第15話 なぁドルオタ、カルシウム足りてるか?





「なぁなぁ聞いてくれよ大司」

「はっ、はっ」

「昨日梓におねだりされてマッサージしたら『好き。大好き。私のこともちゃんと見て』って言ってくれたんだ」

「はっ、はっ、はっ」

「小泉さんとよくメールしたり最近寂しい思いをさせていたのは申し訳ないけれど、つまりこれって俺に構ってほしくて嫉妬してたってことだよなぁ。それでマッサージお願いする俺の妹マジ可愛くない? もはや相思相愛じゃね?」

「うんわかった取り敢えず黙れ」

「えぇ……」



 俺のかけがえのない存在であるマイスウィートシスター、梓にマッサージを行なった次の日。体育の授業でクラスの奴らと一緒に高校の敷地周りを走っていた俺は、隣にいる大司に話し掛けるもそのように一息で無下に言葉を返された。解せぬ。


 因みに今日の朝も、俺より先に中学校に登校しようと玄関にいた梓に「俺も梓のことがメチャクチャ大好きだぞ!」と言ったら「……まぁおにいちゃんだもんね」と何故か深く溜息を吐きながら肩を落とされた。解せぬパート2。


 どこか諦めないような表情を浮かべながら、行ってきますとそのまま学校へ向かった梓だが一体なんだったのだろうか。


 さて、話を戻そう。今にも体力が底を尽きそうな程ヘトヘトになっている大司だが、なんとか声を張り上げる。



「今! 持久走! 三周目! まだ! 一周! 残ってる! どうして! お前! そんなに元気ホワイ!?」

「何故にカタコト?」

「俺疲れてる! お前惚気のろける! 殺意みなぎる!!」

「ラップすんな」

「してねえよ!!」



 ラップ口調でどこぞの戦闘民族みたいなことを言い出したので生暖かい目を向けたのだが、どうやら気に入らなかったようだ。


 あれから大司はあーたんに熱愛が発覚して以来、まともに寝付けないらしい。俺の一緒に探したりしたのだが、今のところ残念ながら大司のお眼鏡に叶いそうな惹かれる子はいなかったようだ。寝不足やまともに食事が通らない所為で本来の運動神経抜群の体力もガタ落ちである。


 疲労も相まって少々目付きに殺気が籠っている大司だが、そこまでキレなくても良いだろうに。



「だいたい、どうしてお前は疲れてないんだよ……っ? 俺はともかく、拓哉はそこまで体力なかった筈だろうが……っ!」

「うーん、梓のことを考えていたらいつの間にか三周目まで走ってた。おかげで疲労感は全くないぜ。……あれ、俺なんかやっちゃいました?」

「ラノベ主人公降臨させてんじゃねぇーーー!!!」



 途端にそう叫ぶと一気にダッシュして前にいた同学年の生徒をごぼう抜きしていく大司。寝不足に加え栄養不足……明らかに身体に負担が掛かりすぎているような気がするのだが、大丈夫だろうか? あとカルシウム足りてる?


 それはともかく———フッ、これぞ我が愛する妹への純粋な想いが為せる技。俺はこれを……そう、『愛する妹シスター夢幻機関フルドーピング』と名付けよう(キメ顔)。俺の脳内フォルダに保存されている何かしら梓のきゃわいい姿や出来事を想像することによって「あれ、俺いつの間にここまで走ってる……!?」と自分自身に錯覚させ、無限に身体を酷使させることが出来るすんごい技である。


 …………まぁ途中で意識しちゃったらジ・エンドなんですけどね!!



「はぁ、はぁ……っ! しゃぁ!」



 『愛する妹シスター夢幻機関フルドーピング』の効力が切れて息切れが目立ち始めるも、なんとか脚に力を込める俺。


 現在校舎周りを男女一緒に走っている訳なのだが、男子は四周であるのに対し女子は一つ少なく三周。三周目でもなお疲労なんて知らないとけろっとしたような表情で俺の背後から抜き去る女子を見て、俺は気合を入れ直した。


 因みにちょっと止まって休憩したり歩くなんてサボる選択肢はない。何故なら生徒のお目付役である先生も一緒に走っているからだ。美人な女性教師ならばみんなの清涼剤にもなったのだろうが、残念ながら身体のガタイが良く顔がゴ……だいぶ個性的なご尊顔をしておられる男性体育教師、山本やまもと五里助ごりすけ先生略してゴリ先が率先して走っている。おかげでプレッシャーが重いのなんの。


 生徒思いの心優しい性根に涙がちょちょぎれそうですハイ。……ぴえんっ。



「ん、何してんだあいつ……?」



 そんなこんなして一生懸命頑張って走っているうちに、先程全力ダッシュをキメて俺を置いて行った大司の姿が見えてきた。どうやら俺の危惧した通り身体に限界が来たようで、電柱に寄り掛かりながら目頭を押さえていた。


 他の生徒はそんな様子の大司に視線を向けるも、バレないように休憩しているだけかと察して通り過ぎていく。ただ、遠目ながら普段とは違う彼の様子に俺は思わず訝しげな表情を浮かべた。



「どうした大司、大丈夫か?」

「わ、悪い拓哉。ちょっと立ちくらみしただけ。すぐに良くなる……っと」

「おいおいフラフラじゃん。無理すんなよ、保健室行くぞ」



 弱り目に祟り目とはまさにこのこと。俺が大司に肩を貸しながら歩いていると、後ろの方からドスドスドスドスッ!と地ならしのような激しい音が聞こえた。そう、音を聞いただけでわかる。これはゴリ先が走ると発生する衝撃だ。



「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ!! ……っと、おいどうした二人とも、サボりはいかんぞ!?」

「あ、ゴ……山本やまもと先生。ちょうど良いところに」

「ど、どうした響野くん、唇から血が出てるぞ!?」

「気にしないでください」



 ギョッとした表情を浮かべるゴリ先だが、咄嗟に思い切り唇を噛んだのでゴリ先と呼ぶことは阻止出来た。……あっぶねぇ。普段は気の良い先生なんだけど、ゴリ先キレると怖いんだよなぁ……。それで何人の生徒が犠牲になったか……っ。


 何はともあれマジでグッドタイミングだ。ペロペロペロ。うーんこの鉄の味。



「大司が具合悪いみたいなんです。このまま保健室に連れて行っても良いですか?」

「なぬ、光明院くんが!? おい大丈夫か!? よければ私が保健室までおぶって行こうか!?」

「あ、俺は、拓哉とゆっくり行くんで……はぁ、先生は、授業しててください……」

「そうか……なら響野くん、光明院くんのことを頼む。この授業はいいからしばらく一緒にいて様子を見てあげなさい」

「うぃっす。ありがとうございます」

「杉本くんと光明院くん……これで二人か」

「?」



 ぼそりと言葉を残して再びドスドスと衝撃波を発生させながら走り去って行ってしまったゴリ先。まぁ別に俺が気にすることじゃないだろう。


 こうして俺は大司と一緒にゆっくりな足取りで保健室へと向かったのだった。ひゃっほいサボれるぜぃ!

















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グラブルたのちい(白目)。投稿時間遅れてごめんなさい。


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