life to start over ~転生後は憧れのスパイでした~
@Whitestrawberry
序章 享年16歳
「あー面白かった!!」
夕陽ケ丘市で一番大きいショッピングモール、『パピュラティモール』3Fのカフェテリアでキャラメルマキアートをすすりながら桃は言う。
「本当に桃は、映画が好きよねー」
桃にそう言ったのは1歳年上の姉、凛。
「ちがう!私はね、映画が好きなんじゃなくて神女優、『美神アリス』様が演じる女スパイが好きなの」
夢心地でうっとりと桃が答える。
そう。高校一年生佐倉桃。彼女は小さい頃からスパイに憧れている。と言うか愛してやまない。もしドラえもんに会えたら真っ先にスパイにしてくれと言うつもりだ。
小さい頃は大人になればスパイになれると信じていたが、今となってはそう思わない。だからせめて『美神アリス』のようなアクション女優となって、見事スパイ役を勝ち取れるよう、とりあえず桃は、空手・柔道・パルクールの3つの技は習得している。
「まあ、あんたどう見てもスパイって柄しゃないけど」
凛は苦笑しながらアイスティーを飲み干す。
「ええーっ!?どうしてよ!私の何がいけないの?」
「え…。どうしてって言われても―」
(いやコイツ本当に自分がどういう性格が気づいてないわけ?)
凛はまじまじと妹の姿をみる。
透明度の高い肌に、最近張り切って染めた亜麻色の髪は天パで、ゆるく絡みついている。そして、薄いピンク色のカーディガンワンピがよく似合っている。
まあ、外見だけなら問題なかろう。凛は思った。ただ…
(コイツの性格が問題なのだァーッ)
凛は心の内でそう叫んだ。人生17年間妹を見てきてわかった。桃は周りの子とは異なる行動を数多くとってきた。いわゆる『天然』と言うやつだ。簡単に人のことを信じてしまう。だから凛にとってはいつもヒヤヒヤさせらていた。凛はどちらかと言えば疑り深い性格なのだ。それに桃は周りのことを気にしないことの方が多い。
例えば…そう。桃が高校に入学した時、機嫌の悪い教師に向かって「先生、機嫌悪いんですか?」と率直に言って凛はもう心臓が潰れるかと思った。それでも妹は誰からも好かれる存在であったことが唯一の救いだ。誰でと分け隔てなく接し、ポジティブ思考なので色んな人を元気づけてきた。
だけど…
(どう考えても騙されやすい妹がスパイっぽいなんてありえない!!)
出た結論。明確な答えが出るまで軽く1.8秒も高校かかってしまったではないか。
「まあ、とにかく『美神アリス』様には程遠いってことー」
妹に「あんたは天然」といっても正真正銘のド天然である桃には理解が出来ないのである。自覚が全くないという事だ。
「何だってーー!?」
その後、マカロンをチラつかせただけで機嫌がコロッと直ったのは言うまでもない。
「うーっさぶいね?」
「本当」
12月の夕陽ケ丘市は寒い。「北海道より絶対寒い!」と桃は言い張っていたが、昨年本物の北海道に行ってからは「前言撤回!」と叫んでいた。
それでと夕方になると5℃を下回る。
だがどうしてだろう。
冬の街景色は街灯や信号の光がぼんやり光っているような気がして桃は好きだった。ツーンとした風の匂いも、身を切るような寒さも。
「あっ、青になった。ラッキー」
偶然1秒も待たずに青になったので、これはラッキー!と思ったその時。
対向車線に飛び出そうとしている小さな男の子がいた。その子の連れらしきおばあさんは血相を変えて叫んでいるが、足が悪いのか上手く動けていない。
「助けなきゃ」と思うよりも先に桃は大通りに飛び出していた。
姉の「桃ーーーッ!!」と言う悲痛な叫び声を背に受け、必死で男の子を遊歩道にぶん投げる。勢いよく投げただけに背中を地面に強かに打ち付けているのが見えた。
(ごめんね。痛い投げ方だったよね。早く病院に…)
そう思うや否や男の子を投げた反動が来て自分が大通りに投げ出されてしまった。
(大丈夫。柔道で先輩に投げられた時の方が痛かっ…)
すぐに歩道に戻ろうと立ち上がろうとした時、桃は驚愕した。大きな大きな大型トラックが、わずか3cmに迫っていたのだ。
桃は人生の中で感じたことの無い恐怖に見舞われた。
そして、一瞬にして感じとった。自分に対する迫り来る死を…
桃はどうせ死ぬなら人のために死にたいと思っていた。畳の上で独り往生するより、人のために命をかけて死んだ方がよっぽどましだと思っていた。
ーが。
本望だったのに神様ありがとう言えないのは幸せな女子高生ライフを送っていたから。大好きな家族や友達に囲まれ、最終選考まで残ったオーディションの結果すら見られないまま死んじゃうなんて夢にも思ってなかった。
そこで桃は強く念じた。
神様お願いします。
転生させてください。
死んでもなお人生を歩みたい。
それから幸せな家族と共にね。
後、できれば偉大な大女優であると嬉しいです。
無理だったらいいけど女の子にして。
女スパイになれないから。
さあ、神よ私の願いを聞いたのなら
さっさと転生させて!
お願いね?
life to start over ~転生後は憧れのスパイでした~ @Whitestrawberry
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。life to start over ~転生後は憧れのスパイでした~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます