第2話 恋愛感情が薄い私だけどうまくやっていけそう

「照れない照れない。それじゃー、おやすみ!明日からもよろしく!」


 一通り恋人の会話を楽しんで、電話を切る。

 もう今日が終わろうとしていて、天井から降り注ぐ光はお昼のような昼光色から、温かみのある昼白色に移り変わっていた。


 そんなオレンジの温かみのある色も今は私を優しく照らしてくれているようなそんな気がする。


(ゆうちゃん、可愛かったなあ……)


 告白してくれた時の緊張した声と真っ赤な顔。

 精いっぱいに真っ直ぐな言葉を届けてくれた。

 あの時は本当に嬉しかった。


 昔から私はゆうちゃんをよく思っていた。

 人とずれることが多い私をフォローしてくれたからとか。

 二人だけの想い出の中で、とか色々あるけど。


(でも。私が大事に思ってるのは確かでも)


 俗に恋と呼ばれる感情が希薄なのは前からわかっていた。

 中学に入って男子も女子も色気づくなか、私は


(ふつーはもっと恋愛に食いつくものなんだ)


 と何かを外から見るような気持ちだった。


 でも、ゆうちゃんに友達として以上の感情があったことも確かで。

 ゆうちゃんに誕生日を祝ってもらった時、初詣に一緒に行ったとき。

 なんでもない日にゆうちゃんの家で一緒に遊んだとき。

 何か胸にじんわりと込み上げてくることがあった。


 ただ、やっぱり恋愛感情が薄いなと思うのは、


(でも、ま、いっか)


 生まれた感情を適当にどけてしまえるところだろう。

 だから私からゆうちゃんにアプローチする気にはなれなかった。

 でも私も恋人という関係に憧れもあるし彼氏欲しいという見栄もある。


「恋に夢中って感じじゃないけど、結構楽しいかも」


 ゆうちゃんとの関係にしたって今までよりも楽しくなりそう。

 友達同士だから踏み込めなかったところだってわかるかも。

 二人っきりで旅行してもみたいし、周囲に彼氏自慢もしてみたい。

 

(明日はどうしようかな)


 次第に瞼がとろんとしてくる。

 ゆうちゃんとこれまでよりもっと楽しい日が過ごせるんだろうな。

 そんなことを考えながら意識が飲み込まれていったのだった。


◇◇◇◇


「のんはなんか機嫌良さそうね。何かあったの?」


 パンをもそもそとかじっていると、お母さんが何やら生暖かい目をしている。


「ふっふー。実はゆうちゃんとお付き合いすることになったのです!」

「意外ね」

「娘に彼氏ができたのに意外とか言う?」

「だって、のんは前から恋愛に興味なさそうだったでしょ?」

「多少はそうだけど、私だって憧れはあったの」


 ゆうちゃんの告白が嬉しかったからでもあるけど。


「でも、ゆう君ならしっかりしてるし、優しいし安心ね」

「ゆうちゃんとならずっとうまくやってける気がするなー」

「のんはちょっと抜けてるところあるから、ゆう君に負担かけ過ぎないようにね?」

「わかってるってば。そういうことだから、土日とか出かけること増えると思う」

「さすがにお泊りの時は言いなさいね」

「……うん」


 お泊り。その言葉で「その先」をちょっと意識してしまった。

 昨日、キスを唐突にしたのは自らの気持ちを確かめるためでもあった。

 じんわりと嬉しい気持ちが込みあがってきたけど、初キスでも冷静だった。

 「そーいうこと」をするときの私はどんな気持ちになるんだろう。

 キスと違ってさすがに羞恥心や不安でいっぱいになるんだろうか。

 それとも、キスのときと同じようにやっぱり平気だったりするのかな。

 

(考えすぎても仕方がないか)


「じゃあ、今日からゆう君誘って一緒に登校?」

「いつも寝坊助な私のために来てくれるから、時々は私からね」

「ほんと、ゆう君には頭上がらないわねー」

「ほんとほんと」

「自覚があるならもうちょっときっちりしなさい?」

「はーい」


 登校の支度をして、彼の家に行くことを想像してちょっと心が浮き立つ。

 登校するときはゆうちゃんが誘いにくる事が普通。

 こっちから誘いに行くのは滅多になかった。


「愛しい恋人からのモーニングコールだけど、起きてる?」


 こんなちょっと茶化したお話が出来るのも付き合ったからこそ。


「のんちゃんが珍しいね。今日は雷雨かも」

「ひどい……」

「いやだって、ねえ」

「否定できないけど、私も甘酸っぱい恋人生活をしてみたいの」

「じゃあ、お待ちしておりますね。お姫様」

「うむ。くるしゅうない。じゃあまた後で」


 ゆうちゃんの部屋がある一軒家の前で合流。

 二人で手を繋いで登校してるわけだけど。


「ゆうちゃん、ひょっとして恥ずかしい?」

「聞かなくてもわかるでしょ」


 確かにその通り。

 意外に小さくて白い彼の手のひらまで赤くなっている。

 対する私はと言えばいつも通り。

 そんな風に私のことで恥ずかしがってくれるのが嬉しくて。

 そして、


(かわいいなあ)


 なんて思ってしまう。ゆうちゃんに言うと拗ねるだろうけど。


「ね。キスしたいんだけど、いい?」

「ええ?いい……けど、なんでいきなり」

「したくなったから」


 そのまま勢いで少し小柄なゆうちゃんを抱きしめて、

 唇と唇を合わせる。

 はぁ。やっぱり昨日も思ったけど、キスはいい。


「やっぱりキスだとはっきり愛情感じられるよー」

「のんちゃんの感じみると、毎日でもキスしたい流れ?」

「ゆうちゃんが良ければそうしたいけど。どう?」


 我ながらどうかと思う。

 キスすると恋愛感情が補充される感覚がある。


「じゃあその……お願いするね」

「お願いしてるのは私なのに」

「もう、こんなお付き合いになるなんて思ってもみなかった」

「でも、そんな私もいいんでしょ?」

「まあそうだけどね」


 目を見合わせて笑いあう私たち。


 空を見ると相変わらずのいい天気。

 少し恨めしくなるくらいに照り付ける太陽。

 時々見る飛行機雲。

 真っ青な空。


「夏休みは二人でどっか行く?」

「うーん。行ってみたいところは色々あるね」

「夏祭りに浴衣来てくれたり……は無理か?」

「変な想像してる?」

「してないって」

「ま、いっか。うん。浴衣来て一緒にお祭りいこ」


 ちょっと凸凹なカップルな私たち。

 でも、破れ鍋に綴蓋なんて言葉もあることだし。

 きっとなんとかなるよね。


 もうすぐ夏が来そうな予感を感じながら、

 これからの楽しい日々に思いを馳せたのだった。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

恋愛感情が「薄い」女の子と、ちょっとシャイな男の子のお話でした。


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お待ちしています。

☆☆☆☆☆☆☆☆

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片想いの幼馴染に告白したら恋人になれたけど、彼女は恋愛感情が薄いので色々困る 久野真一 @kuno1234

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