第16話 初出し情報……え、待ってこれ手震えるんだけど




「かひゅー、かひゅーっ」

「頑張れ大司、もう少しの辛抱だ」



 昇降口玄関に足を踏み入れた俺と大司は内履きに履き替えると、保健室へと歩みを進める。暑い外に比べれば廊下はだいぶひんやりとしていた。廊下を左に曲がった場所に保健室はあり、こちらとはそんなに距離は離れていないのですぐ到着するだろう。


 肩を貸している大司の様子をちらりと覗き込んでみると相当苦しそうだ。風邪をひいて苦しんでいる時に発覚したあーたんの熱愛。そのダブルパンチの尾が引いた不健康な状態で運動していたのだから、眩暈めまいと気持ち悪さに襲われるのも当然だと俺は思うんですの。


 走った後は蒸し暑い体育館でバミトントン(バドミントン)をする予定だったのだから、そんな地獄で見学するよりかはクーラーの効いた保健室で休んでいた方が良いに決まっている。



「———よし、着いたぞー」

「す、すまねぇ拓哉……」



 そうして三分も掛からずに保健室の前へ到着。扉をスライドさせて保健室の中に入ると、そこには思いがけない人物がいた。



「え、小泉さん?」

「ひ、響野くん!? 一体どうしたんですか!?」

「それはこっちの台詞……って、あぁ、そっか」



 艶やかな黒曜石のような綺麗な黒髪をヘアゴムで結っている———所謂ポニーテールにした可憐な小泉さんは、体操服姿で救急箱を持ちながら驚きの表情を浮かべていた。そのすぐ側にはもう一人のクラスメイトの女の子が治療用の簡易ベッドに座っており、どうやら小泉さんはその女子に応急処置を施そうとしているようだった。


 同時にゴリ先が最後に呟いていた言葉に合点がいった。



(なるほどな。ゴリ先が言ってた二人ってのは、保健室に行く生徒のことだったのか)



 現在進行形で体調不良で顔が真っ青な大司と、左足の膝を擦り剥いて怪我をしたらしいクラスメイトの女の子、杉本すぎもとゆう。つまりゴリ先は保健室に用事がある生徒のことを呟いていたのだ。全く、意味深な言葉を残して走り去らないでほしいぜ。ややこしい。


 まんまるとした瞳で視線を向けていた彼女だったが、隣で肩を貸している大司を見ると俺と同じような反応を見せる。どうやらここに来た理由を察したみたいだ。



「響野くん、具合が悪い光明院くんを保健室まで連れてきたんですね」

「あぁ、そうなんだ。ちょーっと不摂生が祟ってこのザマ。そういう小泉さんは、怪我をした杉本さんの連れ添い?」

「はい。侑ちゃん、私と一緒に走っていたら横で思い切り転んでしまって……。うぅ、あの時咄嗟に手を伸ばせていたら……」

「鏡花は気にしないでいいよー。こんなの大したことないからだいじょーぶい」

「ごめんなさい、侑ちゃん……」



 普段通りどこか眠たげな気の抜けるような顔と声でそのように声を掛ける杉本さん。きっとその場にいた小泉さんを気遣ってのことだろう。罪悪感が滲んでいる彼女だが、杉本さんの言葉は本心のようだった。女子グループらと混じっていつも一緒に行動しているからか、その間には信頼が伺える。


 既に水洗いと消毒が済んだ擦り傷は見るからに痛々しいけれど、少々場違いではあるもののなんだかそのぽやぽやした空気感はこちらまでほっこりしてしまう。


 ふと俺は保健室を見渡す。



「あれ、そういえば二人とも。保健室の先生はいないの?」

美南みなみ先生、どうやら今日は有給休暇でお休みみたいなんです。幸いにも保健室は開放しているので、先生のどなたかに断ったら自由に使っても良いそうですよ」

「そうなんだ」

「つまりキミも私もサボり放題って訳だねー。やったー」



 ショートボブのふわふわとした茶髪を揺らしながらそのように言う杉本さんだったけれど、彼女の膝に絆創膏を貼っていた小泉さんはむーっとした表情で口を開いた。



「こら侑ちゃん、本当にそんなことしたら今度からお昼ご飯のときお弁当のおかず分けてあげませんよ?」

「えー。鏡花、それは困る」

「ならサボるのはメッ、ですよ。あ、響野くん。今日もお弁当のおかず交換しましょう!」

「あ、本当? やった、ありがとう」



 返事を返しながら俺は大司をベッドに連れて行く。ちょうど保健室には小泉さんたち以外誰もいなかったので、二つあるベッドのうち奥側の一つを使わせて貰おう。


 最近小泉さんと昼食を一緒に食べる際におかずを一品だけ交換するのだけれど、これがまた美味しいのなんの。流石清楚系S級美少女、毎日作っているだけあって大変美味しゅうございます。



「拓哉、あ、ありがとな……。つーかめっちゃ仲良いじゃん……」

「ま、そうだな。あ、大司ちょっと待っててくれ。ベッドで寝る前に汗拭いとかないと。あと水分補給もな」

「おかん……」

「誰がお前のスーパーゴージャス世話焼きおかんじゃ」

「そ、そこまで言ってねぇ……」



 俺はおかんじゃあない、シスコンだ(デデン!!)。確かに梓の体調が悪くなったときに何度も看病をしたので世話を焼くことに全く抵抗はないのだけれど、流石にドルオタ、しかも野郎のオカンになった覚えはない。


 さて、ベッドに腰掛けた顔色の悪い大司を待たせても悪いので、いそいそと準備を進めていく。保健室の備品を勝手に使うのは気が引けるけど、病人がいるのだからこの際仕方がない。


 えーっと、適度な大きさの桶とタオル、紙コップに水を注いでっと……。あ、冷却シートも一応探さないとなぁ。



「二人は仲が良いねー。いつも教室で一緒なだけある」

「あはは、シスコンとドルオタの団結力というかなんていうか」

「これぞシス×ドルの絆、だな」

「なんかキモいからやめなー。……でもそれを言うなら杉本さんと小泉さんだってそうでしょ?」

「うん、ウチらはずっ友だから。ねー鏡花?」

「はい、侑ちゃん! ずっ友です!」



 はい、とっても微笑ましい光景ですね(にっこり)。美少女二人が見つめ合って微笑み合っているのは良い文明だと俺は思うんですよ。


 思わずほっこりとした気分になりながら、大司に水の入った紙コップを渡す。しっかりと水分を取れている様子を確認出来た俺は、そのまま桶に水を張りながらタオルを浸した。どうやら自分で汗を拭けるらしいので、絞ったタオルを大司に渡すとのそのそと顔や体を拭き始める。


 すると、こちらをじーっと見ていた杉本さんが言葉を紡いだ。



「でも、生真面目な性格でこれまで一度も彼氏が出来たことがない鏡花がまさか学校一のシスコンくんに惚れちゃうなんてねー」

「ゆ、侑ちゃん。私、そんなにわかりやすいですか……?」

「んー、もうゾッコンって感じ?」

「う、うぅ、これでも抑えてる方なのですが……」

「気付くな、って方が無理あるぜ……っ」



 杉本さんの指摘に小泉さんは顔を真っ赤にさせながらぐるぐると目を回す。杉本さんの言葉から察するに、どうやらずっ友である彼女には自分が俺に好意を抱いていることを伝えていたらしい。そして大司、あれから薄々感じてた上で言わないでくれてたんだろうけれどさっさと横になって黙らっしゃい。



「ま、前途多難だろうけど頑張りなさいなー。シスコンくんほど妹ちゃんに一途だったなら、鏡花のことも任せられるしね。ウチは二人の進展を応援してるよー」

「あ、ありがとう杉本さん。でも、前途多難って……?」

「それはまぁ色々だよ。鏡花のことだったり、シスコンくんの攻略だったり、あとはまぁ……周りかな?」



 はて、周りとは一体どういうことだろうか。はにゃ? 思わず俺は首を傾げていると、そのまま杉本さんは言葉を続けた。



「あれ、知らない? 鏡花ってひたむきで優しい真面目な子だから、この高校にファンクラブがあるんだよ?」



 いや初耳なんですけどぉ!!??

















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シスコンな俺、不審者に襲われているクラスメイトの心優しい清楚系S級美少女を助けたら惚れられて、いつの間にか溺愛されるようになりました。 惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】 @potesara55

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