告白
「……!」
頭の中が真っ白になった。
冷静になっていた頭が再び熱を持つ。頬も、胸も、手足の先のその末端も。
恐怖ではない何かが心臓に薪を
「……はっ。なんだよ、それ」
無責任なこと言いやがって。
百人や二百人余裕だって? そんなに食べたことないんだから分からないよ。満腹になったこともないから尚更。
「分かったよ」
ぐっと背筋を伸ばし、手足の筋肉を解す。尻ポケットに入れたナイフの柄を弄ぶ。
身体が軽い。こんなの人間を口にした時以外じゃ経験がない。
あーくそ、なんて単純な脳みそ。犬でも道具でも無いっていつも突っぱねているくせに、無条件に信頼を寄せられるだけでこんなにも血流が加速するのか。
今度から怒り以外の感情も抑えるようにしなくちゃ、餓死まっしぐらだ。
まあ暫くは困らなさそうだけど。
「ボーナス期待してるからね。一人につき十でどう?」
『そ、そこは要相談じゃない!?』
とにかくタダ働きは御免だからね。一般人と同じ利率だと死んじゃうよ、私。
『まあ元気になったら良かった! じゃあ待ってるから!』
電話を切って光沢のある小石を蹴飛ばす。からからと転がっていくそれにスポットを当てるかのように、細い光が差し込んだ。
重たい鉄扉が開く。人一人分空いた隙間に滑り込むようにして廃工場に入ってきたのは、当然のことながら荒垣だ。光を背負うと四角いシルエットが際立つ。
「タソガレさん、お待たせしました」
錆びついた扉が閉まる。静寂と暗闇が慌てて光から逃れてくる。外界から隔絶した途端に温度が下がるような心地がするのは、酷薄なことを考えている私のせいだろう。
スマートフォンをしまいこむ代わりにナイフを取り出す。ぐっと柄を握り込むとごちゃごちゃとしていた何もかもが解れて溶けて消えてなくなる気がした。朝方の空気にも似た、透明のイメージに浸る。
「玉蟲さんですか?」
「ええまあ。進捗報告といいますか。それでそっちはどうでした?」
「駄目ですね。いや覚悟はしていましたが、大概燃えて無くなってしまったようで……見つかったのはこれくらいです」
差し出されたのは見覚えのあるスマートフォン。ところどころ溶けかかった、パンクなアレだ。強烈過ぎて見間違える訳がない、檜山のだ。すごいな現代科学、こんなに形残るものなんだ……うわ、電源までつくぞ。耐火スマホってあるの?
「何もないよりはいいですが、パスワードも分かりませんし、手がかりとは言えませんね。そちらは?」
「こっちも似たようなもんです。不法侵入かましたアホな若者が殺されたらしいんですが、その『ヒビカ』ってのが関与してるかどうか分かりませんし……見ての通りのもぬけの殻で」
「いやあ非常に言い難いんですが……」
荒垣は言葉とは裏腹にやや興奮した声音で言った。
「それをやったのは私です」
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