ったり、お互いの身体を撫で合うだけで身体の強張りが芯から抜けていくような感覚。俺も美鈴も、人並みかそれ以上の経験を持っていたが、その感覚はお互い初めてだった。


それから回数を重ねていき数ヶ月後、美鈴が初めて深いオーガズムに達せられるようになった頃には、俺にとっても離れ難い存在になっていた。



その頃だったか、知里とは別れたと美鈴に告げたのは。

あの時美鈴はどんな顔をしてたか、不思議と思い出せない。



「好きだよ先輩。」



俺のうなじを嗅ぎながら美鈴が囁く。

美鈴の頬と俺の首筋が触れ合う。肌が触れ合うだけで、どうしてこんなに満足できるのだろうか。

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欠けた人間 ありおそ @dkawa1020

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