レター星人

クロノヒョウ

第1話



 銀河系の隅にある小さな惑星『レター星』


 この星の巨大なビルの中では今日も多くのレター星人たちが慌ただしく働いていた。


 その一室には机の上に山積みにされた手紙を必死に読んでいる部署があった。


「まったく毎日毎日よくこんなに集まるもんだよな」


「本当だよ。みんなどんだけ手紙書いてんだって話し」


「ホントホント」


 宇宙中から投函されてレター星にくる手紙は毎日大量に山のように積み上げられていく。


 この計り知れない数の手紙を読み、星ごと、さらに内容ごとに分類する。


 それが彼らの仕事だった。


「仕方ないよ。ペーパー首相が一年前に『宇宙ポスト』なんか作っちまったからな」


「ああ、何だったっけ、『あの頃の渡せなかった手紙、捨てようにも捨てることができない手紙、そんな手紙はレター星が大切に保管いたします』だっけ」


「ハハ、そうそう、それ」


「それでペーパー首相が全宇宙の星に『宇宙ポスト』を設置したんだ」


「ポストに入れると瞬時にこの部屋に落ちてくる」


 レター星人のひとりが部屋の奥の天井を見上げた。


 そこは異空間の穴であり全宇宙の『宇宙ポスト』と繋がっている。


 カサッ、カサッと休む暇もなく手紙が落ちてくるのだ。


「そういえば、そろそろ時間じゃないか?」


 ひとりが時計を見ながら言った。


「そうだな、そろそろかな」


 みんなが手紙を読むのを止めて異空間の穴に注目した。


 カサッ。


「ほら来た」


「早く読んでくれ」


「待ってろ」


 ひとりが今落ちてきた水色の封筒を取りに行った。


「地球語の担当はお前だけだからな」


「わかってるって」


 そう言いながら水色の封筒を開けてみんなの前に立った。


「よし読むぞ」


 地球語担当のレター星人はウホンと咳払いしてから読み始めた。



『みなさんこんにちは。

 今日もお仕事ごくろうさまです。

 ボクがレター星のみなさんに手紙を出すようになってから一ヶ月になりました。

 ちゃんと届いているのか読んでくれているのか心配です。

 でもお母さんはちゃんと読んでくれてるわよと言ってました。そのうち返事でもくるんじゃないの。とも言ってました。

 ボクはそれをきいてとてもうれしくなりました。

 レター星から返事がきたら学校のみんなに見せてやるんだ。

 そしてレター星の友達だよってみんなにじまんしようと思ってます。

 レター星のみなさん、いつもボクたちの手紙を大切にほかんしてくれて本当にありがとうございます。

 おばあちゃんが喜んでました。

 自分が死んだら捨てられてしまうおじいちゃんからのラブレターがずっとレター星にあると思うとうれしいって。

 だからボクもうれしいです。

 ではまた明日。

 こうすけより』



 地球語担当が読み終えるとみんなは深く息を吐いていた。


「返事……出したいよな」


「うん……きっとこの子は、こうすけくんは待ってるぞ」


「こうすけくんのおかげで俺たちは頑張れてる」


「ああ。お礼が言いたいな」


「うん」


 みんなの気持ちは固まったようだった。


「書こう、返事」


「そうだよな。みんなで書こう。俺が有休とって地球に行ってくるよ」


「えっ……お前……いいのか?」


「こうすけくんのためだ。それに地球語がわかるのは俺だけだしな」


「でも往復するのにどれくらい時間かかると思ってんだよ。地球に行くまでには高速船でも一ヶ月以上はかかるんじゃないのか?」


「そうだよ、それにお前がいない間の地球からの手紙はどうすんだよ。地球は今やっと手紙から電子に変わってるところだから一番数が多いんだぞ」


 地球語担当はそれを聴いてクスリと笑った。


「心配するな。こうなることもあろうかとちゃんと準備してたんだ。今、俺の息子に地球語を教えてる」


「は?」


「そうなのか?」


「ああ。まあ遅かれ早かれ誰かに教えなきゃならなかったからな。ちょうど息子が地球語に興味もってな」


「スゴいなお前」


「天才だよ」


「ハハ。それに、そう長くは休まなくていいと思ってるんだ」


「……何かあるのか?」


「うん。よく考えてみてくれ。ホラ」


 地球語担当は天井を指さした。


 みんなの視線は天井の異空間の穴へと集中した。


「……まさか……お前」


「わかったか?」


「嘘だろ? そんなこと……」


「できるんじゃないか? 地球から俺は『宇宙ポスト』に入る」


「一瞬でここに……」


「戻ってこれる……」


「……のか?」


「まあ、やってみるよ。それより早く手紙を書こう」


「お、おう……そうだな」


 みんなは不安になりながらもこうすけくんという地球人に向けての手紙の返事を考え始めた。




 ――二ヶ月後――


 レター星の巨大なビルの中の一室。


 みんなの視線は天井の異空間の穴へと向けられていた。


 みんなの手紙を持って地球に行った地球語担当が穴から戻ってくるのを毎日のように待ち構えているのだ。


「そろそろ地球には着いてるはずだよな」


「ああ。こうすけくんには会えたかな」


「アイツのことだ。きっと上手くいってるさ」


「そうだよな……」


 ドサッと大きな音がして地球語担当が笑いながら落ちてくるのを想像してみんなは笑顔になっていた。




          完



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