エピローグ

「それでは、当日よろしくお願いします」


 頭を下げたピンク髪に金色のピアスの派手男子に、エミリーの身体が前傾する。


「はい。最後にひとつご確認したいのですが……っ」


 その時点で、足を踏みつけてやった。繰り返される嫌な体験に、逡巡はない。痛がっているエミリーをよそに、問題はないと笑ってお客様と別れた。

 打ち合わせ終わりのキャンピングカーの座席に、エミリーがだらりと身体を凭れさせる。


「なんで邪魔するんですか」

「ひっかけるのをやめろって言っただろ」

「出会いなんですから、いいじゃないですか。私は真剣ですよ!」

「真剣だからって仕事中を許した覚えはない」

「丞さんが言ったくせに」


 唇を尖らせて拗ねる。随分と表情が緩んで、自然体になった。元々そういう仕草を見せてはいたが、狙ったようなタイミングが多かったのだ。それが減少して、ナチュラルさを見せるようになった。


「なんじゃ、またやっとるのか」


 相変わらず、打ち合わせはこちらに任せっきりのキクが戻ってくる。呆れた声に、キクのそばに控えているブラックがくんくん笑うように鳴いた。鼻を鳴らすと笑いを表現できると理解したらしい。妙な技を習得したものだ。


「放っておけばよかろう」

「放っておくなって言ったのはキクだろ」

「それとこれは違うじゃろ」

「身体の関係があるから、放っておけないんでしょ」


 最後に乗り込んでくるピュイが、容赦なく切り込んでくる。エミリーが頬を染めて、座席から立ち上がった。


「ないですからね!?」

「美貌でどうにかできるんじゃなかったの?」

「だからってなんで丞さんに使うんですか! 使いませんよ!」

「丞班、フラれているよ」

「エロフの相手は手に余るからちょうどいいよ」

「私を差別するのはやめてください!」

「安心しろ。特別扱いしてやってる」

「意味深~」


 半分棒読みの馬鹿みたいなピュイ合いの手に、エミリーの顔がより赤みを増す。エミリーはそのままずんずんと車を降りていき、定位置の助手席に収まった。


「お前もさっさと移動せんか」


 粗略な運転の促しに、肩を窄めて運転席に移動する。後ろの二人と一匹をバックミラーで確認し、隣を一瞥した。こちらを見ていたエミリーと目が合う。


「行こうか、エミリー」

「はい」


 はにかむように頷いたのを実見して、ハンドルを握った。

 俺たちの旅路はこうして続いていくのだ。

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異世界プランナー旅行記 めぐむ @megumu

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