第27話 正体
「私とあなたが初めて出会った時のことを覚えている?」
一言で返すなら、俺はそれを覚えていない。
だが、そう返せば俺はどうなる?
目の前にいる涼風さん、いや、魔法少女スピカは俺を直ぐにでも攻撃する準備を整えている。
動悸が徐々に大きくなる。
何故こんなことになった。
俺が魔物? 馬鹿言え。そんなわけがない。
いや、涼風さんはお前は魔物だなんて言ってない。
それにも関わらずその発想が真っ先に上がる時点で、俺自身も分かっているのだ。
あるはずの高校一年時の記憶がはっきりしていないこと。
そして、前世の記憶なんて普通は無いものがあること。
「なにも言ってくれないのね」
俺が何も言えずにいると、スピカは悲し気に呟く。
そして、一度だけ目を閉じてから俺を真っすぐ見つめる。
「本当は、信じたくなかったわ。あなたは確かに去年から変わった。でも、それはあなたにとっていい変化だと信じていたから。それは私の勘違いだったのね……。さようなら。今までありがとう」
その瞬間、視界が真っ白に染まり全身が冷えていく。
薄れゆく意識の中、目に入ったのは俺より痛々しい表情のスピカだった。
違う、違うんだ。
そんな顔をさせたかったわけじゃない。
俺は、君が傷つく運命を変えるために生まれたはずなのに――。
そこで、ブツリと俺の意識は途絶えた。
***
「これで、よかったのよね」
目の前で横たわる冴無を抱えながらスピカ――涼風星羅は呟く。
さっきまでスピカの能力で氷漬けにされていた冴無の身体は少しだけ冷たいが、命に別状はない。
元々、魔法少女の力は魔物にしか通用しない。
一般人に使っても効果はない。
だからこそ、冴無の身体が凍ったということは冴無の中に魔物が潜んでいたという事実の証明であった。
「どうして、魔物になんてなってしまったの?」
その問いに冴無が答えることはない。
魔物になる者は皆、異常な自身の欲への執着を持つ。
つまり、冴無もそういう心があったのだ。
星羅は一年間ともにいたのに、冴無のその歪んだ思いに気付けなかった自分を責めると共に、何がそこまで冴無を突き動かしたのかを知りたかった。
「……これからやり直すしかないわよね」
冴無が目を覚ましたら、ちゃんと話をしよう。
亀田も須藤も最後には正気を取り戻した。ならきっと、冴無も正気になる。
星羅は心からそう信じていた。
だが、この世界は星羅にとってそう甘いものではなかった。
「キャアアア!!」
「ば、化け物だあああ!!」
悲鳴が辺りに響き渡る。
それと同時に、かつてないほどに嫌な気配を星羅は感じ取った。
「魔物……それも、相当強い」
冴無の身体をベンチに寝かせ、星羅は走り出す。
逃げるという選択はない。
仮にその先に悲劇が待っているとしても。
◇◇◇<冴無良平>◇◇◇
沈んでいく。
暗い闇の底へ消えてゆく。
だが、不思議と悪い気分ではない。
それはきっと俺がこの世界の不純物だったと自覚しているからだ。
今更になってようやく思い出した。
何故俺が生まれたのか。
前世の記憶なんておかしなものを持っていた理由は何か。
そして、誰が俺を生み出したのか。
「……ここまでか」
そう呟いたのは俺の直ぐ横にいるもう一人の俺。
いや、厳密に言えば俺を生み出したこの世界の冴無良平だった。
「結局、俺はまた何も守れないのか」
冴無良平はしけた面で俺を見る。
この物語の始まり、それは俺が涼風星羅を脅迫したことだが、本当の始まりはそこじゃない。
全ての始まり、それは冴無良平が魔法少女だった大好きな姉を失った日に遡る。
彼女が堕ちたら世界が終わる わだち @cbaseball7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。彼女が堕ちたら世界が終わるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます