第2話 夜のファミレス
「すみません、ドリンクバー2つ。あと、熱々ドリア・フライドポテト・ベーコンサラダをください」
「かしこまりました!ドリンクバーはあちらにございますのでご自由にお持ちください」
夜の9時。俺ら二人はファミレスに来ていた。客層はサラリーマンや大学生のようなカップルなどが大半で、お昼ごろのような子供の声もなく、店内のBGMと時折聞こえる笑い声と大人のような雰囲気があった。
「自己紹介が遅れました。私の名前はエル=シャルマリーといいます。23歳で父がアメリカ人、母が日本人なので日本語に関しては母から習いました。だから、書いたり読んだりすることはできます」
「あーそうなんですね、だから上手なのか。あ、上野一樹です。26歳のフリーター・・・夢に向かって日々生活していますと言っていいのか?そんな感じです」
できれば自己紹介なんてしたくなかった。自分の年齢を聞いたら普通は社会人3~4年目に入る。それが俺はどうだ、スーパーの商品整理やレジをやるだけのしがないバイトで夢を追っているなんて言うけどそれが今では恥ずかしくなる
「・・・ドリンクバーでも取ってきましょ」
話の流れを変えるように席を離れる。少しでも嫌な気持ちを忘れたいからでそのまま話を続けていたらきっと思い出してしまうから
・・・・・・・・・
「おおー、夜にここまで食べると少し罪悪感がくるなぁ。それじゃいただきます」
エルさんは手を合わせてドリアから食べていく。母親から教わったのか、手を合わせて食べ始める所作は日本人らしかった。
「しかし、こんな夜中によく食べるな。見ただけで少し胃もたれしますよ」
「お腹が空いていたんです。食べたものだって軽食ってかんじだったんで何かお腹に溜まるようなものを食べたかったですよ。あと、敬語やめてください。公的なところ以外で使いたくないんで」
「はいはい…わかった、今からやめる事にするよ」
僕の返事に満足したのか、再びポテトやドリアを食べ始める。俺は彼女の食べている姿をウーロン茶を飲みながら眺めていた。
「ところで、東京に来た理由ってなんなの?観光とか?」
「それもありますけど、一応、私フリーのライターとして仕事しているんです。文化について書いていたりしているんですけど、取材ついでに観光をしようかなぁって」
彼女自身、住んでいる地域はアメリカらしく今回、長期滞在として日本を選んだらしい。
(なんかよく聞く話だな、やっぱり日本って向こうの人からしたら面白い国なのかな)
確かに文化的にもかなり幅広いし面白い国だと思う。歴史的なものも十分世界に誇れるものがあるし、食べ物だっておいしい。娯楽的なものでもアニメやカラオケなどほかの国とは違った文化を持っているし取材に適しているだろう
「それで国を渡ってきた感じなんだね~、、、いやーすごいわ。その行動力にほれぼれするよ」
「まぁ、仕事の一環なのでそこまですごいことじゃないですよ。一樹さんはそういったものは持ってないですか?行動力が突き動かすものが・・・」
一瞬、執筆稼働と言いかけたけど寸前で止めた。彼女とレベルが違うこの趣味のようなものを言うのが恥ずかしくなったから
「俺は・・・特にないよ。ただ日々の生活を生きているだけさ」
「・・・その生活って楽しいんですか?」
楽しいはずがない、つまらないに決まっている。年下の社員から君付けで呼ばれていいように使われ、パートのおばちゃん連中からは陰口を言われ続ける生活が楽しいだろうか。
夢に向かって~なんていうけど、執筆活動だって今は全くしていない。昼まで寝て暇さえあれば、競馬をしてお酒を飲む。夢をつかむ活動なんて忘れた記憶になっていた
「楽しいはずがないよ。けれど、その人生が俺には似合っているんだよきっと」
「自暴自棄に見えますよ、その表情も何かをあきらめているようですね」
彼女は立ち上がり「飲み物をとってきます」と席を離れた。食べ終わった皿を店員さんが下げ、テーブルには伝票しかない。数時間前に出会った彼女に全てを見透かされているようだった。
「ただいま戻りました、どうしたんですか?何か考え事でも・・・」
「いや、なんでもないよ」
「そうですか。あ、先ほど電話がかかってきて最寄り駅に友人が来てくれたのでこれを飲み終わったらでましょうか」
それからお会計までの30分間、互いに話すことなく時間は過ぎていった。
・・・・・・・・・・・
「少しの時間でしたが、楽しかったです。夕飯までおごっていただいて」
「ファミレスだし気にしなくていいよ。お仕事と観光、楽しんでね」
「ふふ・・・そうだ、連絡先でも交換しましょう。このファミレスのお礼、させてください」
こうして互いに交換し合い、彼女は駅のほうへ歩いて行った。
不思議な夜だ。こうして人と話していて自然と笑ったのはいつぶりだろう
偶然の重なり、、、それはまだ続いていく
街灯テラス Rod-ルーズ @BFTsinon
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